院長の耳学問
(2014年6月28日更新)



『最近の内科学・消化器内科学・消化器病学・消化器内視鏡学に関して、当院院長が耳学問してきたこと』




(14/5/25日曜分)
日曜の休みをつぶして、今年3回目の日帰り学会(教育講演)に参加した。東京の国際フォーラムAホールで【平成26年度 日本内科学会生涯教育講演会Aセッション(消化器、内分泌・代謝、神経、アレルギー・膠原病、内科一般)】が開催されたのだ。例外的に、本日も私一人での出張。朝5時起きで白石蔵王駅6時20分発の新幹線に乗り、帰りは東京駅17時00分発の新幹線にのり、午後19時10分頃には白石市の塚本内科消化器科に帰着。叙々苑の焼き肉弁当を買ってきて、夕食とした。
生涯教育講演会は学会総会参加と異なり、参加登録には会場内で講演を朝から夕まで聴講することが必要だ。今回の会長である京都大学の三森経世先生は、9時25分の「開会の挨拶」から15時30分の「閉会の挨拶」まで、ずっと座長の労を務められた。講演者の都合で、講演4.と講演6.が入れ替わったことは、実際に聴講していた者しか知らない秘密だ。

平成26年度 日本内科学会生涯教育講演会Aセッション 講演表題
 1.Helicobacter pylori (Hp)感染胃炎の自然史理解に基づく胃癌診療   和歌山県立医科大学第二内科 一瀬 雅夫 先生
 2.自己免疫膵炎からみたIgG4関連疾患の概念  関西医科大学内科学第三講座 岡崎 和一 先生
 3.糖尿病の診断と治療最前線  高知大学内分泌代謝・腎臓内科 藤本 新平 先生
 4.治療抵抗性高血圧症の診断と治療最前線  東京女子医科大学内科学(第二)講座高血圧・内分泌内科 市原 淳弘 先生
 5.頭痛の病態生理と治療  埼玉医科大学神経内科 荒木 信夫 先生
 6.多発性硬化症の病態研究と治療の進歩  国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部 同 病院多発性硬化症センター 山村 隆 先生
 7.抗リン脂質抗体症候群の検査と治療  北海道大学大学院医学研究科免疫・代謝内科学分野教授 渥美 達也 先生
 8.関節リウマチの診断と治療〜Up-to-date〜  東海大学内科学系リウマチ内科学 鈴木 康夫 先生
 9.高齢者救急のピットフォール  京都府立医科大学救急医療学教室 太田 凡 先生

平成26年度 日本内科学会生涯教育講演会Aセッション 講演要旨

 1. Helicobacter pylori (Hp) 感染胃炎の自然史理解に基づく胃癌診療

 和歌山県立医科大学第二内科 一瀬 雅夫

 1983年のWarrenとMarshallによるHp分離培養の報告以来,多くの疫学的検討,動物実験,臨床研究による知見が集積し慢性胃炎,消化性潰瘍, 胃癌, 胃MALTリンパ腫など主要な上部消化管疾患に加え,特発性血小板減少性紫斑病などの発症に関してもH.pyloriの関与が明らかにされている。特に胃癌については,本邦を含めたハイリスク地域における発生の最大の要因が, Hpである事が広く認識されるに至っている。

1.胃癌発生のメカニズム
 Hpは1994年に,WHOにより胃癌のdefinite carcinogenに認定されている。その後,感染動物による発癌実験,Hpゲノム解析による病原因子解明,CagAの細胞内シグナル伝達機構への介入などの検討を通じ,Hpが胃癌発生に果たす役割が理解されるに至っているが,Hpによる発癌分子機構の詳細は充分解明されたとは言ぃ難い状況にある。しかし,Hpの発癌への関与がプロモーター作用を主体としたものである事は,感染動物やCagAトランスジェニックマウスのデータなどから容易に類推可能である。

2.胃癌発生の自然史
 近年の長期観察研究の結果は,@胃癌ハイリスク地域における発生胃癌の大部分がHp感染胃炎に由来する事,gastritis-atrophy-metaplasia-cancer sequenceが発生の主要経路である事,B前項のsequence進展に伴い胃癌発生リスクの段階的上昇が生ずる事などが明らかにされている。これらは主に分化型胃癌発生に関わる知見であり,もう一つの病理組織型である未分化型胃癌については,最近,慢性活動性胃炎が,直接的に未分化癌を発生させるハイリスク群を構成する事が明らかにされている (Int J Cancer 131:2632-2642,2012)。さらに,血清ベプシノゲン値および、抗Hp抗体価の二つの血液検査を駆使する事で,個人の胃癌発生リスクが予測可能で有り,特に上述の胃癌ハイリスク群の無侵襲的把握が可能となる事が明らかにされている。Hp感染から胃癌発生に至る自然史と胃癌発生リスクの推移に関する具体的な理解は胃癌診療に貢献する知見をもたらすばかりでなく,多くの課題を残しているものの,胃癌予防策構築に対しても強力な武器を提供することになる。

3.除菌治療による胃癌発生抑制
 Hp感染胃炎を対象とした除菌療法が2013年に保険適用となり,今後,胃癌発生が劇的に抑制され,最終的に胃癌撲滅に至るものと期待されている。しかし,このような除菌療法を巡る明るい将来予測の一方で,実際の診療においては除菌療法の胃癌抑制効果に関する理解が,実に暖昧な状態に留まっている事に留意すべきであろう。2008年には,本療法が早期胃癌内視鏡治療後の二次癌発生を1/3に抑制するとの前向き研究が報告されているが,この点については議論が絶えない所である。また,中高年のHp感染胃炎を対象とした除菌の胃癌発生抑制効果も劇的とは言い難いものであり,除菌後症例の管理については,感染持続症例と同様,慎重な経過観察が求められる状況にあることは間違いの無い事実であろう。一方,除菌効果はHp感染胃炎の病期によって異なり,感染持続期間が短く,萎縮性胃炎が軽度であるほど除菌による発癌抑制効果が高いことが報告されている。全世界的にも本邦のみで公費負担が認められている本療法の実効を挙げ,限られた医療資源の有効な利用を図る上で,運用に当っては,有効と考えられる対象症例の慎重な選別とそれぞれに求められる事後の経過観察に関する正しい認識の下,これらの情報を対象患者と共有しつつ,慎重に診療を行って行く事が重要であると考えられる。


演者略歴
一瀬雅夫 (いちのせ まさお)
〔略歴〕
1977年3月 東京大学医学部医学科卒業
1980年7月 東京大学医学部附属病院第一内科医員
1989年8月 東京大学医学部附属病院第一内科助手
1998年8月 東京大学医学部付属病院消化器内科講師
2000年6月 和歌山県立医科大学第二内科教授
2012年4月 埼玉医科大学客員教授
2014年4月 和歌山県立医科大学医学部附属病院副病院長
〔主な専門分野〕
内科学・消化器病学・消化器内視鏡学・消化器がん検診学
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会評議員・日本消化器内視鏡学会理事・日本消化器病学会財団法人評議員・日本消化器がん検診学会理事・日本がん検診診断学会理事・日本神経消化器病学会理事・日本高齢消化器病学会理事



 2. 自己免疫性膵炎からみたIgG4関連疾患の概念

 関西医科大学内科学第三講座 岡崎 和一

 自己免疫性膵炎 (autoimmune pancreatitis : AIP) とIgG4関連疾患 (IgG4-related disease : IgG4-RD) は,わが国より発信された新しい疾患概念である。AIPはステロイドに反応する膵腫大や腫瘤を認め,膵癌や胆管癌などとの鑑別が必要である。わが国で多く報告されているAIPは中高年の男性に多く,高IgG4血症を伴い,しばしば硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎(Mikulicz病),後腹膜線維症などの膵外病変を合併する。病理組織学的にlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis (LPSP) と称され,著しいIgG4陽性形質細胞浸潤,花筵状線維化 (storiform fibrosis),閉塞性静脈炎を特徴とする。一方,欧米ではIgG4関連の膵炎以外にも,臨床症状や膵画像所見は類似するものの,血液免疫学的異常所見に乏しく,病理組織学的に好中球上皮病変 (granulocytic epithelial lesion : GEL) を特徴とする膵炎である idiopathic duct-centric chronic pancreatitis (IDCP) も自己免疫性膵炎として報告されているが,IgG4関連膵炎とは別の病態である。最近,IgG4関連膵炎を1型AIP (LPSP),GELを認める膵炎を2型AIP (IDCP) とする国際コンセンサス診断基準 (International consensus diagnostic criteria : ICDC) が提唱され,それぞれを臨床的に診断可能となるとともに,初めて国際的な比較検討ができるようになった。しかしながら,国際コンセンサス基準 (ICDC) は一般医が使用するには煩雑であることや,わが国では2型AIPが極めて稀なことより,ICDCのコンセプトを尊重しつつ,わが国の実状にあったAIPの改訂診断基準が提唱された。
 一方,IgG4関連疾患は,免疫異常や血中IgG4高値に加え,膵,肝胆,唾液腺,涙腺,後腹膜腔など,全身臓器に線維化とIgG4形質細胞浸潤,閉塞性静脈炎など類似病変を認める特異な疾患群であり,1型AIPはIgG4関連疾患の膵病変と考えられている。多くの症例では複数臓器に病変が及び全身疾患としての特徴を有するが,単一臓器病変の場合もある。しかしながら,臨床・病理像は臓器により多少異なり,膵炎,硬化性胆管炎,後腹膜線維症などでは,著しい線維化による臓器障害が臨床的に問題となる一方で,リンパ節や涙腺腫大病変では,線維化は殆ど認めない。病因は不明であり,診断法や治療法も未だ確立されていないが,ステロイドの有効なことが多い。本疾患は,高IgG4血症や臨床・病理組織所見などより総合的に診断できることが多いが,各臓器の悪性腫瘍 (癌,悪性リンパ腫など) や類似疾患 (Sjogren症候群,原発性硬化性胆管炎 (Primary sclerosing cholangitis : PSC),気管支喘息,Castleman症候群など) を除外することが必要である。ステロイド治療の有効なことが多いため,膵,後腹膜,脳下垂体病変など組織診の難しい臓器では,ステロイド効果を認める場合,本症の可能性も考えられるが,感染症における病状悪化や悪性リンパ腫における縮小効果などステロイドによる病態の修飾もあるので,安易なステロイドトライアルは厳に慎むべきである。そのため,診断はできる限り病理組織を採取する努力をする必要がある。病態形成におけるIgG4の意義は不明であるが,制御性T細胞や制御性B細胞から分泌されるIL-10との関連性とともに, toll-like receptor (TLR) を介した自然免疫の異常との関連性が報告されており,病変の成立に複数の過程が存在する仮説も提唱されている。
 以上を背景に本講演では演者の専門である自己免疫性膵炎とともにIgG4関連疾患の疾患概念と診断について概説する。


参考文献
1)日本膵臓学会・厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班 自己免疫性膵炎臨床診断基準2011. 膵臓 27:17-25,2012
2) IgG4関連疾患包括診断基準2011. 厚生労働省難治性疾患克服研究事業「IgG4関連全身硬化性疾患の診断法の確立と治療方法の開発に関する研究班」.「新規疾患,IgG4関連多臓器リンパ増殖性疾患 (IgG4+MOLPS) の確立のための研究班」 日内会誌 101:795-804,2012
3) 岡崎和ーほか. 自己免疫性膵炎からみたIgG4関連疾患と免疫異常 日本臨床免疫学会会誌 37:11-18, 2014


演者略歴
岡崎和一 (おかざき かずいち)
〔略歴〕
1978年3月 京都大学医学部卒業
1986年4月 高知医科大学講師 (第一内科)
1987年4月 ニューヨーク医科大学客員研究員 (消化器病研究所)
1989年4月 州立ニュージャージ一医科歯科大学客員研究員 (中央研究所)
1995年4月 高知医科大学助教授 (第一内科)
1998年11月 京都大学医学研究科助教授 (光学医療診療部・消化器内科)
2003年4月 関西医科大学内科学第三講座主任教授
2010年4月 関西医科大学附属枚方病院副病院長(兼)
〔主な専門分野〕
消化器病学,消化器内視鏡学,消化器免疫学
〔主な学会活動歴〕
国際膵臓学会 (International Association of Pancreatology : Councilor (理事) (2008/4-)
アジア太平洋消化器病学会 (APAGE) Councilor (理事) (2013/4-)
日本内科学会 ( 理事(2013/4-). 評議員. 2013年度学術集会委員長)
日本消化器病学会 ( 理事(2011/1-) Journal of Gastroenterology)編集委員(2005-2010))
日本膵臓学会 ( 理事(2010/4-). 評議員. 白己免疫性膵炎委員会委員長)
日本消化器免疫学会 ( 理事(2010/8-). 評議員)
日本消化器内視鏡学会 ( 社団評議員. 卒後教育委員会委員. 専門医制度審議会委員)
日本肝臓学会 (評議員). 日本消化管学会 (代議員). 日本臨床免疫学会 (評議員). 日本臨床分子医学会 (評議員)


 3. 糖尿病の診断と治療最前線

 高知大学内分泌代謝・腎臓内科 藤本 新平

1. 1型糖尿病の診断基準
 1型糖尿病は以前より発症の進行・様式により,劇症1型糖尿病,急性発症1型糖尿病,緩徐進行1型糖尿病に分類されてきた。劇症1型糖尿病に関しては,我が国で確立した疾患概念であり,すでに診断基準が存在したが,この度,急性発症1型糖尿病,緩徐進行1型糖尿病についても診断基準が策定された。急性発症1型糖尿病は,劇症1型糖尿病の診断基準を満たさず,典型的糖尿病症状の出現後,おおむね3カ月以内にケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥り診断早期よりインスリン治療を必要とする患者で,経過中に膵島関連自己抗体の陽性が確認されるか,内因性インスリン分泌の欠乏が証明されたものと定義された。緩徐進行1型糖尿病は,経過のどこかの時点でグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体もしくは膵島細胞抗体(ICA)が陽性であり,糖尿病の発症時,ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく,ただちには高血糖是正のためインスリン療法が必要とならない症例と定義された。

2. 新たな血糖コントロール目標
 従来,日本糖尿病学会では,血糖コントロール基準を優・良・可・不可の分類としてきたが,HbAlcの値が国際基準化されNGSP値表記で統ーされたのを契機に,合併症予防のための目標としてHbAlc7.0%未満が設定された。近年,厳格な血糖管理による合併症抑制をめざす大規模臨床研究より重症低血糖と死亡リスクの関連が示唆され,血糖管理は個々の患者の状況を勘案し,安全性を重視し個別に対応すべきとの考えが主流となっている。このような状況もあり,血糖正常化を目指す際の目標としてHbAlc6.0%未満が,治療強化が困難な際の目標として8.0%未満が設定された。

3. 食事療法
 近年,糖尿病治療として低糖質食がマスコミでも大きくとりあげられるようになっている。日本糖尿病学会からは,日本人の糖尿病の食事療法に関して 「現時点では日本人がこれまで培ってきた伝統的な食文化を基軸にして,かつ現在の食生活変化にも柔軟に対応していくことが重要である。」との提言がなされた。このような流れをうけ,食品交換表第7版が策定され,従来は60%としていた炭水化物エネルギー比にi幅をもたせ50%,55%,60%に対応できるようになった。ただし,腎症で蛋白制限が必要な場合などは炭水化物エネルギー比50%とするのは岡難であり,個々の患者の合併症の進展度も考慮して対応する。

4.糖尿病腎症病期分類の改訂
 糖尿病腎症は,経時的なアルブミン尿の増加に伴う腎機能の低下という考えに基づき病期分類がなされてきたが,この度, CKD重症度分類と整合性をもたせるよう改訂がなされた。病期分類に用いるGFRはeGFRに変更され,3期AとBの区分は行わないこととなった。また尿アルブミン値の程度にかかわらず,GFR 30 ml/分/1.73u未満を全て腎不全と定義した。

5. 2型糖尿病における新規経口血糖降下薬
 経口血糖降下薬に関しては,インクレチン増強作用を持つDPP-4阻害薬が,日本人2型糖尿病において頻用されるようになった。1.日本人で効果が大,2.単剤で低血糖をきたしにくい,3.既存の他のカテゴリーのすべての経口薬と併用可能,4.インスリンとも併用可能(グルカゴン分泌抑制効果あり), 5.体重増加をきたしにくいので肥満でも使用しやすい, 6.腎機能低下例に安全に使用できる などの理由が挙げられる。今同,新規にSGLT2阻害薬が発売された。尿細管におけるグルコースの再吸収を抑制し,尿糖の排世を促進し血糖を降下させる薬剤である。肥満を伴う腎機能良好な患者によい適応となるが,腎機能低下例には効果は期待できない。脱水,尿路・性器感染,異化反応の促進なども懸念され個々の患者のリスク評価を行い真重な投与が必要である。


演者略歴
藤本新平 (ふじもと しんぺい)
〔略歴〕
1991年3月 京都大学医学部卒業
1991年6月 京都大学医学部附属病院内科研修医
1992年6月 (財)田附興風会北野病院研修医,医員
1996年4月 京都大学医学研究科博士課程 (糖尿病・栄養内科学)
2001年4月 京都大学医学部附属病院助教 (糖尿病・栄養内科)
2006年12月 京都大学大学院医学研究科内科学 (糖尿病・栄養内科学) 講師
2010年4月 京都大学大学院医学研究科内科学 (糖尿病・栄養内科学) 准教授
2011年9月 高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科 教授
〔主な専門分野〕
糖尿病内科学,臨床栄養学,内科学
〔主な学会活動歴〕
日本糖尿病学会 (学術評議員,専門医,研修指導医,中国四国支部幹事)
日本内科学会 (四国支部運営協議会委員・評議員,認定医)
日本病態栄養学会 (評議員)
日本内分泌学会会員
アメリカ糖尿病学会(ADA) 会員
ヨーロッパ糖尿病学会(EASD) 会員
アジア糖尿病学会(AASD) 会員


 4. 治療抵抗性高血圧症の診断と治療最前線

 東京女子医科大学内科学(第二)講座高血圧・内分泌内科 市原 淳弘

 血圧維持機構として,生体には,神経系を介した圧受容器反射と腎臓での圧利尿が存在する。さらに後者は,腎血流量の自動調節能と尿細管糸球体フィードバックにより構成される。内分泌系は,これら全てに影響を及ぼすことによって血圧調節に重要に関与し,それらの破綻により高血圧が発症する。
 治療抵抗性高血圧は,「利尿薬を含む3剤以上の降圧薬を使用しても目標血圧まで下がらない高血圧」と定義されるが,日常診療で遭遇した場合,先ずは@不適切なサイズのマンシェットによる血圧測定,A服薬アドヒアランスの低下,B白衣高血圧などの「偽抵抗性」を除外する。その後,血圧値に影響を与える飲酒,肥満,食塩摂取などの「生活習慣」の是正を試みる。次に,他の内服薬剤や食品による血圧管理への影響を検討する。例えば,非ステロイド性消炎鎮痛薬や甘草を含む食品の摂取は,血圧値を上昇させる。以上を検討してもなお治療抵抗性であった場合,二次性高血圧の除外診断を実施する。二次性高血圧の原因として,腎実質性高血圧,腎血管性高血圧,内分泌性高血圧,大動脈縮窄症,頭蓋内腫瘍,脳幹部血管圧迫が挙げられるが,最近注目を集めている二次性高血圧の原因疾患として睡眠時無呼吸症候群があり,全高血圧患者の30%,治療抵抗性高血圧患者の80%に,睡眠時無呼吸症候群が合併するという報告がある。それゆえ,除外診断においては,先ずは睡眠時無呼吸症候群を念頭に置き問診する。次に腎機能を評価すると同時に,内分泌性高血圧のスクリーニング検査を実施する。内分泌性高血圧には,原発性アルドステロン症,褐色細胞腫,クッシング症候群,副甲状腺機能亢進症,甲状腺機能亢進症などがある。この中で,頻度が最も多い疾患が原発性アルドステロン症であり,5〜15分間安静坐位後に採血した検体を用いて測定した血漿アルドステロン濃度(pg/ml)を血漿レニン活性(ng/ml/h)で割ったアルドステロン/レニン比(ARR) を用いてスクリーニング検査を行う。この際に,厳しい減塩下で行わない。低カリウム血症がある場合にはカリウム製剤で補正する。降圧薬はL型カルシウムチャネル拮抗薬やα遮断薬に変更し2〜4週間経過後に実施することに注意すべきである。ARRが200以上であり,かつ血漿アルドステロン濃度が120以上の場合に,原発性アルドステロン症を疑う。褐色細胞腫,クッシング症候群,副甲状腺機能亢進症.甲状腺機能亢進症のスクリーニング検査としては,尿中メタネフリン分画,尿中コルチゾル,血清Ca,TSH等が推奨される。また,管理困難な治療抵抗性高血圧で顔面痙攣がある場合には,脳幹部血管庄迫を疑い,延髄MRI検査を施行する。
 以上の二次性高血圧が否定された場合,強化薬物療法を行う。カルシウムチャネル拮抗薬,レニン-アンジオテンシン系抑制薬,利尿薬の組み合わせで,前二者は最大用量まで使用する。治療目標にまで達しない場合,服薬の回数やタイミングを変更したり,β遮断薬や中枢性交感神経抑制薬,血管拡張薬を,適宜追加処方したりする。さらに,高カリウム血症に注意しながらミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を追加投与したり,腎機能の悪化に注意しながらレニン-アンジオテンシン系抑制薬を2種併用したり,型の異なるカルシウムチャネル桔抗薬を併用したりするが,いずれもリスクを伴うため,この時点で高血圧専門医に相談することが望ましい。
 講演では,さらに腎交感神経アブレーションや圧受容器刺激装置などの最新の降圧治療法の現況についても紹介する。以上のように,高血圧治療の概念は,血圧を「管理する」時代から,患者個々の血圧調節機構の障害を把握しそれを是正することによって「治癒する」時代へと変わりつつある。


演者略歴
市原淳弘 (いちはら あつひろ)
〔略歴〕
1986年 慶應義塾大学医学部卒業
1986年 慶應義塾大学病院内科研修医
1995年 米国Tulane大学医学部生理学教室留学
2001年 慶應義塾大学医学部内科 (腎臓内分泌代謝内科) 助手
2007年 慶應義塾大学医学抗加齢内分泌学講座 講師
2009年 慶應義塾大学医学抗加齢内分泌学講座 准教授
2011年 東京女子医科大学内科学(第二)講座 主任教授
〔主な専門分野〕
内分泌代謝学,高血圧学
〔主な学会活動歴〕
日本心血管内分泌代謝学会 (理事)
日本内分泌学会関東甲信越支部 (幹事)
日本高血圧学会 (幹事)
日本臨床分子医学会 (監事)
日本動脈硬化学会 (評議員)
日本腎臓学会 (学術評議員)


 5. 頭痛の病態生理と治療

 埼玉医科大学神経内科 荒木 信夫

 片頭痛の病態として,頭蓋血管の異常を重視する血管説vascular theoryが広く信じられてきた。即ち,片頭痛の前兆auraの時には血管が収縮し,その後,血管が拡張して頭痛が生じるという説である。しかし近年,脳血流動態などの詳細な検討により,片頭痛の病態はむしろLeaoの提唱した"spreading depression" という大脳皮質の神経細胞の過剰興奮によると考える説 (神経説neuronal theory) が登場し,様々に議論されてきた。さらに,Moskowitzらは三叉神経と頭蓋内血管,特に硬膜の血管との関係に注目し,この “trigeminovascular system" を介する “neurogenic inflammation" が片頭痛のモデルになりうると考え,trigeminovascular theory を提唱した。
 一方,片頭痛では,様々なトランスミッターの変化が注目され,病態との関係が注目されてきた。近年開発され5HTIB,5HTlDのagonistであるトリブタンは頭痛期の片頭痛患者の60〜70% に有効であり,セロトニンとの関係が注目されている。このトリブタンは頭蓋内血管の5HTI-1B/1D like receptorに結合し血管を収縮させる作用があること,および血管周囲の三叉神経に結合することがわかっており,従来の血管説や三叉神経血管説を支持すると考えられている。
 また,Goadsbyらは,片頭痛患者では発作期に頚静脈血の calcitonin gene related peptide (CGRP) が上昇することを示しているが,これは片頭痛の病態生理解明上貴重な報告と考えられる。最近,CGRPの受容体に対する阻害楽であるgepantが片頭痛の治療薬として注目されている。
 Olesenらは,NO donorである glyceryl trinitrate を投与し,片頭痛患者では健常者に比してNOの血管拡張作用に対する反応性が亢進していることを示し,NOに対する denervation hypersensitivity が存在すると主張した。柴田らは,片頭痛患者にL-arginine を静脈内投与した際に,NO産生が健常者に比して亢進していることを示した。これは,発作間歇期の片頭痛患者では,NO合成酵素活性が上昇している証拠と考えられる。
 また,家族性片麻痺性片頭痛 (FHM) において,第19染色体19p13に存在するP/Q型カルシウムチャンネル遺伝子にミスセンス変異が認められた。また,Na-K ATPase,α2 (ATP1A2遺伝子) の変異が,さらに神経電位依存性ナトリウムチャンネル, SC1A遺伝子の変異が確認されている。FHMの変異遺伝子はいずれもイオンチャンネルであることからFHMはチャンネル病(channelopathy) であるとの考えが有力である。
 群発頭痛においても,三叉神経第1枝と蝶形口蓋神経節と上頚交感神経節からの線維が収束する海綿静脈洞付近の内頚動脈周囲に原因があるとの説があったが,PETを用いた研究により,視床下部後部に代謝亢進部位がみられることも明らかになった。
 また,主に片頭痛の難治性患者で薬物乱用頭痛がみられることが注目されている。この薬物乱用頭痛は脳のsensitizationとの関係で注目され,この病態に対する対策も検討されている。


演者略歴
荒木信夫 (あらき のぶお)
〔略歴〕
1978年3月 慶應義塾大学医学部卒業
1978年4月 慶應義塾大学医学部大学院医学研究科入学
1982年3月 慶應義塾大学医学部大学院医学研究科修了
1982年4月 慶應義塾大学内科学教室 (神経内科) 助手
1988年7月 米国ペンシルバニア大学脳血管研究所留学
        (Research Associateとして)
1990年9月 慶應義塾大学内科学教室助手に復帰
1994年7月 日本鋼管病院内科医長
1998年11月 埼玉医科大学神経内科 講師
1999年12月 埼玉医科大学神経内科 助教授
2004年1月 埼玉医科大学神経内科 教授
2012年1月 埼玉医科大学教育センタ一長を兼任
2013年4月 埼玉医科大学副医学部長を兼任
〔主な専門分野〕
頭痛,脳循環代謝,自律神経


 6. 多発性硬化症の病態研究と治療の進歩

 国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部
 同 病院多発性硬化症センタ一 山村 隆

1. はじめに
 多発性硬化症(multiplesclerosis : MS)は,かつて原因不明の難治疾患であった。しかし自己免疫病態の概略が明らかになり,インターフェロンβの普及やリンパ球体内移動を阻害する新薬の登場もあいまって,限定的ではあるが寛解を維持できる疾患になった。一卵性双生児の解析や大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果は,100種類以上のMS発症に関連する遺伝子多型(SNPs)の同定につながった。その多くはT細胞や抗原提示細胞の機能に関係し,也の炎症・免疫疾患でも共有されることから,MSが細胞性免疫を介する自己免疫疾患であることはさらに確実になった。一方で,近年の患者数の急速な増加傾向や発症の地域差は後天因子の役割を示唆するが,その詳細を明らかにする研究に関心が集まっている。

2. 最近のMS臨床の話題
 再発・寛解型MSでは,疾患修飾薬インターフェロンβやグラチラマー酢酸(国内未承認)を導入することによって,長期間の寛解を維持できる症例が増えている。しか,これらのファーストライン医薬には,いわゆる「ノンレスポンダー」が存在し,注射薬であるためにアドへレンスが不良であることなどの問題がある。近年になってT細胞の体内移動を制御する新薬(フィンゴリモドとナタリズマブ)が内外で承認され,難治性MS(こ対するセカンドライン医薬として一定の評価を得ている。フィンゴリモドはSlP1受容体に作用してリンパ球がリンパ節から移出するプロセスを阻害し,ナタリズマブ(抗Vα4インテグリン抗体)はリンパ球が脳血管内皮に接着できないように働く。ただし,これらの薬剤には重篤な副作用の報告があり,使用にあたってはリスクとベネフィットのバランスの面から充分な検討が必要である。
 進行型MS(一次進行型MSおよび二次進行型MS)では,歩行障害や高次脳機能障害が進行して車椅子生活になることが多いが,新たな薬剤の開発の機運が高まっている。
 抗アクアポリン4抗体 (抗AQP4抗体) の上昇を伴う視神経脊髄炎 (neuromyelitis optica : NMO)がMSから区別されるようになった。NMO典型例のMRI画像では3椎体以上の脊髄長大病変が確認される。NMOは我が国で過去にMSと診断された症例の20%前後を占めるが,MSに比べてB細胞・自己抗体の関与が強く,MSの治療薬インターフェロンβやフィンゴリモドは病状をむしろ悪化させる可能性がある。したがってMSとNMOの診療では,両者の鑑別がきわめて重要であり,抗AQP4抗体測定に関する認識が高まっている。AQP4は水チャネルであり,アストロサイトに強く発現している。NMOの急性増悪期には抗AQP4抗体による補体依存性アストロサイト障害が顕著であるが,中枢神経系に侵入したプラズマブラストが産生する抗AQP4抗体の役割が重視されている。なお,シェーグレン症候群や膠原病に合併する脊髄炎の多くは,NMOの脊髄炎であると言われている。

3. 研究の進展
 MSでは炎症惹起性リンパ球と制御性リンパ球のバランスに異常が認められる。そのバランス異常を矯正するために,背景因子の解明や治療薬候補の同定に関する研究が加速化している。従来の企業治験に加えて,アカデミアで開発された治療薬候補を,医師主導治験によって検証する試みも始まっている。
 一方では,個々の治療薬の有効性を早期に見極めて,治療方針の決定に役立てるための技術開発が進んでいる。個々の薬剤の治療効果を予測するバイオマーカーが確立すれば,レスポンダーにだけ同薬剤を処方するような時代が到来するであろう。


演者略歴
山村 隆 (やまむら たかし)
〔略歴〕
1980年3月 京都大学医学部卒業
1980年5月 京都大学付属病院研修医
1981年4月 住友病院神経内科医師
1984年8月 武蔵療養所神経センター研究員
1987年6月 Max-Planck研究所客員研究員
1989年10月 Harvard大学客員研究員
1990年10月 国立精神・神経センタ一室長
1999年11月 国立精神・神経医療研究センタ一部長
〔主な専門分野〕
神経内科学,神経免疫,臨床免疫学,多発性硬化症・視神経脊髄炎の病態解明,免疫療法の開発
〔主な学会活動歴〕
日本神経学会 (専門医,評議員),日本臨床免疫学会 (理事,第41回総会長),日本神経免疫学会 (理事,第22回学術集会会長),日本免疫学会 (評議員),国際神経免疫学会(ISNI) (理事) :米国臨床免疫学会FOCIS (運営委員,2007年副会長)


 7. 抗リン脂質抗体症候群の検査と治療

 北海道大学大学院医学研究科免疫・代謝内科学分野教授 渥美 達也

 抗リン脂質抗体症候群 (APS) は,抗リン脂質抗体と関連する自己免疫血栓症および妊娠合併症と定義される。抗リン脂質抗体はリン脂質あるいはリン脂質と蛋白の複合体に結合する自己抗体の総称である。APSの臨床上の問題点は,疾患を定義する抗リン脂質抗体の多様性から,その検出の標準化が困難であること (すなわち何をもって抗リン脂質抗体陽性とするかが統ーされていないこと),臨床症状の再発が極めて多いことである。さらに,血栓症と妊娠合併症以外にも抗リン脂質抗体と関連する臨床症状は血栓と妊娠合併症にとどまらず,現在はAPSを全身性抗リン脂質抗体症候群 systemic antiphospholipid syndrome ととらえる考え方がでてきた。
 APSは獲得性血栓傾向の原因としては頻度の高い病態のひとつとして認識され,臨床上重要な位置を占めている。APSは単独で発症すれば原発性と分類されるが,約半数は全身性エリテマトーデス (SLE) に合併する。APSの病態の基本は血栓傾向である。APS患者に発症する血栓症は多様であるが,好発部位が存在する。静脈血栓としては他の血栓傾向と同様に下肢深部および表層静脈の血栓症が多く,しばしば肺塞栓を合併する。APSの血栓症に特徴的な点は,静脈のみならず動脈に血栓をおこすことである。しかもAPSでは脳梗塞,一過性脳虚血発作などの脳血管障害が圧倒的に多く,虚血性心疾患が比較的少ない特徴がある。妊娠合併症は習慣流産がもっとも多いが,子宮内胎児発育不全や妊娠高血圧症候群もよく知られている。通常の流産が胎盤形成以前の妊娠初期に圧倒的に多いことに対して,APS患者の流産はむしろ妊娠中・後期によく起こることが特徴である。非常にまれであるが,APSの特殊型に分類される病態として,急激に多臓器不全(とりわけ中枢神経と腎)に陥り,重症呼吸不全,重篤な血小板減少症を合併し致死率の高い激症型抗リン脂質抗体症候(Catastrophic antiphospholipid syndrome)がある。
 APSの診断に必要な検査は抗リン脂質抗体である。一連の抗リン脂質抗体の検出法のなかで,抗カルジオリピン抗体(aCL)は最もはやくに確立された免疫学的な抗リン脂質抗体の検出法である。当初はリン脂質であるカルジオリピンがaCLの直接対応抗原と考えられていたが,現在ではaCLの対応抗原がβ2-グリコプロテインI(β2GPI)であることがわかって,「β2GPI依性aCL」 とよばれるアッセイで検出される。ループスアンチコアグラント(LA) は in vitro のリン脂質依存性凝固反応を阻害する免疫グロプリンと定義される。凝固反応自体は簡易な検査であるが,臨床検査上のLAの同定はその多様性から必ずしも容易でない。LA活性をもつ白己抗体の対応抗原は,β2GPIまたはプロトロンビンである。
 APSの治療は,血栓症に対する二次予防が中心である。免疫抑制療法は,これまでの報告では有効性が定まっていないので,劇症型APSなど特殊な例にのみおこなわれている。欧州白人ではAPSの症状は深部静脈血栓症が最も多いため,抗凝固療法が中心である。動脈血栓症に対しでも抗凝固療法がおこなわれていて,強度にINRを維持しても血栓の再発が多い。我々は,日本人ではAPS血栓は動脈のほうが多いことを認識し,我が国においては血小板凝集抑制薬を中心とした治療をおこなっている。とくに複数の血小板凝集抑制剤を使用した例では血栓の再発が少なかった。
 本講演では,日常の診断に必要な抗リン脂質抗体検査の意義や,それらの組み合わせにより血栓症のリスクをどのように考えていくべきかを議論する。


演者略歴
渥美達也 (あつみ たつや)
〔略歴〕
1998年3月 北海道大学医学部卒業
1994年7月 英国ロンドン・セントトーマス病院レイン研究所
1998年6月 北海道大学医学部第二内科 助手
1999年6月 同 講師
2010年10月 北海道大学大学院医学研究科免疫・代謝内科学分野 准教授
2013年1月 同 教授
〔主な専門分野〕
内科学,穆原病学,血栓止血学,臨床免疫学
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会 (評議員),日本臨床免疫学会 (理事),日本血栓止血学会 (理事),日本リウマチ学会 (評議員),日本臨床リウマチ学会 (評議員),国際血栓止血学会 (抗リン脂質抗体部会副議長)


 8. 関節リウマチの診断と治療〜Up-to-dateto〜

 東海大学内科学系リウマチ内科学 鈴木 康夫

 関節リウマチ(RA)治療のパラダイムはこの数年間で大きく変わり,関節の疼痛や腫脹を軽減させることから,関節破壊を停止させ,関節・生活機能を維持し,生命予後を改善させることに主眼が置かれるようになった。すなわち,まだ関節破壊が起きる前の早い段階でRAを診断し,寛解という炎症活動性に基づく症状や徴候がなくなった状態を最短で達成することにより,RAの関節破壊は停止し,生活機能は維持され生命予後も改善することが明らかになっている。
 @「目標達成に向けた治療 : Treat to Target(T2T)」戦略 : 糖尿病などで導入されている治療戦略がRA治療においても推奨され,2010年4月に治療アルゴリズムが発表された。すなわち,早期RAでは治療目標を寛解と定め,一定期間毎にRA活動性を評価し目標に達しなければ治療を強化・調整し,最短期間で目標を達成するという考えである。
 ARA分類基準 : RAの旧分類基準 [アメリカリウマチ学会(ACR)1987年] は臨床研究の対象を選ぶ際に,症例の均一化をはかる目的で作成されたもので早期RAの診断には対応できない。そこで,診断未確定炎症性滑膜炎の症例から,慢性の経過で骨びらんを来すリスクが高く,MTXを中心とした疾患修飾薬の治療が必要である症例を同定する新基準がACRとヨーロッパリウマチ学会(EULAR)より2010年9月に発表された。この基準は1カ所以上の明らかな滑膜炎があって,他の疾患で説明できない場合は,関節症状 (圧痛,腫脹のある関節の数と部位),血清反応 (リウマトイド因子,抗CCP抗体),炎症反応,症状の持続期間の各点数を組み合わせて診断する基準である。
 B画像診断の進歩 : 関節エコーは滑膜炎や骨びらんの検出に有用で,RAの診断や活動性評価とともに,リウマチ性多発筋痛症など他疾患の鑑別にも有用であり,日本リウマチ学会 (JCR) より関節エコー撮像法ガイドラインが発表された。
 C臨床的寛解基準 : X線写真上の関節破壊及び身体活動性評価において良好な予後が得られる状態を寛解状態と考え, Boolean法あるいは総合的活動性指数である SDAI (simplified disease activity index) を取り入れたACR/EULAR合同の予備的寛解基準が2011年3月に公表された。
 Dメトトレキサート(MTX) の適応,用量拡大 : Anchor drugであるMTXの適応,用量増量に関する公知申請が承認され,2011年2月より,MTXが第1選択薬として,また最大週16mgまで増量が可能になった。,JCRはMTXの適正使用を推進する目的でMTX診療ガイドラインを発表した。承認後,MTX週8mgを超えた投与量における有効性と安全性を検証する特定使用成績調査がおこなわれ,24週観察例約2,800例,52週観察例約300例の解析が進み,週8mgを超えた用量の有効性が確認されている。
 E新規治療薬 : 1) 抗リウマチ薬単剤で治療目標を達成できなければ,生物学的製剤を中心とした併用療法が推奨される。生物学的製剤もインフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブ,ゴリムマブの4剤に加え,セルトリズマブペゴル(ペグ結合Fabフラグメント) が2013年2月承認されTNF阻害薬は5剤となりトシリズマブ(抗IL-6受容体モノクローナル抗体),アバタセプト (T細胞活性化補助シグナル阻害薬) とあわせ計7剤が使用できるようになった。 2) 新しい免疫調整薬であるイグラチモドは,NFKBの活性化を抑制して,炎症性サイトカインや免疫グロブリン産生を抑制する。2012年9月に承認され,MTXとの併用効果が確認されている。3) 低分子の分子標的治療薬であるトファシチニブ(JAK回害薬)が2013年6月承認された。ATPと競合的にJAKに結合し,IL-6,IL-23などのサイトカインの細胞内シグナル伝達を阻害する。MTXや生物学的製剤で効果不十分な症例に期待される。
 本講演では,この数年でめざましい変貌を遂げたRAの診断と治療の最新情報および最近問題となっている副作用について解説する。


演者略歴
鈴木康夫 (すずき やすお)
〔略歴〕
1976年3月 慶應義塾大学医学部卒業
1978年5月 慶應義塾大学医学部内科学教室 (血液・感染症・リウマチ内科) 入局
1983年8月〜1986年7月 米国ワシントン大学骨代謝部門研究員
1989年7月 聖マリアンナ医科大学第l内科 講師
1992年11月 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠原病・アレルギー内科 助教授
2002年4月 東海大学医学部内科学系リウマチ内科学 助教授
2005年4月 東海大学医学部内科学系リウマチ内科学 教授 同付属病院難病治療研究センター長
2009年4月 東海大学医学部付属病院副院長
〔主な専門分野〕
リウマチ内科学,臨床免疫学,骨代謝学
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会評議員, 日本リウマチ学会E、!と議員, 日本内分
泌学会評議員
日本臨床免疫学会評議員,日本骨代謝学会評議員,日本臨床リウマチ学会評議員,日本リウマチ学会MTX診療ガイドライン策定小委員会委員長,日本骨代謝学会ステロイド性骨粗鬆症管理と治療ガイドライン改訂委員会副委員長


 9. 高齢者救急診療のピットフォール

 京都府立医科大学救急医療学教室 太田 凡

 高齢者救急診療にはいくつかの特徴があり,その特徴はピットフォールにもつながる。
 @自立した生活を送っていても,高齢者は自分の健康に対し不安を抱えているのが通常であり,不安のみから救急受診する軽症症例が少なくない。
 A一方,高齢者では,自覚症状,身体所見が非典型的となりやすく,また,基礎疾患,服用薬剤,免疫力低下,骨粗軽症,創治癒力低下などの影響により,病態が重症化しやすい。したがって軽症と確定するのが難しい。
 Bまた,高齢者は容易に生活能力が低下するため,医師が軽症と判断しても独居生活の継続が困難となることも珍しくない。介護者の負担も問題になる。時には,患者家族と医師の間で患者の押し付け合いのような現象が生じ,時として必要以上に「軽症」との判断に傾きやすい。
 C認知症などにより患者の認知能力が低下している場合,医師と患者家族の間に診療方針をめぐる価値観の相違が生じ得る。
 D重症の場合には,どこまで積極的な治療を行うかどうかが問題となる。侵襲的治療が必ずしも報われるとは限らない。老いて死に至ることは生命にとっての自然である。ワンパターンのマニュアル診療ではなく,患者本人が治療方法を白己決定できない場合,家族とともに患者本人のための診療を真撃に選択したい。


演者略歴
太田 凡(おおた ぼん)
〔略歴〕
1988年 京都府立医科大学卒業
1988年 京都府立医科大学附属病院研修医
1989年 京都第二赤十字病院救命救急センター医員
1992年 京都府立医科大学大学院
1996年 京都第二赤十字病院救命救急センター医員
2002年 湘南鎌倉総合病院 救急外来医長
2004年 湘南鎌倉総合病院 救急総合診療科部長
2010年 京都府立医科大学 救急医療学教室 教授
〔主な専門分野〕
救急医療学,救急・災害医療システム学
〔主な学会活動歴〕
日本救急医学会 救急科専門医
日本救急医学会 ER検討委員会委員 ER後期研修小委員会委員長


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(14/4/13日曜分)
奥さんと日帰りで、東京国際フォーラムで開催された 【第111回日本内科学会総会講演会】(外部リンク)(SAVEpdf書類190KB)会長:伊藤貞嘉(東北大学)に参加してきた。参加費10,000円(非課税・・・学校の授業料や学術講演会の講義料は非課税なのだ)払って登録、認定更新単位15単位を頂いてきた。今回も学会の目玉は更新単位が貰える「教育講演」だが、4/11・4/12・4/13の3日間に分散して開かれるので、開業医の私にはとても参加できない(しかも定員があり事前にネットで参加登録必要)。今回の教育講演の演題と講演者をまとめてみた。

第111回 日本内科学会総会講演会 教育講演 演題・講演者
 1.早期大腸癌の診断と治療 
 広島大学 田中 信治 先生 
 2.全身性エリテマトーデス:診断と治療の進歩   北海道大学 渥美 達也 先生 
 3.CKDの臨床疫学  琉球大学 井関 邦敏 先生
 4.高齢者医療と予防ワクチン  国立感染症研究所 大石 和徳 先生 
 5.脳梗塞再発予防−日本人にとって最適な抗血栓療法とは   富山大学 田中耕太郎 先生
 6.慢性骨髄性白血病の治療  近畿大学 松村 到 先生
 7.過敏性肺炎の診断と治療  東京医科歯科大学 稲瀬 直彦 先生
 8.糖尿病治療の進歩  川崎医科大学 加来 浩平 先生
 9.新規抗菌薬の開発  東京医科大学 松本 哲哉 先生
 10.内科疾患治療による認知症予防  岡山大学 阿部 康二 先生
 11.原発性胆汁性肝硬変(PBC)についての進歩と停滞  山形大学 上野 義之 先生
 12.冠動脈インターベンション治療の変遷と積極的薬物療法   金沢大学 山岸 正和 先生
 13.COPDと全身併存症  奈良県立医科大学 木村 弘 先生
 14.Treat to Targetと関節リウマチ  慶應義塾大学 竹内 勤 先生
 15.心不全に対する疾病管理  北海道大学 筒井 裕之 先生
 16.難治性ネフローゼ症候群の実際と治療  金沢医科大学 横山 仁 先生
 17.カルシウム代謝異常の病態と治療  虎の門病院 竹内 靖博 先生
 18.造血幹細胞移植の現状と課題  名古屋第一赤十字病院 宮村 耕一 先生



第111回 日本内科学会総会講演会 教育講演 講演要旨

 1.早期大腸癌の診断と治療

 広島大学大学院医歯薬保健学研究科内視鏡医学 田中 信治

 近年の内視鏡医学の進歩により,早期大腸癌に対する内視鏡治療の守備範囲が大きく広がるとともに,精度の高い術前診断に基づく適切な治療法の選択が可能になった。白色光による高画素電子内視鏡観察に加えて,拡大観察による pit pattern診断やNBI (narrow band imaging) /BLI (Blue laser imaging) などの画像強調観察 (IEE : Image enhanced endoscopy)が標準化しつつあるが,最近では顕微(超拡大)内視鏡観察(Endoscytoscopy) による Optical pathologic diagnosisの臨床導入も検討されている。内視鏡治療に関しては,技術的に難易度の高い大腸内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD : Endoscopic submucosal dissection) も2012年4月から早期大腸癌を対象に保険適応となった。ただし大腸には良性の腺腫性病変も多く,正確な術前診断に基づいたESDと内視鏡的粘膜切除術 (EMR : Endoscopic mucosal resection) との棲み分けが重要である。内視鏡治療においては,根治性と安全性を確保したうえで簡便性と経済性も考慮されるべきである。
 一般に,大腸粘膜内癌は転移することはないが,SM癌では約10%にリンパ節転移を認める。従って,内視鏡摘除病変がSM癌の場合は,リンパ節郭清を含めた追加腸切除を考慮しなくてはならないが,その適応基準も時代とともに変遷している。実際には,詳細な病理組織所見に基づいた転移のリスクと患者背景を総合的に評価して,患者とともに治療方針を決定することが重要である。
 本講演では,大腸腫瘍の各種治療手技 (EMR/分割EMR/ESD/外科手術など) 選択のための術前診断学を概説し,SM癌の取扱い,ESDの課題と将来展望を中心にお話しする。


演者略歴
田中信治 (たなか しんじ)
〔略歴〕
1984年3月 広島大学医学部医学科卒業
1984年4月 広島大学医学部附属病院内科・医員(研修医)
1986年4月 北九州総合病院内科
1989年4月 広島大学第一内科・医員
1991年4月 国立がんセンター病院(現中央病院) 内視鏡部
1993年11月 広島大学第一内科・助手
1998年8月 広島大学光学医療診療部・助教授
2007年11月 広島大学内視鏡診療科・教授
〔主な専門分野〕
内視鏡医学(消化管),消化管癌の内視鏡診断と治療,小腸疾患・炎症性腸疾患の診断と治療,大腸癌の組織発生,浸潤・転移に関する臨床および分子病理学的研究
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会中国支部(評議員),日本消化器病学会(財団評議員),日本消化器内視鏡学会(社団評議員・中国支部長),日本消化管学会(代議員),大腸癌研究会(幹事),日本大腸肛門病学会(代議員),日本胃癌学会(代議員),日本カプセル内視鏡学会(理事),日本消化器癌発生学会(評議員)


 2. 全身性エリテマトーデス : 診断と治療の進歩

 北海道大学大学院医学研究科 免疫・代謝内科学分野 渥美 達也

 全身性エリテマトーデス(SLE)は,この分野の疾患では関節リウマチに次いで有病率が高い(概ね人口の0.1%)。疾患概念は,自己免疫機序による全身諸臓器組織の炎症性疾患,であるが,臨床像は非常に多様性に富んでいる。SLEの臨床像で特徴的なのは,高熱や「蝶型紅斑」を代表とする多様な皮疹であるが,内科医が管理すべき重要な臓器病変では,ループス腎炎と神経精神ループス (NPSLE) の頻度が高い。
 SLEの診断には,1982年のアメリカリウマチ学会 (ACR) の分類基準が参考にされてきた。30年以上前に定義されたこの分類基準は,よく疾患概念を反映するものとされてきたが,実際にこの分類基準を用いるとSLEの診断に至らない例があり,米国ではそのために保険会社が医療費支払いを拒否するという切実な問題が生じてきた。そこで,米国を中心として SLICC というグループがNIHの支援をうけて,より感度の高い新たな分類基準を提案した。その有用性を我が国でも検討中である。
 SLEの予後改善に貢献したのは,ステロイドのみ依存せずシクロフォスファミド,カルシニュリン阻害剤などの免疫抑制剤を効果的に使用できるようになったこと,感染症対策が進歩したことなど,複数の要因がある。ループス腎炎に対して,ACRおよびヨーロッパリウマチ学会が相次いでエビデンスに基づく推奨 (ガイドライン) を出版した。両者とも,ループス腎炎の治療を腎組織別に寛解導入と維持にわけで整理しており,日常臨床に適応しやすい記述である。両推奨において重要な位置づけにあるのが,未承認であるにもかかわらず ミコフェノール酸モフェチルである。我が国でも同薬の開発がすすめられている。
 一方,NPSLE,血栓性微小血管障害,抗リン脂質抗体症候群など,難治性病態が依然として存在する。これらの臓器病変に対する治療法開発が強く望まれる。


演者略歴
渥美達也 (あつみ たつや)
〔略歴〕
1998年3月 北海道大学医学部卒業
1994年7月 英国ロンドン・セントトーマス病院レイン研究所
1998年6月 北海道大学医学部第二内科 助手
1999年6月 北海道大学医学部第二内科 講師
2010年10月 北海道大学大学院医学研究科 免疫・代謝内科学分野 准教授
2013年l月 北海道大学大学院医学研究科 免疫・代謝内科学分野 教授
〔主な専門分野〕
内科学,膠原病学,血栓止血学,臨床免疫学
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会(評議員),日本臨床免疫学会(理事),日本血栓止血学会(理事),日本リウマチ学会(評議員),日本臨床リウマチ学会(評議員),国際血栓止血学会(抗リン脂質抗体部会副議長)


 3. CKDの臨床疫学

 琉球大学附属病院血液浄化療法部 井関 邦敏

 慢性腎臓病 (ChronicKidney Disease : CKD) は新しい疾患概念であり,透析導入および心血管疾患(CVD)予防を主眼に世界的な啓発活動が進められている。
 2009年,KDIGO (Kidney Disease : Improving Global Outcomes)カンファレンスにおいて血清クレアチニン,アルブミン(蛋白)尿のデータを有する世界の45コホート (約156万人) によるアウトカム (全死亡,CVD死亡,透析導入) の検討が行われた。腎機能(eGFR)およびアルブミン(蛋白)尿がそれぞれ独立した危険因子であると確認され重症度分類が改訂された。KDIGOには我々の沖縄透析研究コホート (Okinawa Dialysis Study : OKIDS) も参加し,CKD Prognosis Consortium による精力的なメタ解析が進行中である。
 CKDステージが高度(透析患者)になるとスタチン,エリスロポエチン投与による生命予後改善効果が証明されない。古典的危険因子以外にもCKD関連危険因子の関与が考えられる。また心腎連関以外にも脳腎連関,骨代謝,感染症,悪性腫瘍との関連が想定される。沖縄県では平均寿命の伸びが鈍化しているが,理由の一つに肥満,メタボリック症候群によるCKDの発症・進展が考えられる。
 加齢によるeGFR低下は年間0.4ml/min/1.73u未満であり,CKDステージ3a以上には進行しない。腎機能低下速度は蛋白尿の程度に比例して速くなる。わが国の透析患者数は約31万人で,依然として増加傾向にある。糖尿病および腎硬化症が導入患者の半数を超え,導入時の平均年齢が年々高齢化している。
 CKDの早期発見・治療のためには啓発活動,健診・事後指導体制の整備およびCKDをターゲットにした創薬が必要である。またわが国独自の臨床疫学的研究とくに大規模疫学研究 (観察,アウトカムおよび介入) の推進が望まれる。


演者略歴
井関邦敏 (いせき くにとし)
〔略歴〕
1974年3月 九州大学医学部卒業
1976年5月 九州大学附属病院(医員)
1981年11月 九州大学医学部附属病院助手
1982年7月 米国,南カリフォルニア大学医学部腎臓部門フェロー
1989年4月 琉球大学医学部附属病院第3内科(講師)
2011年4月 琉球大学院学部附属病院血液i争化療法部部長
〔主な専門分野〕
内科学,腎臓病学,腎不全の臨床疫学
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会,日本透析医学会,日本腎臓学会,KDIGO


 4. 高齢者医療と予防ワクチン

 国立感染症研究所・感染症疫学センタ一 大石 和徳

 わが国の65歳以上の高齢者人口は総人口の23.1%を占め,社会の高齢化が進んでいる。また,肺炎はわが国における死因の第3位であり,とりわけ80歳以上の高齢者では肺炎による死亡率は急激に増加する。成人の市中肺炎の大半は菌血症を伴わない肺炎であり,その20〜40%が肺炎球菌に起因するとされている。また,本菌は血液中に侵入し,主に小児や高齢者に侵襲性肺炎球菌感染症 (invasive pneumococcal disease : IPD) を起こす。
 成人用の莢膜ポリサッカライド(CPS)を含有する23価肺炎球菌ワクチン(PPV23)は,免疫不全のない高齢者におけるワクチン血清型による侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に対する予防効果が明らかにされている。また,最近になって,わが国ではPPV23の肺炎球菌性肺炎の予防効果肺炎医療費の削減効果のエピデンスが報告されている。現在,厚生科学審議会予防接種部会において高齢者に対するPPV23の定期接種化についての検討が進められている。また,平成25年4月からIPDが感染症法上の5類全数把握疾患となり,国内のIPDの発生動向が明らかになっている。2009年にわが国でPPV23の再接種が可能になったが,PPV23再接種時の免疫応答低下の点で13価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)に劣るとの指摘がある。しかしながら,慢性肺疾患患者のPPV23の初回接種から再接種後の血清中オプソニン活性による抗体応答の評価では,この免疫応答低下は明確ではなかった。また,その特異IgGの殺菌機能は初回接種後,再接種後に7年以上の長期間維持されていた。
 今後,医療のニーズや疾病負荷などを踏まえて,開発が必要なワクチンとして経鼻インフルエンザワクチン,ノロウイルスワクチン,帯状庖疹ワクチンが挙げられる。これらのワクチンの開発状況についても紹介する。


演者略歴
大石和徳 (おおいし かずのり)
〔略歴〕
1980年3月 長崎大学医学部卒業
1980年4月 長崎大学医学部附属病院熱研内科入局
1986年7月 米国 Uniformed Services University留学
1994年5月 長崎大学医学部附属病院熱研内科講師
1997年5月 長崎大学熱帯医学研究所助教授
2006年l月 大阪大学微生物病研究所特任教授
2012年4月 国立感染症研究所感染症情報センター長
〔主な専門分野〕
感染症学,呼吸器内科学,熱帯医学,ワクチン学
〔主な学会活動歴〕
日本感染症学会(本部理事),日本熱帯医学会(理事),日本呼吸器学会(代議員)


 5. 脳梗塞再発予防−日本人にとって最適な抗血栓療法とは

 富山大学附属病院神経内科 田中 耕太郎

 日本の脳卒中による死亡の内訳は,脳出血による死亡が近年急速に減少し,2000年には脳出血23%,脳梗塞62%となった。しかし最近,脳出血による死亡が増加に転じ,2011年には27.5%となり1990年の値よりも高くなった。この一因として近年,脳梗塞再発予防のための抗血小板薬や抗凝固薬の処方が増加していることが挙げられる。日本人は白人に比し脳出血を生じやすい人種であることを念頭に置いた再発予防治療が必要である。
 (1) 非心原性脳梗塞再発予防における抗血小板療法 : 2009年のメタ解析では,脳梗塞再発予防としてアスピリン(ASA) を服用すると,出血性脳卒中を1.7倍増加させ,重篤な頭蓋外出血を2.7倍有意に増加させた。一方,ASAの脳梗塞再発抑制率は,わずか22%であり統計的に有意で無かった。さらに脳梗塞再発予防を目的に近年施行された大規模臨床試験におけるASA服用者の年間頭蓋内出血発症率は,欧米で0.2〜0.4%,日本で1%〜1.6% であり,欧米の5倍以上の発症率であった。最近のコクランレビューによると,クロピドグレルはASAに比し,10%前後の心血管イベントや脳卒中発症抑制を示したが統計的に有意でなかったが,シロスタゾールはASAに比し,これらの発症を30%有意に抑制した。特に出血性脳卒中は,シロスタゾールはASAに比し,80%有意に抑制した。重要なことは,このシロスタゾールのエビデンスは日本と中国で施行された大規模臨床試験より得られたことである。ASAは1970年代から非心原性脳梗塞再発予防の第1選択薬として使用されてきたが,上記の事実から,我が国の抗血小板療法は変革の時期を迎えている。
 (2) 心原性脳塞栓症再発予防における抗凝固療法 : 新規経口抗凝固薬 (NOAC) が我が国でも2011年以降,相次いで認可され,適応症例を慎重に選べば,従来のワルファリンに比し,安全かつ有効な治療効果を期待できる時代となった。しかしNOACは,腎機能 (クレアチニンクリアランス) 低下,高齢,低体重などの出血危険因子を,処方前および処方中に適時検討することが必要であり,適応に限界のあることを認識する必要がある。


演者略歴
田中耕太郎  (たなか こうたろう)
〔略歴〕
1975年3月 慶應義塾大学医学部卒業
1979年3月 慶應義塾大学大学院医学研究科 (神経内科学専攻) 修了
1979年4月 慶應義塾大学病院内科専修医
1982年7月 米国ペンシルバニア大学神経内科,脳血管研究センター研究員
1988年11月 水戸赤十字病院第一内科部長兼神経内科部長
1991年4月 慶應義塾大学医学部内科専任講師
2005年6月 富山医科薬科大学附属病院神経内科教授
2005年10月 富山大学附属病院神経内科教授
〔主な専門分野〕
臨床神経学,脳卒中学,脳循環代謝学
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会(評議員),日本脳卒中学会(理事),日本神経学会,日本脳循環代謝学会(理事),日本神経治療学会(評議員),日本頭痛学会(評議員),国際脳卒中学会,国際脳循環代謝学会,American Heart Association (Council on stroke)


 6. 慢性骨髄性白血病の治療

 近畿大学血液・膠原病内科 松村 到

 慢性期 (chronicphase,CP) の慢性骨髄性白血病 (chronic myeloid leukemia : CML) の治療成績はチロシンキナーゼ阻害薬 (tyrosine kinase inhibitor : TKI) のイマチニブの登場によって飛躍的に改善した。IRIS試験の結果では,イマチニブ投与群の8年時点の全生存率は85%(CML関連死亡は7%のみ),無イベント生存率が81%と極めて良好であった。しかし一部の症例はイマチニブ抵抗性を示し,イマチニブより強いBCR-ABLの阻害活性を有する第二世代TKI のニロチニブ,ダサチニブが開発された。イマチニブ抵抗例の50〜60% で抵抗性の原因となるBCR-ABLの点突然変異が認められるが,第2世代TKIはT315I変異を除き各種の変異に有効性を示す。また,両薬剤はイマチニブ不耐容例にも継続投与可能である。さらに両薬剤は,初発CML-CPを対象としたそれぞれのイマチニブとのランダム化比較試験において細胞遺伝学的効果,分子遺伝学的効果でイマチニブに優り,初発CML-CPに対しでも承認された。現在では,初発CML-CPに第二世代TKIを用い,より早期CML細胞を減少させることで,ほとんどの症例で病期進行が回避される。また,TKIの継続投与例では高感度のRQ-PCR法を用いても微小残存病変を検出できない分子遺伝学的完全寛解 (complete molecular response : CMR) が達成される。しかし,CMRを2年以上継続しでもTKI中止によって半数以上の症例が再発することから,治癒を目指した新規薬剤の開発も進んでいる。一方,移行期/急性転化期のCMLにはTKIの効果は十分でなく,同種造血幹細胞移植が必要である。現在,T315I変異にも有効な第3世代TKIのポナチニブの試験も実施されており,さらなる治療法の進歩に期待したい。


演者略歴
松村 到 (まつむら いたる)
〔略歴〕
1984年3月 大阪大学医学部卒業
1988年7月 大阪大学医学部第二内科学教室
1997年6月 大阪大学医学部血液・腫蕩内科助手
2002年8月 大阪大学医学部血液・腫蕩内科講師
2003年5月 大阪大学医学部血液・腫蕩内科助教授
2007年4月 大阪大学医学部血液・腫蕩内科准教授
2010年4月 近畿大学医学部血液内科教授
2010年11月 近畿大学医学部血液・膠原病内科教授
〔主な専門分野〕
血液内科学,臨床腫瘍学
〔主な学会活動歴〕
日本血液学会(理事,新TAREGT実行委員長),JALSG CML212研究(委員長),日本臨床腫瘍学会(評議員)


 7. 過敏性肺炎の診断と治療

 東京医科歯科大学呼吸器内科 稲瀬 直彦

 過敏性肺炎は外因性抗原を繰り返し吸入後に細気管支や間質に病変をきたすアレルギー性疾患である。急性過敏性肺炎として発症する場合が多いが,抗原曝露が年余にわたる場合には肺線維化が進行し,慢性過敏性肺炎の病型をとる。本邦の過敏性肺炎としては夏型過敏性肺炎,烏関連過敏性肺炎(鳥飼病),農夫肺,塗装工肺,キノコ栽培者肺などがある。夏型過敏性肺炎の原因抗原であるトリコスポロンは高温・多湿な住居環境で増殖する。烏関連過敏性肺炎は鳥飼育以外に近隣の野鳥,羽毛製品,鶏糞肥料により惹起される。急性過敏性肺炎の症状は発熱,咳・痰,呼吸困難など非特異的であるが,胸部X線写真で両肺に網状粒状影,胸部HRCTで小葉中心性粒状影,すりガラス陰影を認める。血清KL-6,SP-Dが高値となり,気管支肺胞洗浄液でリンパ球増多を示し,経気管支肺生検で類上皮細胞性肉芽腫を認める。診断においては抗原回避による改善と抗原の再曝露による増悪を確認することが重要であり,入院後に病状が落ち着いたところで環境誘発試験を行う。また免疫学的検査として特異抗体の検出を行う。一方,慢性過敏性肺炎の症状は持続する咳,労作時呼吸困難であり,胸部HRCTでは蜂巣肺,牽引性気管支拡張など特発性肺線維症 (idiopathic pulmonary fibrosis : IPF) に類似した所見を示す。慢性過敏性肺炎の過半は鳥関連過敏性肺炎であり,なかでも羽毛布団が原因となる過敏性肺炎 (feather duvet lung : FDL) が主目されている。治療の基本は抗原回避であり,急性過敏性肺炎の軽症例は入院のみで軽快する。慢性過敏性肺炎においても抗原回避が基本であるが,進行例ではステロイドや免疫抑制薬の使用が考慮される。慢性過敏性肺炎は経過中に急性増悪,肺癌,肺高血圧症の合併もあり,一般に予後不良である。


演者略歴
稲瀬直彦 (いなせ なおひこ)
〔略歴〕
1985年3月 東京医科歯科大学医学部卒業
1985年6月 東京医科歯科大学第二内科医員(研修医)
1991年6月 カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学
1994年9月 束京医科歯科天学霞ヶ浦分院助手
1997年4月 東京医科歯科大学呼吸器科助手
2002年11月 東京医科歯科大学呼吸器内科講師
2009年11月 東京医科歯科大学統合呼吸器病学分野教授
〔主な専門分野〕
呼吸器内科学,びまん性肺疾患,免疫・アレルギー疾患
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会(評議員),日本呼吸器学会(代議員),日本アレルギー学会(代議員),日本肺癌学会(評議員),日本呼吸器内視鏡学会(評議員),日本結核病学会(評議員),日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会(理事)


 8. 糖尿病治療の進歩

 川崎医科大学内科学特任教授 加来 浩平

 糖尿病治療の目標は,健康人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持と寿命を確保することにあり,目標達成には血管合併症の発症・進展の阻止が重要である。血管合併症の抑制に血糖管理が大きな役割を担うが,生活習慣の改善(食事療法,運動療法)や薬物療法は血糖管理のための有力な手段である。
 経年的な病態の進行抑制と合併症阻止の観点から,発症早期からの治療介入が重要であり,畿多の大規模前向き介入研究結果は,早期からの積極的な薬物療法による血糖管理が総死亡や血管合併症の抑制に寄与することを明らかにした。日本糖尿病学会は,3年前にHbA1cのNGSP値への移行を決めたが,2013年5月には熊本宣言による新たな血糖管理基準を設け,当面の管理目標値をHbA1c7%未満とした。
 治療ゴールを考えると, 目先の血糖管理ではなく長期間にわたる良好な血糖管理の維持が重要となる。血糖コントロールを長期間持続する上で,早期介入の必要性は言うまでもないが,同時に低血糖や体重増加のリスクが少なく,かつ食後の急峻な血糖上昇を抑制し,日内変動幅の縮小を伴う,いわゆる良質な血糖管理(良質なHbAlc) の達成が重要である。
 近年,欧米では,一律の厳格な血糖管理が,重篤な低血糖による死亡リスクの増加を伴いかねないことから,患者毎に最適な治療ゴールの設定と,治療薬選択を提唱している。最近,登場したインクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬は,安定した血糖低下効果に加えて,低血糖リスクが少ない,肥満を助長しない,他の血糖降下薬との併用効果が高まる,更には抗動脈硬化作用への期待から,使用頻度は急速に高まり,汎用されている。
 また新規治療薬としてインスリン作用に依存せず,尿糖排世促進により血糖降下に働くSGLT-2阻害薬,血糖依存性にインスリン分泌促進仕用を示すGPR40作動薬などが登場予定である。これら新規治療薬は,いわゆる良質な血糖管理に寄与するものと期待され,治療選択肢は更に広がるものと思われる。


演者略歴
加来浩平 (かく こうへい)
〔略歴〕
1973年3月 山口大学医学部卒業
1977年3月 山口大学大学院医学研究科修了
1977年8月 山口大学医学部第3内科助手
1984年4月 山口大学医学部第3内科講師
1986年7月 米国ワシントン大学留学
1990年1月 山口大学医学部第3内科助教授
1998年4月 川崎医科大学内科学教授
2013年4月 川崎医科大学内科学特任教授
(主な専門分野〕
糖尿病学,代謝・内分泌学,抗糖尿病薬の作用機構,膵インスリン分必能制御機構
〔主な学会活動歴〕
日本糖尿病学会(常務理事,中国四国支部長),日本内分泌学会(代議員),日本動脈硬化学会(評議員),日本糖尿病合併症学会(評議員),日本病態栄養学会(評議員),日本老年病学会(評議員),その他


 9. 新規抗菌薬の開発

 東京医科大学微生物学講座 松本 哲哉

 かつて日本を含めて製薬企業の抗菌薬開発はまさにしのぎを削るほど盛んであった。1980〜90年代に立て続けに新規抗菌薬が市場に出て,感染症は制圧されたかのような雰囲気が広がった。しかしその後,多くの製薬会社が抗菌薬の開発から撤退し,これから新しい抗菌薬が世に出ることは難しい状況に陥っている。その一方で,耐性菌の問題は深刻化しており,有効な抗菌薬の開発が望まれている。
 医療従事者に求められているのは,現在使用可能な抗菌薬を大切に用いて,なるべく耐性菌を増やさずにその有効性を長く保つことである。近年,国内外で強調されている「抗菌薬の適正使用」あるいは「Antimicrobial Stewardship」という考え方の背景には,これらの事情が大きく影響している。
 抗菌薬を大切に使うという考え方は重要であるが,それだけで今後の感染症の抱える問題が解決するとは考えにくい。そのため米国では,米国感染症学会 (IDSA) の主導のもと,大学や研究機関,製薬企業,さらに行政が一体となって新薬の開発を目指す動きが出てきている。具体的には2020年までに10個の新しい抗菌薬を創出することを目標として,GAIN法(The Generating Antibiotic Incentives Now Act of 2011) という法律が施行された。本法には耐性菌に有効な抗菌薬を開発した場合,市場独占期間の5年間延長などが盛り込まれている。また欧州でもこれと似た動きがあり,抗菌薬開発の支援体制が活発化している。
 日本の状況は後れを取っていると言わざるを得ないが,現在,日本化学療法学会が中心となって,日本感染症学会,日本臨床微生物学会,日本環境感染学会,日本細菌学会,日本薬学会とともに「新規抗菌薬の開発に向けた6学会の提言」を作成段階であり,話し合いには学会関係者だけでなく,製薬企業や厚生労働省,経済産業省,文部科学省などにも加わっていただき,コンソーシアムを設立しALLJAPANとしての新薬開発に向けた動きが活発化している。


演者略歴
松本哲哉 (まつもと てつや)
〔略歴〕
1987年3月 長崎大学医学部卒業
1987年6月 長崎大学医学部i付属病院第2内科入局
1993年3月 長崎大学医学部大学院修了(臨床検査医学)
1993年6月 東邦大学医学部微生物学講座助手
2000年9月 ハーバード大学ブリガム&ウイメンズホスピタル,チャニング研究所研究員
2004年10月 束邦大学医学部微生物学講座講師
2005年6月 東京阪科大学微生物学講座主任教授(現職)
2007年4月 東京医科大学病院感染制御部部長(兼任 : 2013年7月まで)
〔主な専門分野〕
微生物学,感染症学,呼吸器学,免疫学
〔主な学会活動歴〕
日本感染症学会(束日本支部理事),Journal of Infection & Chemotherapy (編集委員長),日本化学療法学会(東日本支部理事),日本臨床微生物学会(理事,元編集委員長),日本環境感染学会(評議員)


 10. 内科疾患治療による認知症予防

 岡山大学神経内科 阿部 康二

 ライフスタイルの欧米化が進行しているが,このために高血圧や高脂血症,糖尿病などのメジャーな内科疾患が増加している。このような内科疾患は脳梗塞の危険因子であると同時に,アルツハイマー病を中心とした認知症の危険因子でもあることが明らかにされてきている。
 カロリンスカ研究所での調査では,高血圧を治療しない場合には拡張期血圧が高いほど認知機能スコアが低下しており,また70歳時点での高血圧患者と正常血圧対照者とを比較したところ,高血圧患者群の方がその後10年間の間に認知症に進行した人が多く,この傾向は血管性認知症とアルツハイマー病に共通であった。即ち高血圧は認知障害全般の発症に先行するので認知障害予防のためには高血圧治療が重要であるとしている。
 内科疾患の中でも高コレステロール血症の認知障害発症への関与が最近特に注目されている。中年期に総コレステロール値が250mg/dlあると高年期でのアルツハイマー病発症リスクが2倍に増加することが知られており,基礎研究でもアルツハイマー病モデルマウスに高脂肪食を食べさせるとマウス脳内のアルツハイマー病変が増加した。
 また糖尿病と認知症の関連も特に注目されてきており,糖尿病患者では将来的な認知機能低下危険性が約2〜4 倍と指摘されている。当教室と岡山大学糖尿病内科との共同調査では糖尿病外来通院者の3.8%が認知症,7.7%が軽度認知機能障害(MCI)であることが判明した。
 このように高血圧や高脂血症,糖尿病などの内科疾患は,内臓肥満によるメタボリックシンドロームと関連して脳卒中や心筋梗塞,慢性腎障害を惹き起こすだけでなく,認知症をも惹き起こすことが分かつてきた。従ってメジャーな内科疾患をきちんと治療することは,脳卒中や心筋梗塞,慢性腎障害に加えて認知症の予防にも繋がる。


演者略歴
阿部康二 (あべ こうじ)
〔略歴〕
1981年3月 東北大学医学部卒業
1983年3月 内科初期研修修了(岩手県立胆沢病院)
1987年3月 東北大学大学院修了(医学博士)
1988年7月 アメリカ合衆国ハーバード大学神経内科学教室留学
1990年7月 アメリカ合衆国留学より帰国(助手)
1995年8月 東北大学医学部附属病院講師
1996年3月 東北大学医学部助教授
1998年4月 岡山大学医学部教授
2001年4月 岡山大学大学院脳神経内科学講座教授
2002年4月 岡山大学医学部附属病院副病院長
2010年7月 韓国脳卒中学会名誉会員
2012年9月 中国大連大学客員教授
〔主な専門分野〕
神経内科学,脳卒中,認知症,神経変性疾患
〔主な学会活動歴〕
世界脳循環代謝学会(理事長,会長),日本内科学会(評議員),日本神経学会(理事),日本脳卒中学会(国際委員長),日本脳循環代謝学会(理事),日本抗加齢アンチエイジング学会(評議員),日本認知症予防学会(理事),日本認知症学会(評議員),世界Vas-Cog学会(理事,共同会長),アジアVas-Cog学会(事務局長),日本VAS-COG研究会(代表世話人),日本血管生物学会(理事),日本老年医学会(評議員),日本過酸化脂質・フリーラジカル学会(評議員),日本ミトコンドリア学会(評議員)


 11. 原発性胆汁性肝硬変 (PBC) についての進歩と停滞

 山形大学内科学第二講座 上野 義之

 原発性胆汁性肝硬変 (PrimaryBiliary Cirrhosis : PBC) は厚生労働省の定める難治性の特定疾患であり,その病態形成については免疫学的な機序が想定されてきた。疾患の黎明期には患者の多くは黄疸などの症状を呈する症候性でありその予後は不良であったが,現在我が国では無症候性で診断される例が多数を占めている。無症候性PBCの予後は比較的良好であり,特に治療薬であるウルソデオキシコール酸(UDCA)により肝機能が良好にコントロールされる場合の予後は悪くない。しかし,PBCの予後の長期化に伴い,肝機能自体は良好に保たれているにもかかわらず,食道静脈瘤など門脈圧亢進症が出現する例や肝細胞癌を発症する例などこれまでと異なる視点で管理を必要とする症例も増えてきている。病態形成については,抗ミトコンドリア抗体の主要抗原であるPDC-E2に対するリンパ球などの過剰反応などの免疫担当細胞からみた異常が多く指摘されてきた。近年では傷害される肝内胆管上皮細胞自体の異常も多く報告され,PBCでの胆管障害の機序にはこの双方の異常がマッチすることが必要と考えられているが,未だ決定的な解明はされていない。また,近年の網羅的な遺伝子解析により日本人のPBCにおいても疾患感受性の遺伝子が報告されるに至ったが,その病態形成における役割は不明な点が多い。治療については早期の病期に対するUDCAの生命予後改善作用が明らかにされた。さらにUDCAに対する反応が不良である群に対してフィブレート薬が有効であることも報告されているが,経過が長期にわたるPBCでの予後改善効果については今後の課題である。またこれ以外の薬剤の開発については未だ停滞している状態ではある。しかし次世代シーケンシングなどの新しい手法を用いた解析も応用されつつあり,これまでにない切り口により未だ不明のPBCの病態解析が加速されることが期待される。


演者略歴
上野義之 (うえの よしゆき)
〔略歴〕
1987年3月 東北大学医学部卒業
1991年3月 東北大学大学院医学研究科博士課程修了
1992年8月 米国メーヨークリニック留学
1995年1月 JR仙台病院第二内科医長
1996年2月 東北大学医学部第三内科助手
2003年4月 東北大学病院消化器内科講師
2009年4月 東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野准教授
2011年11月 山形大学医学部内科学第二講座(消化器内科学)教授
〔主な専門分野〕
消化器内科学,肝臓病学,細胞生物学
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会(評議員),日本消化器病学会(財団評議員),日本肝臓学会(評議員),日本移植学会(評議員),米国消化器病学会(Fellow)、米国生理学会


 12. 冠動脈インターペンション治療の変遷と積極的薬物療法

 金沢大学医薬保健研究域医学系・臓器機能制御学循環器内科 山岸 正和  坂田 憲治  川尻 剛照

 狭心症・心筋梗塞などの冠動脈疾患の管理にあたっては,単に急性期治療に終始するのみならず,再発 (2次予防),更には本疾患群の発症そのものを予防する (1次予防) ことが肝要である。冠動脈疾患の急性期には,心筋虚血や続発する心不全のため,社会生活の制限を余儀なくされることから,冠動脈インターベンションの適応が大きく拡大された。心筋虚血が証明される冠動脈心疾患群では,インターペンションの効果が示されてはいるが,重症症例では必ずしも一定の成績が示されてはおらず,議論が盛んなところである。この際,用いる血管内ステントの進歩も考慮しての適応検討が重要である。第一世代ステントではかなりの長期間,抗血小板剤の投与が求められているが,次世代ステントではこれの短縮や減薬が期待されている。多枝冠動脈病変症例,左冠動脈主幹部症例などにおいては,大動脈-冠動脈バイパス術の適応症例が多いことも十分考慮せねばならない。血管内治療,外科的バイパス術のいずれにおいても,2次予防に向けての厳密な対策が必要である。我が国においても,漸く集中的脂質低下療法により,冠動脈粥腫が退縮することが証明され,また,臨床的にも予後改善がえられたとの追試も報告されつつある。血圧の管理を徹底することによる再発予防も報告されつつある。また,重要なことは,糖尿病が合併すると,これらの管理をより厳密にせねばならないということである。これらの環境因子のひとつとして,肥満対策も重要である。最近,女性における肥満基準の見直しが叫ばれているが,これは,従来の基準では,危険因子を多く保有する群を見逃してしまう恐れがあるからである。本教育講演では,目まぐるしく変化する生活環境の中での冠動脈疾患の病態,治療,予防について解説する。


演者略歴
山岸正和 (やまぎし まさかず)
〔略歴〕
1978年3月 金沢大学医学部卒業
1978年7月 国立大阪病院内科系研修医
1979年l月 大阪警察病院心臓センター内科医員
1981年7月 大阪大学医学部内科研究生
1982年l月 大阪大学医学部内科医員
1986年l月 国立循環器病センター内科心臓血管部門
1990年9月 アメリカ合衆国ケンタッキ一大学医学部循環器内科教室研究派遣
1991年9月 岡立循環器病センター内科心臓血管部門
1994年3月 国立循環器病センター内科心臓血管部門医長
2003年3月 兵庫医科大学臨床実習教授(委嘱)
2003年4月 国立循環器病センター研究所併任(バイオサイエンス部)
2006年l月 金沢大学医薬保健研究域医学系臓器機能制御学・循環器内科教授
〔主な専門分野〕
内科学,循環器内科学
〔主な学会活動歴〕
日本循環器学会(理事),日本内科学会(評議員),日本心エコー図学会(理事),日本心臓病学会(理事),日本心血管インターベンション治療学会(理事),日本心血管画像動態学会(理事),日本心不全学会(評議員),日本動脈硬化学会(評議員),アメリカ合衆国心臓学会 フェロー(FACC)


 13. COPDと全身併存症

 奈良県立医科大学内科学第二講座 木村 弘

 COPDは長期の喫煙歴をもつ中高年者に発症し,しばしば喫煙や加齢に伴う全身併存症が認められる。またCOPD自体が全身性に影響をもたらし栄養障害,骨格筋機能障害,心血管疾患,骨粗鬆症,抑うつ,糖尿病などの併存症を誘発する。
 近年,呼吸機能の経年変化をはじめとするCOPDの自然歴には個体差が大きいことが明らかになった。また併存症のクラスター解析から,心血管障害,栄養障害,代謝性疾患,精神的影響などを主な併存症とする異なるphenotypeの存在が報告されており,合併する併存症によってCOPDの臨床像の多様性が規定されていることも明らかになった。
 各種併存症の基盤病態としては全身性炎症があげられ,CRPなどのバイオマーカーとの関連が認められる。一方,抗動脈硬化作用を有する血中 adiponectin が低値の場合は心血管疾患による入院や死亡リスクが増加し,高値の場合は呼吸不全死が増加することが示唆されている。わが国では体重減少のある気腫型COPDにおいては adiponectin は高値となることが報告されており,心血管イベントによる死亡が低率であることとの関連が推測される。adiponectin と併存症や死亡リスクとの関連において,重症度や肥満度の影響も認められ,欧米とわが国での差異も留意すべきである。
 併存症対策としては全身性炎症の制御が根幹となる。しかし現状ではエピデンスを有する治療戦略は確立されていない。蛋白同化作用や摂食促進作用とともに抗炎症効果も有するグレリンの投与が有望視されている。一方,COPDの肺内において発現が低下している sirtuin 1 の活性化は,単なる炎症ではなくストレスに起因する早期の細胞老化/気腫化に対する治療法として着目されつつあるが,全身との関わりも注目される。COPDにおいては併存症を含めた包括的な病態評価と管理が求められ,今後の新規治療の展開が期待される。


演者略歴
木村 弘 ( きむら ひろし)
〔略歴〕
1978年3月 金沢大学医学部卒業
1987年2月 千葉大学医学部肺癌研究施設内科助手
1988年3月 ペンシルベニア大学医学部内科学呼吸器部門博士研究員
1992年10月 千葉大学医学部附属病院呼吸器内科講師
1997年2月 千葉大学医学部肺癌研究施設内科助教授
2001年4月 奈良県立医科大学医学部内科学第二講座教授
〔主な専門分野〕
内科学,呼吸器病学,呼吸不全,COPD,肺高血圧症,睡眠時無呼吸症候群
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会(評議員),日本呼吸器学会(理事,2015年学術講演会会長),日本ケア・リハビリテーション学会(理事,2014年学術集会会長),日本肺高血圧症学会(理事),日本アレルギー学会(代議員),日本結核病学会(代議員),日本呼吸器内視鏡学会(評議員),日本肺癌学会(評議員),日本睡眠学会(評議員),日本抗加齢医学会(評議員)


 14. Treat to Target と関節リウマチ

 慶應義塾大学リウマチ内科 竹内 勤  金子 祐子

 関節リウマチ(RheumatoidArthritis : RA)の関節破壊は,早期に急速に進行する事,それによる身体機能障害は不可逆的である事が広く認識されるようになった。これを防ぐためには早期診断と積極的治療介入が必須である。RAの治療は,極めて有効性の高い薬剤の登場,生物測定学の充実,薬物治療戦略の理解を深める臨床研究,などによってパラダイムシフトとも呼ばれる程の大きな進展を見せた。また,2010年には早期診断率向上にむけた新分類基準が,2011年には厳格かつ高い目標となる新寛解基準が策定された。大切なことは治療開始後,目標達成に向けて厳密な活動性管理すなわちタイトコントロールを行って,臨床的寛解を速やかに達成し維持することである。この大きな目的を達成するために始動したのがTreat to Target (T2T)運動である。T2Tとは,設定した治療目標に向かってタイトコントロールをしていく治療戦略で,将来の関節破壊を防止するためには極めて重要な手法である。T2Tの骨子は,世界から集結した代表によって策定されたもので,4つのOverarching Principles (基本的な考え方)と10の recommendations からなる。治療目標はまず臨床的寛解を達成すること,臨床的寛解とは疾患活動性による臨床徴候が消失した状態と定義されること,臨床的寛解を目標として薬物療法は3カ月ごとに見直すべきであること,治療方針決定には関節所見を含む総合的疾患活動性指標を用いて評価する必要があること,治療目標は全経過を通じて維持すべきであること,などが記されている。かつては治らない疾患として痛みを抑えるだけであった時代は終わり,今,RA診療は,糖尿病,高血圧と同様に明確な治療目標を患者と共有し,長期的な予後を見据えて治療する時代となった。タイトコントロールを基軸としたT2Tリコメンデーションが広く医師-患者に認識され,それに基づいた治療が実践されれば,短期的にも長期的にも大きくアウトカムが改善されるものと期待されている。


演者略歴
竹内 勤 (たけうち つとむ)
〔略歴〕
1980年9月 慶應義塾大学医学部卒業
1984年9月 慶應義塾大学大学院医学研究科修了
1985年1月 ハーバード大学ダナ・ファーバー研究所留学
1989年4月 埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科講師
1993年1月 埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科助教授
1998年7月 埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科教授
2004年8月 埼玉医科大学副学長
2009年8月 慶應義塾大学医学部リウマチ内科教授
2011年10月 慶應義塾大学医学部医学部長補佐
2013年10月 慶應義塾大学病院病院長
〔主な専門分野〕
内科学,自己免疫疾患,膠原病リウマチ学,臨床免疫学
〔主な学会活動歴〕
日本リウマチ学会(理事),日本臨床免疫学会(理事),日本炎症・再生医学会(理事),日本臨床リウマチ学会(理事),日本内科学会(評議員),日本アレルギー学会(評議員),日本感染症学会(評議員)


 15. 心不全に対する疾病管理

 北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学 筒井 裕之

 慢性心不全患者は高齢者が多く,高血圧,糖尿病,慢性腎臓病(CKD),貧血など複数の合併症を有し,死亡率が高いばかりでなく,増悪による入院を反復する。心不全増悪による入院の誘因には,塩分・水分制限の不徹底,治療薬服用の不徹底など予防可能な要因の関与が大きい。さらに,抑うつや不安,ソーシャルサポートなどの心理・社会的要因も関与する。したがって,再入院の予防には適切な薬物・非薬物治療とともに,患者教育・モニタリング・服薬管理を含む疾病管理が必要である。なかでも患者教育は重要であり,一般的知識,症状のモニタリングと増悪時の対処方法,食事療法,薬物治療,活動および運動,増悪因子の是正などについて,入院中,退院時,さらに外来において継続的に取り組む必要がある。このような疾病管理を実施する医療チームは,多職種で構成され,患者を中心に,患者が抱える問題に応じて,それぞれの職種の専門性を十分に発揮し問題の解決にあたることも重要である。最近我々は,慢性心不全の増悪により入院した患者を対象に,退院後の看護師による月2回の訪問指導を4回,月1回の電話による患者指導・療養支援を4回実施する疾病管理プログラムが,抑うつや不安を軽減するとともに,QOLを改善し,心不全の増悪による再入院を抑制することをあきらかにした (J-HOMECARE試験)。本研究は,わが国において有効かつ効率的な慢性心不全に対する疾病管理プログラムを例示するとともに,その抑うつや不安などに対する効果を明らかにした点で意義があると考えられる。疾病管理は患者の薬物治療へのアドヒアランスを向上させることも期待できる。慢性心不全に対しては標準的薬物・非薬物治療を実施するだけでは不十分であり,予後やQOLの改善には疾病管理が必須の治療戦略である。今後わが国において心不全の疾病管理に幅広く取り組む体制を整備していく必要がある。


演者略歴
筒井裕之 (つつい ひろゆき)
〔略歴〕
1982年3月 九州大学医学部卒業
1982年6月 九州大学医学部循環器内科入局
1990年8月 米国サウスカロライナ医科大学留学
2000年10月 九州大学医学部循環器内科講師
2004年9月 北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学教授
2008年4月 北海道大学病院卒後臨床研修センターセンター長(併任)
2010年9月 北海道大学病院病院長補佐(2013年3月まで)
2013年4月 北海道大学病院副病院長(併任)
〔主な専門分野〕
内科学,循環器内科学,臨床疫学,心血管病,心不全,酸化ストレス
〔主な学会活動歴〕
日本循環器学会(理事),日本心不全学会(理事),日本心臓病学会(理事),日本心臓リハビリテーション学会(理事),米国心臓学会,欧州心臓学会(FESC),国際心臓研究学会(日本部会理事)


 16. 難治性ネフローゼ症候群の実際と治療

 金沢医科大学腎臓内科学 横山 仁

 ネフローゼ症候群 (以下ネ症) は,大量蛋白尿による低アルブミン血症と浮腫および脂質異常症を伴う疾患群である。中でも難治性ネ症は,ステロイドと免疫抑制薬を含む種々の治療を6カ月行っても,完全寛解(尿蛋白<0.3g/日)または不完全寛解1型(0.3g/日≦尿蛋白<1.0g/日)に至らない場合と定義される。その主な疾患は,一次性 (巣状分節性糸球体硬化(FSGS),膜性腎症(MN),膜性増殖性腎炎) と二次性 (糖尿病性腎症,若年女性のループス腎炎,高齢者のアミロイド腎) であり,これらの病型はネ症の約60%を占める。一方成人ネ症全体の約25%を占める微小変化型(MCNS)では,ステロイド依存性ならびに頻回再発型が問題となる。
 その治療は,症候である浮腫および脂質異常症等に対する対症(補助)療法と糸球体疾患に対する根本的な治療に分けられる。二次性疾患は,基礎にある疾患の治療が主となるが,一次性疾患に対しては,副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬による治療が主である。ネ症では,蛋白異化抑制に十分なエネルギー摂取が重要であり,糖尿病や肥満がなければ蛋白0.8g/kg体重と35kcal/kg体重とする。浮腫の治療は,病態に応じ塩分6g/日までとし,ループ利尿薬および遠位尿細管のNaエスケープ現象を予防する意味で少量のサイアザイド系利尿薬を併用する。脂質異常症が持続する場合および腎保護効果を期待したスタチン治療が推奨される。
 一次性疾患の薬物治療は,ステロイドが基本であり,病型・病態に応じて調節する。経口ステロイドとして,FSGSはPSL1mg/kg/日(最大60mg)相当を初期投与量とし,重症例ではステロイドパルス療法を併用する。MNではPSL0.6〜0.8mg/kg/日相当とする。さらに,ステロイド抵抗性例あるいは早期寛解目的で免疫抑制薬 (シクロスポリン,ミゾリビンまたはシクロホスファミド) を併用する。くわえて,難治性FSGSにはLDLアフェレシスを考慮する。また,B細胞異常あるいは難治性FSGS・頻回再発型MCNSにおいて抗CD20抗体(保険外)が試みられる。


演者略歴
横山 仁 (よこやま ひとし)
〔略歴〕
1980年3月 金沢大学医学部医学科卒業
1987年4月 金沢大学医学部附属病院第1内科助手
1992年8月 米国Brigham and Women病院腎臓内科研究員・Harvard大学医学部講師
1994年4月 金沢大学医学部附属病院血液浄化療法部助教授
2006年4月 金沢医科大学医学部腎臓内科学 主任教授 (現在に至る)
2013年9月 金沢医科大学医学部長 (現在に至る)
〔主な専門分野〕
腎臓病学,血液浄化療法,臨床腎移植
〔主な学会活動歴)
日本腎臓学会(理事),日本透析医学会(評議員),日本アフェレシス学会(評議員),日本高血圧学会(評議員)


 17. カルシウム代謝異常の病態と治療

 虎の門病院内分泌センター 竹内 靖博

 多方面からの研究の進展により,カルシウム(Ca)代謝異常の病態の理解が深まっている。治療に関する進歩も著しく,現在もイノベーションが続いている。本講演では臨床的に重要性の高い関連項目を取り上げる。
 1 .病態
 1) ビタミンD欠乏症 : くる病や骨軟化症は稀であるが,潜在的なビタミンD欠乏症は成人の3〜5割に及ぶと推定されている。本症は,骨Ca代謝のみならず,糖代謝・免疫・発癌にも関連することが明らかにされつつある。ビタミンD充足度の評価には血中25水酸化ビタミンD濃度の測定が必須であり,その保険収載が望まれる。
 2) 自己免疫性高Ca血症 : Ca感知受容体に対する自己抗体により家族性低Ca尿性高Ca血症様の病態が惹起されることが明らかにされ,その病態の解明と共に,臨床的な問題点に関する研究が進められている。
 3) FGF-23依存性骨軟化症 : 低リン血症性骨軟化症は稀な病態であるが,難治性の疼痛や骨折の原因となる。FGF-23の過剰は,ビタミンD活性化障害とリン排世亢進により本症を惹起する。FGF-23の血中濃度測定が病態の鑑別と早期診断に有用であり,適切な治療のためにもFGF-23測定の保険収載が望まれる。
 2. 治療
 1) シナカルセト : 副甲状腺癌における高Ca血症は,治療に難渋することが多い。本症に対するCa感知受容体作動薬であるシナカルセトの効果と安全性に関する臨床試験が国内で実施され,適応拡大が承認される見通しである。
 2) ヒトPTH(1-84) : PTH分泌不全性副甲状腺機能低下症の治療は,現在,活性型ビタミンD3を主体に行われているが,相対的に尿中Ca排世過剰となる患者では,腎障害や腎結石を生じやすく治療が困難であった。この問題を解決するため,ヒトPTH(1-84)の副甲状腺機能低下症の治療における有用性が検討されている。
 3) 抗FGF-23中和抗体 : FGF-23依存性骨軟化症の多くは腫瘍随伴症候群あるいは伴性優性の先天性疾患であり,しばしば治療に難渋する。現在,抗FGF-23中和抗体による治療効果に関する臨床研究が進められている。


演者略歴
竹内 靖博 (たけうち やすひろ)
〔略歴〕
1982年3月 東京大学医学部卒業
1988年11月 米国国立衛生研究所 (NIH) 骨研究部門研究員
1992年6月 東京大学医学部第四内科助手
2003年5月 東京大学医学部腎臓・内分泌内科講師
2004年4月 国家公務員共済組合連合会虎の門病院内分泌センタ一部長
〔主な専門分野〕
内分泌学全般,骨・ミネラル代謝学,代謝性骨疾患
〔主な学会活動歴〕
日本内科学会(評議員,関東地方会幹事),日本内分泌学会(評議員,学術誌編集委員など),日本骨代謝学会(評議員,学術誌編集委員),日本骨粗鬆症学会(評議員),日本老年医学会(代議員),International Bone and Mineral Society (Editorial Board)


 18. 造血幹細胞移植の現状と課題

 名古屋第一赤十字病院血液内科 宮村 耕一

 造血幹細胞移植(HSCT)は骨髄毒性が用量制限毒性となる抗腫瘍療法において最大耐容量を超えた治療を可能とするとともに,同種造血幹細胞移植においては同種免疫の力による抗腫瘍効果に期待をするものである。また,先天性造血不全や再生不良性においては,病的骨髄を健常のものと置き換える治療法でもある。造血幹細胞ソースとしては骨髄,末梢血幹細胞,膳帯血があり,遺伝的背景により自家,同家,同種(血縁,非血縁)に分かれる。血縁者間HSCT,非血縁者間HSCT,臍帯血移植とも1,000例を超え,同種移植は2011年3,400例が施行され,確立された治療法となっている。同種HSCTは不治の造血器疾患を救命できる治療法である一方,未だ半数の患者が原病の再発,移植関連合併症により死亡する発展途上の治療法でもある。これは患者とドナーの間の遺伝的な背景の違いが,どのように移植結果に影響するか,すなわち重症のGVHDを減らし,ドナーの免疫力による抗腫瘍効果を残こすために,前処置や免疫抑制剤をどのように使っていけばよいのかという難問に対し,未だ無限な原野が広がっているからである。もう一つの特徴として,同種HSCTは善意のドナーがいて初めて成り立つ治療法であり,ドナーを集めるために多くのボランティアの努力があるということである。臍帯血もまた多くの母親の善意に支えられている。骨髄パンクには現在40万人を超えるドナーがいるが,骨髄パンクに登録した患者の6割しか移植を受けられない現実があり,コーディネート期間が長いこと,適当なドナーがいないことが原因である。平成24年に成立した「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」は,この問題を国が責任を持って改善するというものであり,画期的な事である。また平成23年度に開始された非血縁者間末梢血幹細胞移植の導入により全身麻酔を心配するドナーの増加,コーデイネートの短縮が期待される。


演者略歴
宮村耕一 (みやむら こういち)
〔略歴〕
1983年3月 名古屋大学医学部卒業
1983年4月 名古屋第一赤十字病院血液内科研修医,医員
1988年5月 東京都立駒込病院化学療法科医員
1989年7月 名古屋大学第一内科医員
1992年4月 NIH Hematology Branch/NHLBI
1994年7月 名古屋大学第一内科医員
2001年4月 東北大学医学部血液免疫科助手,講師,助教授
2003年7月 名古屋第一赤十字病院血液内科部長,センター長,副院長
〔主な専門分野〕
造血幹細胞移植,血液内科,感染症
〔主な学会活動歴〕
日本造血細胞移植学会(理事),日本血液学会(代議員)


第111回日本内科学会総会・講演会 平成26年4月11日〜13日 東京国際フォーラム 会長:東北大学 伊藤 貞嘉
(ポスター)
浅草吾妻橋の「鰻禅」で、鰻丼を賞味した。私は、いつもの「二段重」(去年の5500円が6500円に)、奥さんは小食なので「上」(去年の2000円と変わらず)を頼んだ。「:2000円・特上:3500円・二段重:6500円」のお品書きがあるが、鰻丼の量の違いだけとのこと。一巡目の客になれたので、割と早く、入店40分位で焼き上がってきた。鰻の兜煮や鰭焼きなどが酒肴としてつくので、私はビール2本注文し、入店直後から飲んで幸せでいた。



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(13/10/12土曜分)
第21回 JDDW日本消化器関連学会週間pdf書類(244KB)の教育講演会pdf書類(147KB)参加のため、東京(品川)へ日帰り出張だ。

JDDW 2013 教育講演会抄録
教育講演1 9:00 - 9:50   第1会場:グランドプリンスホテル新高輪国際館パミール/北辰
「消化器癌のサーベイランス」肝がんサーベイランス 2013
司会:名越 澄子 埼玉医大総合医療センター・消化器・肝臓内科
演者:佐田 通夫 久留米大・消化器内科

 本邦の原発性肝がんによる死亡者数は年間3万人を超えており,男性は死因の第4位,女性は第5位である.肝がんは,早期発見により外科的切除術やラジオ波焼灼療法などの根治的な治療が可能となることから,肝がんサーベイランスは予後の改善に繋がると考えられる.肝がんは慢性肝疾患患者に高頻度に発症する.しかし,その頻度は一様でないことから,サーベイランスの手法は肝疾患の成因と肝線維化の程度により異なる.科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン(日本肝臓学会編)ではB型慢性肝炎,C型慢性肝炎もしくは肝硬変患者を「高危険群」に,B型肝硬変とC型肝硬変患者を「超高危険群」に定めている.高危険群に対しては6ヵ月に1度,超高危険群に対しては3〜4ヵ月に1度の腹部超音波検査と血清腫瘍マーカーによるサーベイランスが推奨されている.サーベイランスを受けていた高危険群の患者は,サーベイランスを受けなかった患者に比べて肝がんが早期発見されるという研究結果がこれまでに多数報告されており,本サーベイランスの有用性が示されている.また,近年,腫瘍マーカー(高感度AFP-L3分画,改良型PIVKA-II)や画像検査(造影エコー,Gd-EOB-DTPA造影MRI)の進歩により肝がんの診断技術は向上している.これらの検査を適切にサーベイランスに組み込むことで,高危険群および超高危険群における肝がんサーベイランスの意義はさらに高まると考えられる.他方,肝がんを発症する患者の特徴が変化していることに留意しておく必要がある.HCV関連肝がんは,これまで肝硬変を経て肝がんを発症する場合が一般的であったが,現在では,肝硬変を経ずに肝がんを発症する症例が増加している.また,インターフェロン治療により持続性ウイルス陰性化が得られた患者からも肝がんが発症する場合があり,これらの発がんの原因として加齢,飲酒,肥満,糖尿病およびその治療薬,潜在性HBV感染などが報告されている.B型慢性肝疾患の治療は核酸アナログ製剤の登場により飛躍的に進歩したものの,未だHBV関連肝がんは減少していない.肝細胞核内のHBV cccDNAと相関する血清HB コア関連抗原は,核酸アナログ服用時における肝がんの発症の危険因子であることが報告されている.このように,各患者に適したサーベイランスを行うためには,肝線維化に加えて,他の危険因子の状態を把握する必要がある.HBs抗原およびHCV抗体が陰性の非B非C肝がんは,近年,その患者数が増加しているだけでなく,進行癌で診断される場合が多い.非B非C肝がんの基礎疾患として自己免疫性肝疾患,非アルコール性脂肪性肝障害,アルコール性肝障害,糖尿病,潜在性HBV感染症などが報告されているものの,これら全ての疾患を有する患者をサーベイランスすることは人的資源や対費用効果の点から現実的でなく,ハイリスクグループ設定のための危険因子の同定が急務である.最近,我々は非B非C肝がんの発症の特徴をデータマイニングにより解析し,非B非C肝がんのサーベイランスに有用と思われる危険因子を同定した.本教育講演では,肝癌診療ガイドラインの肝がんサーベイランスについて概説するとともに,新たな診断法や近年の肝がんの特徴についても紹介する.また,今後も増加が予想される非B非C肝がんに対するサーベイランスについて,当科での研究結果を含めて論ずる.
教育講演2 9:50 - 10:40
「消化器癌のサーベイランス」胆道癌の診断と治療
司会:滝川 一 帝京大・内科
演者:海野 倫明 東北大大学院・消化器外科学

 胆道癌は日本において年間死亡者数は約17000人(第6位)に位置する,決して稀ではない癌腫である.胆管癌・胆嚢癌・十二指腸乳頭部癌がいわゆる狭義の胆道癌であるが,肝内胆管上皮から発生した肝内胆管癌は,取り扱い規約上,肝癌に含まれるが,その由来を考えると広義の胆道癌に含まれるべき癌である.これら胆道癌の治療成績は医学・医療が進歩した現在においてもいまだ不良であり満足すべきものではない.その原因は多岐にわたるが,第一に診断に関する因子が挙げられる.胆道癌の早期診断はいまだ困難であり,黄疸や腹痛などの有症状症例が大部分を占める.高リスク群の絞り込みもいまだ十分ではなく,遺伝要因や環境要因の解析が待たれている.MD-CTやMRI, EUSなどの高細度画像診断機器の発展により局在診断や質的診断の進歩が見られるが,微小な早期癌を発見することは不可能である.また早期診断のためのバイオマーカー研究がなされいくつかの候補が示されているが,いまだに研究段階であり臨床応用にはまだまだ時間がかかるものと思われる.一方,治療に関しても多くの問題が山積している.外科治療の向上により肝門部胆管癌に対する尾状葉併施半肝切除や下部胆管癌・十二指腸乳頭部癌に対する膵頭十二指腸切除などの治療法が確立し,治癒切除率の向上,術後合併症の軽減が図られてきている.診断学の進歩と合わさって,極めて不良であった以前の治療成績は21世紀に入り急速に向上し,5年生存率は40-50%に達するようになった.しかしながら胆道癌の治療は未だに大きな課題を背負っている.第一に切除不能であった胆道癌の予後は極めて不良で,現時点で最も有効であるGemcitabine+CDDP(GC療法)による化学療法を施行しても平均生存期間は1年以内である.より優れた抗癌剤や分子標的治療薬の開発が待たれるところである.第二に,進行癌は治癒切除が行われたとしても多くの症例が再発する.特にリンパ節転移を有している症例は予後不良であり,リンパ行性転移や血行性転移に対する治療戦略確立は急務である.現在,Gemcitabineを軸とする術後補助化学療法の臨床研究が遂行中でありその結果が待たれる.一方,予後不良因子を有する症例,例えばリンパ節転移が高度であるもの,切除断端陽性となる可能性が高いもの,高度な脈管浸潤を有している症例などを,""not optimally resectable""と定義することができよう.これら症例に対しての術前化学(放射線)治療などが検討されており結果が期待される.切除不能症例に対してもGC療法を凌駕する抗癌剤の組み合わせや放射線治療の上乗せ効果の有無,分子標的治療薬の研究開発など,多くの課題が山積している.さらには,発生部位や環境要因,遺伝子変異の有無,バイオマーカー発現等による胆道癌のcharacterizationが行われるべきで,これら科学的因子に基づく個別化治療が望まれている.
教育講演3 10:40 - 11:30
「消化器癌のサーベイランス」膵臓がんの診断と治療(化学療法を含めて)
司会:横須賀 收 千葉大大学院・消化器・腎臓内科学
演者:古瀬 純司 杏林大・腫瘍内科学

 がんの統計によると,わが国の膵癌による罹患数は年間29,025名(2007年),死亡数は年間28,829名(2011年)であり,依然増加傾向にある.また,罹患数と死亡数がほぼ同数であること,切除例も含めた5年生存率が10%以下であることなど,膵癌は極めて予後不良の癌腫である.現在,切除手術が唯一膵癌に対する根治治療であり,早期診断の確立が望まれるが,未だ多くが切除不能の状態で診断されている.1) 膵癌診療ガイドラインの改訂 2013年,膵癌診療ガイドラインが改訂される予定であり,リスクファクター,診断手順,化学療法など新たなエビデンスも出てきている.早期の膵癌診断については,リスクファクターを有する例でのスクリーニングの重要性や早期発見を目指した地域連携の取り組みも行われている.また,リスクファクターのひとつである家族性膵癌ではプラチナベースの化学療法が極めて有効との報告も出てきている.2)切除不能膵癌に対する化学療法わが国では2001年よりゲムシタビン(GEM)単独療法が切除不能膵癌に対する標準化学療法として用いられてきた.その後,新たな治療法の開発が積極的に行われてきたが,必ずしもよい結果は得られていなかった.その中で,上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬エルロチニブがGEMとの併用により,有意な生存期間の延長を示している.わが国でも日本人での安全性確認のための第2相試験が行われ,2011年保険適用が承認された.一方,経口フッ化ピリミジン薬S-1は第2相試験で有効性が見込まれ,2006年適用が承認された.その後,GEM,S-1,GEM+S-1併用(GS療法)の3群による第3相試験(GEST試験)が実施され,GEMに対するS-1の非劣性が証明されたものの,GS療法の優越性は得られなかった.これらのエビデンスにより,2013年の改訂版ガイドラインでは切除不能膵癌に対する標準化学療法として,GEM,S-1,GEM+エルロチニブが推奨されている.最近,海外では5-FU,ロイコボリン,イリノテカン,オキサリプラチンを併用するFOLFIRINOX療法およびGEM+ナブ-パクリタキセル併用療法が相次いでGEMに対して有意な生存期間の延長を示し,わが国でもこれらの治療法が近く導入されるものと期待されている.今後,膵癌治療も多様化が見込まれ,適切な選択と確実な実施が求められるものと考えられる.3) 切除後補助療法の動向GEMが切除不能膵癌の標準治療として確立した後,術後補助療法でもGEMを用いた検討が行われてきた.海外で行われたGEMと手術単独との比較試験(CONKO-01試験),GEMと5-FU+folinic acidとの比較試験(ESPAC-03試験),わが国で行われたGEMと切除単独の比較試験(JSAP-02試験)の結果,GEMが標準術後補助療法として広く用いられてきた. 最近の動向として,海外ではGEM+カペシタビンなどの併用療法やFOLFIRINOXなどによる術後補助療法が行われている.わが国ではS-1とGEMとの第3相試験(JASPAC-01試験)の結果が2013年1月公表された.当初GEMに対するS-1の非劣性を検証するデザインであったが,GEMに対するS-1のハザード比が0.56と有意に良好な成績が得られ,優越性が証明された.2013年改訂ガイドラインでは,治癒切除後の補助療法はS-1が第一選択の治療として推奨されている.現在,直接の抗腫瘍効果の高いGEM+S-1併用を用いた術後補助療法あるいは術前補助療法の臨床試験が進められている.
教育講演4 14:00 - 14:50
「消化器癌のサーベイランス」食道扁平上皮癌のサーベイランス
司会:屋嘉比 康治 埼玉医大総合医療センター・消化器・肝臓内科
演者:有馬 美和子 埼玉県立がんセンター・消化器内科

 食道癌のサーベイランス,特に食道表在癌のサーベイランスには内視鏡検査が不可欠である.ヨード染色とNBIやFICE,Blue LASER imaging (BLI)などの画像強調法併用拡大内視鏡が診断精度の向上に寄与している.食道癌のハイリスクグループおよび,診断経緯,画像強調法併用拡大内視鏡による食道癌のサーベイランスの方法と成績について報告する.1)食道癌サーベイランスにおけるリスク因子:食道扁平上皮癌のリスク因子は,55歳以上の男性,大酒家,ヘビースモーカー,野菜・果物の摂取不足,食道・頭頸部癌の家族歴などが挙げられ,リスク因子が重なるほどリスクが高くなる.飲酒家のなかでもアルデヒド脱水素酵素2 (ALDH2)のヘテロ欠損とアルコール脱水素酵素1B (ADH1B)のホモ低活性型のリスクは高く,現在または飲み始めた1〜2年にコップ1杯のビールで顔が赤くなる体質かどうかが目安になり,赤血球のMCV増大がマーカーとなる.内視鏡所見のマーカーとしては,口蓋や咽頭・食道のメラノーシス,多発ヨード不染が拡がるまだら不染食道があり,これらのサインがある症例は頭頸部癌および,多発食道癌のリスクが高い.2)食道表在癌の発見経緯:食道表在癌の発見には内視鏡検査が必要であることは周知の事実である.2010年1月〜2012年12月に当院で内視鏡治療を施行した表在癌178例でも,177例(99.4%)が内視鏡検査で発見されていた.また,検査を受けるきっかけとなった症状を有した16例中,食道癌が原因と考えられる前胸部違和感や熱い物がしみるなどの症状を示したのは4例(2.2%)に過ぎなかった.150例(84.3%)は症状がないものの,人間ドックや定期的な健康診断,集団検診の内視鏡検査で発見されていた.3)頭頸部癌患者の上部消化管スクリーニング内視鏡検査における食道癌サーベイランス:NBIなどの画像強調法を併用すると,早期食道癌の多くはbrownish areaとなって視認しやすくなるが,これらは通常観察でも十分拾い上げが可能な病変であることが多い.血管変化の乏しい上皮内癌や白色調の病変もあるため白色光観察も重要であり,接線方向になって観察しにくい部位もあるので初回検査時にはヨード染色も併用することが勧められる.頭頸部癌初診患者の初回スクリーニング内視鏡検査における,食道表在癌の拾い上げ診断能を検討した.往路は通常光観察し,復路でNBI/FICE/BLI観察したのち,ヨード染色を行い,2009年12月〜2013年3月に検査を施行した353例中43例(12.2%)に食道癌が発見された.通常光観察で発見された症例が37例(86.1%),NBIが1例,ヨード染色が6例であった.使用機種ではGIF-H260Zを用いた176例中19例(10.8%),EG-590ZWが75例中9例(12.0%),EG-L590ZWが102例中15例(14.7%)の発見率であった.4)食道表在癌内視鏡治療後の多発病変のサーベイランス:食道表在癌内視鏡治療後のfollow up内視鏡は,基本的に6ヶ月ごとに行っている.画像強調法併用拡大内視鏡を用いた内視鏡検査で,異時性多発癌の発見頻度,発見したmodality,症例の特徴を検討した.2006年1月〜2012年10月に内視鏡治療を施行した280例中,多発癌は33例48病巣(11.8%)に認められた.このうち通常光観察で発見したものが37病巣(77%),BLIが2病巣,ヨード染色が9病巣であった.33例中25例(76%)は背景粘膜がヨード染色で高度なまだら不染を示し,そのうちの15例が頭頸部癌合併例であった.食道癌の早期発見には高解像度の内視鏡を使用することが勧められるが,病変の拾い上げには使用している機種に応じた画像強調法の活用が有効と考える.
教育講演5 14:50 - 15:40
「消化器癌のサーベイランス」胃がんのサーベイランス(診断と治療を含めて)
司会:平石 秀幸 獨協医大・消化器内科
演者:上村 直実 国立国際医療研究センター国府台病院

 他のがんと同様,胃がんも遺伝子異常の重複により臨床的胃がんへと発育することが知られているが,H. pyloriの出現によりその概念や診療における対応が大きく変わってきた.本教育講演では,現時点での胃がんのサーベイランスに関する最近の変化を紹介する.1)胃がんの疫学と自然経過悪性腫瘍の中でも罹患率が最も高く,死亡者数は肺がんに次いで2番目である.最近の疫学における動向では,H. pylori感染率の推移と並行して若年者の胃がん死亡率は著明に低下しているが,高齢者の胃がん死亡者数は逆に増加している.胃がんは,分子レベルの発がんから内視鏡で観察可能な大きさに発育するのに10年以上を要すると推測されているが,,H. pylori感染は早期の段階におけるpromoterとして胃がんの発育に関与している.その後,臨床的に内視鏡治療可能な早期がん,外科的切除が可能な早期から進行がん,そして腹膜浸潤や遠隔転移を有する予後不良な進行がんに発育していく.2)H. pylori除菌による胃がんの予防現時点で分子レベルでの発がん予防をヒトで確認する手段はないが,H. pyloriの除菌による胃がん予防が注目されている.中でもEMR後の除菌による異時性胃がんの発見頻度が低下するとの報告が有名であるが,除菌後にも胃がんが発見されるケースもあり,除菌による胃がん予防が完全でない点に注意する必要がある.3)胃がんの早期発見方法H. pylori除菌による胃がん予防が完全でない現在,胃がん対策には早期発見が重要である.わが国は胃がんの最多国であり,従来,バリウム検診を中心として胃がんの早期発見に対する努力が払われてきたが,最近.バリウム検診に多くの課題がみられる.一方,胃粘膜の萎縮性変化を判定できる血清ペプシノゲン法(PG法)と血清のピロリ抗体を利用した『胃がんリスク検診』が注目されている.この方法は,X線や内視鏡のように病変を直接調べるものではなく,H. pylori感染の有無とPG値から背景胃粘膜の胃がんリスクを判定する方法である.今後,胃がんによる死亡者を減少するためには血清学的に判定可能であるPG法と血清抗体法を使用した『胃がんリスク検診』と除菌治療を組み合わせた戦略が必要と思われる.その他,来るべきH. pylori陰性時代を考慮してH. pylori感染に関連のない胃がんについても言及したい.
教育講演6  15:40 - 16:30
「消化器癌のサーベイランス」大腸
司会:屋嘉比 康治 埼玉医大総合医療センター・消化器・肝臓内科
演者:斎藤 豊 国立がん研究センター中央病院・内視鏡科

 【大腸癌の発育進展】大腸癌の発育進展には,以前よりポリープ癌化説が支持され大腸癌における早期診断・治療の中心的役割を担ってきた.一方,工藤らの診断努力により陥凹型早期大腸癌が稀ならず存在することが明らかとなっている.【多施設前向き無作為化比較試験-Japan Polyp Study (JPS)】陥凹型腫瘍の頻度も異なり,内視鏡観察の精度も異なる欧米の知見をそのまま日本に当てはめることには異論があり,日本における多施設共同無作為化比較試験が計画され,すでにRCT後の経過観察を終了した.【多施設における遡及的検討-JPSレトロ】JPSを開始するに際し,6施設おける遡及的検討を行った.Index Lesion;IL(0mm以上の上皮性腫瘍,癌腫)の推定発生率は,A(Pure-NAD )+B(5mm以下腺腫のみ)群;(5%)<C(6mm以上の腺腫切除)+D群(M癌);(13%)と後者が有意に高率であった(p<0.0001.ILの発生率5%以内を許容範囲とした場合の適正な検査間隔は,A群は10年を超えるもののB群では6年,C・D群で3年という結果であった.【ESDとEMRの治療成績】2003年1月から2006年12月までに当院で20mm以上の大腸腺腫・早期癌に対して内視鏡治療を行った553病変中,病理学的に大腸癌治療ガイドラインの治癒切除基準を満たし,6ヶ月以上の経過観察が可能であった373病変(EMR:228病変,ESD:145病変)を対象とし,治療法別の遺残再発率,偶発症,治療時間を検討した.EMR群,ESD群における一括切除率は33% vs. 84%であり,ESD 群で有意に高く,その結果,遺残・再発率はEMR群では14% とESD群の2%より有意に高かった(平均観察期間13.4±7.9, range:6‐40).内視鏡での追加治療で94%は対処可能であったが,1例は浸潤癌として再発し,外科手術を要した.偶発症の観点からは,穿孔をEMR群,ESD群でそれぞれ0.9%,6.2%に,また,後出血をEMR群3.1%,ESD群1.4%に認めた.治療時間はそれぞれ平均29分・108分とESD群では約3倍の時間を要した.【大腸SM癌内視鏡治療後のFollow-up】大腸pSM癌の長期成績(多施設・retrospective)からガイドライン治療の妥当性を検討した.783例のうち経過観察可能症例は123例で,長期成績は再発2例(1.6%),死亡4例(原病死1例),5年無再発生存 93%,5年全生存 97%であった.追加治療が考慮された症例のうち,追加治療非施行群102例と施行群197例において,再発率はそれぞれ5.8% vs 2.5%,5年無再発生存90% vs. 97%と,統計学的有意差はないものの追加手術施行群に良好な傾向にあり,外科手術の意義が示唆された.長期成績の観点からは,ガイドラインに即した治療法選択は妥当であると考えられたが,実臨床においては,経過観察可能群においても再発riskを念頭におく必要性がある.【おわりに】大腸がんの診断・治療・サーベイランスについて述べたが,大腸がんは早期発見・治療することで高率に治癒が期待できる疾患であり,早期発見・診断法の確立と内視鏡的治療法の開発・普及に加え,大腸がん検診の国民への啓蒙が重要である.

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(13/5/12日曜分)
休みの本日は、国立京都国際会館まで日帰りで 【第85回 日本消化器内視鏡学会】(外部リンク)=SAVEpdf書類(186KB)に参加する予定であった。楽しみにしていた「教育講演」の「抄録」を掲載する。


教育講演 1:「上部消化管腫瘍に対するESDとその先にみえるもの
東京大学医学部附属病院 光学医療診療部 藤城 光弘 先生
司会:北里大学 名誉教授 比企 能樹 先生

教育講演 2:「消化管リンパ腫の診断と治療
九州大学先端医療イノベーションセンタ一 中村 昌太郎 先生
司会:藤田保健衛生大学 坂文種報徳會病院 内科 芳野 純治 先生

教育講演 3:「胃カルチノイドの取り扱い
横浜栄共済病院 外科 細川 治 先生
司会:新潟大学 名誉教授/株式会社ピーシーエルジャパン病理・細胞診センター 特別顧問 渡辺 英伸 先生

教育講演 4:「カプセル内視鏡の基本と最新情報
獨協医科大学 医療情報センタ一 中村 哲也 先生
司会:日本医科大学 消化器内科学 坂本 長逸 先生

教育講演 5:「内視鏡医に役立つ統計学
国立がん研究センター がん対策情報センター 山本 精一郎 先生
司会:防衛医科大学校 三浦 総一郎 先生

教育講演 6:「膵腫瘍に対する腹腔鏡下治療
川崎医科大学 消化器外科 中村 雅史 先生
司会:九州大学大学院医学研究院 臨床・腫場外科 田中 雅夫 先生

教育講演 7:「消化管のEUS
ムラタクリニック 村田 洋子 先生
司会:北里大学名誉教授/ 北里大学東病院 内科 西元寺 克禮 先生

教育講演 8:「消化器内視鏡における感染対策
山梨大学医学部 第一内科・光学医療診療部 佐藤 公 先生
司会:愛知医科大学病院 消化器内科 内視鏡センタ一 春日井 邦夫 先生

教育講演 9:「Barrett食道腺癌内視鏡診断の現況と展望
国際医療福祉大学 化学療法研究所附属病院内視鏡部 天野 祐二 先生
司会:兵庫医科大学 消化器内科 上部消化管科 三輪 洋人 先生

教育講演 10:「緊急医療における内視鏡診断と治療
帝京大学医学部附属病院 内科 久山 泰 先生
司会:大阪市立大学大学院医学研究科 消化器内科学 荒川 哲男 先生

教育講演 11:「消化器内視鏡医における臨床研究のあり方,進め方
浜松医科大学 臨床研究管理センター 古田 隆久 先生
司会:東京医科歯科大学 消化器内科 渡辺 守 先生

教育講演 12:「内視鏡を用いた上部消化管運動機能の評価
川崎医科大学 総合臨床医学 楠 裕明 先生
司会:名古屋市立大学大学院医学研究科 消化器・代謝内科学 城 卓志 先生

第85回 日本消化器内視鏡学会】 「教育講演抄録集
 教育講演 1:上部消化管腫瘍に対するESDとその先にみえるもの

 東京大学医学部附属病院 光学医療診療部 藤城光弘(ふじしろ みつひろ)

 1980年代に開発されたERHSEより端を発し、EMRのー亜型として開発、改良が行われていたESDは、2006年4月に胃・十二指腸、2008年4月に食道においてEMRから独立した手技として保険収載された。ESDの特徴は、病変周囲の粘膜を切開し、粘膜下層を剥離して切除する技術のため、理論上、切除できる大きさに制限がなく、また、粘膜下層の線維化を有する病変も切除できることにある。現在までに、高周波ナイフ、その他の各種処置具、局注液の開発、更には、最適な治療環境、周術期管理について多くの知見が集積され、本邦を中心に、良好な短・中期の後ろ向き治療成績が数多く報告されている。しかし、食道、胃、十二指腸と其々の臓器で未だに解決しえない問題点が存在するのも事実である。
 食道では、術後狭窄の克服が必須であり、病変が3/4周性以上に進展する場合、バルーンによる予防的拡張術を行うのか、粘膜欠損部へのステロイド局注なのか、ステロイド内服なのか、の検証が必要であり、研究段階ではあるが、生体吸収型ステントや生体吸収性ポリマーシートによる食道再生療法なども行われており、近い将来に臨床応用されることを期待したい。
 胃では、2010年10月以降、未分化型への適応拡大の舵が切られたが、その検証が急務である。さらに近年では、胃の粘膜下腫湯に対するESD技術と腹腔鏡技術を組み合わせたLaparoscopic and endoscopic cooperative surgery (LECS)、その亜型であり我々が開発したNon-exposed endoscopic wall-inversion surgery (NEWS) なども積極的に行われるようになっている。現在はGISTを主な対象病変としているが、リンパ節転移のない胃癌への応用が最終目標であり、リンパ節転移検索技術の開発と共に、ESDと定型胃切除術の中間に位置する、胃癌縮小手術と位置付けられることを期待したい。
 十二指腸では、その安全性と病変自体の生物学的悪性度の観点から、ESDの必要性についても議論がある。私見では球部は胃と同様の考えでESDを行うことが妥当と思われるが、下行脚以深については、分割EMRや外科的局所切除、LECSなど、症例に合わせた慎重な治療適応の選択が求められよう。
 今後は、リンパ節転移頻度からみた更なる適応拡大とトレーニングシステムの確立による国内・外への更なる普及が、ESDを巡る共通の課題として模索されていくものと思われる。日本初のESDは、本邦ではすでに成熟期に入った感があるものの、海外に目を向けると、本邦と大きく異なり、主要都市ですらESDが受けられる状況にない。海外へのESD技術移入を目指した、産学官の取り組みをより積極的に行っていくことも我々の責務であると考えている。
 教育講演 2:消化管リンパ腫の診断と治療

 九州大学先端医療イノベーションセンター 中村昌太郎(なかむら しょうたろう)

 消化管は悪性リンパ腫の好発部位であり、消化管原発リンパ腫は節外性リンパ腫の30〜50% を占める。消化管腫瘍の中では、リンパ腫の頻度は1〜10% と低いが、日常臨床においては、癌や炎症性疾患との鑑別を要する重要な疾患である。浸潤部位は、消化管の中では胃が最も多く60〜80% を占める。次いで小腸が多く(20〜30%) 、大腸や食道はまれである。しばしば多発し、5〜15% の例では複数の消化管部位に病変を認める。
 リンパ腫の診断には病理組織検査が必要である。組織型は多彩であり、WHO分類(第4版,2008年)に従って診断する。消化管ではMALTリンパ腫とびまん性大細抱型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma :DLBCL)の二型が70〜80% を占める。ほかには、濾胞性リンパ腫、T細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫などがみられる。確定診断には免疫組織化学染色が必須であり、特異的な遺伝子異常の検索も有用である。
 肉眼分類として確立されたものはないが、演者らは、胃リンパ腫は表層・腫瘤・ぴまん・その他の4型に、腸管リンパ腫は隆起・潰瘍(狭窄・非狭窄/動脈瘤)・MLP (multiple lymphomatous polyposis)・びまん・混合の5型に分類している。組織型と肉眼形態には相関があり、胃リンパ臆のうちMALTリンパ腫は表層型、DLBCLは腫瘤型が多い。腸管リンパ腫は多彩な肉眼形態を呈し、最も多い潰瘍型はDLBCLが大半を占め、びまん型はT細胞リンパ腫とIPSID (immunoproliferative small intestinal disease)、MLP型は濾胞性リンパ腫やマントル細胞性リンパ腫に特徴的である。
 リンパ腫の診療には臨床病期が重要であり、消化管リンパ腫はLugano国際会議分類(T,U1,U2,UE,W) に従って診断する。病期診断のためには頚・胸・腹部CT,FDG-PET/CT,バルーン内視鏡やカプセル内視鏡による小腸検査、骨髄検査などが必要である。
 胃MALTリンパ腫の第一選択治療法はHelicobacter pylori 除菌であり、60〜80% の例で完全寛解が得られる。H.pylori陰性、進達度SM以上の深部浸潤例やt(11 ; 18)/API2-MALT1転座陽性例では除菌治療が奏効し難い。除菌無効例には、慎重な経過観察(watch and wait) ,放射線療法,化学療法や抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブを用いた免疫療法が選択される。最近、本邦の多施設共同試験で、H. pylori除菌治療後の長期予後がきわめて良好であることが確認された (Nakamura S,et al. Gut 2012)。胃DLBCLに対しては、リツキシマブ併用化学療法(+放射線)が勧められるが、H. pylori陽性の限局例(T/U1期)では、除菌治療で30〜60% の例で寛解が得られる。
 腸管リンパ腫のうち、限局例には外科的切除+化学療法が一般的である。T/U1期の濾胞性リンパ腫にはwatch and waitやリツキシマブ単剤療法が選択される。IPSIDや十二指腸・直腸のMALTリンパ腫には抗菌薬治療が奏効することがある。病期進行例には化学療法を第一選択とする。消化管リンパ腫の予後規定因子として、発生臓器(胃より腸が不良),病期,年齢,T/B表現型,組織学悪性度などが報告されている。
 以上のように、消化管リンパ腫の治療には多くの選択肢があり、組織型と病期により予後が異なるため、治療前の正確な診断が重要である。本講演では演者の施設における消化管リンパ腫630例の解析結果を中心に、各組織型に特徴的な肉眼形態と遺伝子異常、ならびに至適治療法について考察したい。
 教育講演 3:胃力ルチノイドの取り扱い

 横浜栄共済病院 外科 細川治(ほそかわ おさむ)
 福井県立病院 病理 海崎泰治

 1907年にOberndorferは「癌に似て、さに非ず」という意味を込めてカルチノイドを提唱した。癌に類似する組織形態を有するが、臨床的に低悪性度の経過をたどる一群の腫瘍を表す呼称である。わが国では直腸、呼吸器、胃、十二指腸、虫垂の順に多く発生している。経験数が少ないこともあり、臨床診断に難渋するのみならず、分類が複雑に入り組んでいることから臨床医にとって本腫瘍を理解し、治療方針を決定することに戸惑いが多い。
 胎生学的発生部位に基づき、前腸、中腸、後腸系の3群に分類する方法、組織学的特徴に基づき、充実結節型、索状・吻合状型、管腔状・腺房状・ロゼット状、低分型、混合型に5型に分類する方法に加え、腫瘍細胞の銀反応性、電顕による神経内分泌穎粒の形態的特徴、産生されたアミン・ペプタイドの種類からの区分も行なわれた。さらに2010年のWHO Classificationでは分類上での大きな変化がもたらされ、胃カルチノイドは神経内分泌腫瘍 Neuroendocrin tumour (NET) G1と呼ばれることになり、名称そのものがフェードアウトする気配さえある。
 ともかくも、胃に発生したカルチノイドは他臓器のものと異なる。本腫蕩の多くはヒスタミンを分泌するクロム親和性顆粒を持つEnterochromaffin-like cell (ECL細胞)に起源を有し、3つに亜分類される。TypeTはA型萎縮性胃炎を背景に持ち、Type II はZollinger-Ellison症候群に伴い、高ガストリン血症のtrophic action を受けてECL細胞の増殖、過形成、腫瘍化に至る。sporadic なTypeVは悪性度が高い。TypeTは幽門腺領域の非萎縮粘膜に対して高度に萎縮した胃底腺粘膜領域に発生して、多くの場合は1cm以下の大きさで多発する。Type II は高酸分泌能を有する過形成胃粘膜上に診断され、同様に大きくなく、多発する。TypeVは大半が単発であり、背景粘膜に特徴的な所見に乏しく、大きさはさまざまであるが、転移を来した例でカルチノイド症状を有したことも報告されている。3つのTypeの個々の腫瘍の肉眼形態は背景粘膜を除いては違いが少ないが、TypeT,Uにおいては腫瘍周囲の平坦な粘膜からの生検でも増殖性のendocirine cell micro nestsが見出される。
 悪性度の高いTypeVに関しては癌と同様の取り扱いが必要となる。他方、高ガストリン血症に伴って発生するTypeT,Uにおいては異なる取り扱いが提起されている。すなわち、腫瘍の大きさや深達度、核分裂像やki67指数などの悪性度により局所管理法としては切除だけではなく経過観察の手法があり、さらに高ガストリン血症に対する対策として分泌領域の幽門洞切除を行なう方法も行なわれている。臨床データに基づいて正確な病型分類を行うことが、胃カルチノイドの取り扱いに関しては重要である。
 教育講演4:カプセル内視鏡の基本と最新情報

 獨協医科大学 医療情報センター 中村哲也(なかむら てつや)

 本講演では、まずカプセル内視鏡の基本と国内外における現況を紹介し、ギブンのパテンシーカプセルが認可されたことによって大きく変化したカプセル内視鏡の保険適用について解説する。さらに、カプセル内視鏡の最新情報について紹介したい。
 カプセル内視鏡の現況
 日本で使用可能なカプセル内視鏡は、2012年12月現在ギブンとオリンパスの小腸用カプセル内視鏡2機種である。また、2012年7月にはパテンシーカプセルが保険適用になった。
 海外では韓国製や中国製の小腸用カプセル内視鏡が実用化され、ギブンは第二世代の食道用や大腸用のカプセル内視鏡を開発し、さらに第三世代のカプセル内視鏡の開発を始めている。その上、ギブン、オリンパス共に可動式のカプセル内視鏡を開発し、実用化に向けて検討を重ねている。なお第二世代大腸用カプゼル内視鏡PillCam COLON2は日本での治験が終了し、認可申請中である。
 保険適用の拡大
 小腸用カプセル内視鏡は、上部および下部消化管の検査(内視鏡を含む)を行っても原因不明の消化管出血を伴う患者に使用した場合にのみ保険が適用され、確定診断済みのクローン病などは禁忌とされていた。カプセル内視鏡のほぼ唯一の偶発症は、滞留(retention:消化管内の狭窄部の口側にカプセルが2週間以上とどまること)である。そこで、滞留をおこさないように消化管の適切な開通性を評価する目的でパテンシーカプセルが開発された。それは小腸用カプセル内視鏡と同じサイズ( 幅約11mm、長さ約26mm)の嚥下可能な崩壊性カプセルで、10%の硫酸バリウムを含むラクトース製のボディとラクトース性のタイマープラグから成り、非溶解性のコ一テイ一ング膜で覆われている。消化管内で30時間以上とどまるとタイマープラグが溶け始め、100〜200時間たつと完全に崩壊する日本独自のカプセルである。パテンシーカプセルを併用することにより、カプセル内視鏡の適用対象は小腸疾患が既知又は疑われる患者に
拡大された。
 カプセル内視鏡の最新情報
 カプセル内視鏡は1秒あたり2枚の画像を撮影し、最近では1検査あたり最大で10万枚以上の静止画が撮影されるようになった。また、第二世代小腸用カプセル内視鏡では画質が格段に向上している。このカプセル内視鏡画像を読影するのに重要な動体視力を向上させるためには、これまでの内視鏡検査とは異なったトレーニングが必要になる。2012年4月に、世界で初めてのカプセル内視鏡関連学会である「日本カプセル内視鏡学会」が設立された。
 おわりに
 カプセル内視鏡は機器やソフトウェアの目覚ましい進歩により、これまで以上に効率的かっ正確な読影と診断が求められるようになっている。今後、大腸用カプセル内視鏡が使用可能になれば、これまで以上の読影力が要求される。カプセル内視鏡検査に携わる医師は、本学会におけるカプセル内視鏡関連セッションや、日本カプセル内視鏡学会などに積極的に参加して、読影力の向上をめざしていただきたい。
 教育講演 5:内視鏡医に役立つ統計学

 国立がん研究センター がん対策情報センター 山本精一郎(やまもと せいいちろう)

内視鏡医に役立つ統計学
 臨床研究の種類を分ける方法はいろいろあるが、疫学・統計学的には次の4つに分けると、必要な研究デザインや仮説、統計手法を整理しやすい。多くの場合、専門分野によって4つのうちよく使う研究の種類があるが、内視鏡医は、4つともよく用いるのではないだろうか。
 一つ目は、診断研究である。正確、精確、簡便、侵襲が少ない、使いやすいといった種々の意味でより「よい」診断方法が開発された場合に、病理診断などの至適基準(gold standard) と呼ばれる正診に対してどのくらい一致するかを、感度、特異度といった指標を用いて調べる研究である。どのような診断の場で用いられるのか、検診の場で用いられるかによって、研究対象者、達成すべき感度、特異度の値も変わってくる。
 二つ目は治療開発研究である。抗がん剤開発に代表されるような、phase l,2,3 と順に毒性や安全性、有効性を調べ、最終的に既存治療との優劣をランダム化比較試験で検証する研究デザインである。内視鏡や手術の治療開発の場合、この順}に開発を行うことは稀かもしれないが、標準治療になるまでに、安全性の確認と、有効性の検証を行うことが必要なのは同じである。化学療法の場合と異なり、技術のラーニングカーブや標準化、品質管理を考慮した研究を行う必要がある。手術に比較して低侵襲な内視鋭による治療が優れている検証するには、生存期間で劣っていないことを証明する非劣性デザインを用いれば十分な場合もあるであろう。
 三つ目は、予後因子研究、すなわち、診断時の情報をもとに予後を予測する方法を調べる研究である。予測される予後によって治療方針を変更する、その集団に対する治療開発を行うことが予後因子研究の目的だとすると、どんな因子で予後が予測できるか、なぜその因子で予測できるのかといったことよりも、(理由はわからなくとも)高い確率で予後が予測できる方法を開発することが目標となる。この際、手元のデータで予測ができることを調べるだけでは不十分で、開発した予測方法が別の対象者(別のデータセット)でも十分役に立つかを調べることが必須となる。分子標的薬の開発に伴い、コンパニオン診断として現在多くの研究が行われている分野である。
 四つ目は、病気の原因を調べるいわゆる疫学研究である。ビロリ菌が胃がんの原因であるとか、遺伝的多型によって食道がんに対する喫煙や飲酒のリスクが異なるといった研究である。コホート研究やケース・コントロール研究といった観察研究を行って原因となる曝露(exposure) が調べ、その曝露を除く(もしくは増やす)ことにより疾患が予防できるかを調べるランダム化比較試験を行うことが大きな目的である。内視鏡医が観察研究を行う場合には、内視鏡所見をサロゲートエンドポイントとしたケースコントロール研究が有力な研究デザインとなると考えられる。
 これまでの私の経験から、内視鏡医が行うであろう研究と4つの研究の種類との関係を記述してみた。これには必ずしも現状を反映していないところもあると考えることから、今後内視鏡医とよく相談し、学会当日には、より内視鏡医に役立つ研究デザインや統計手法の紹介をしたい。
 教育講演 6:膵腫瘍に対する腹腔鏡下治療

 川崎医科大学 消化器外科 中村雅史(なかむら まさふみ)
 九州大学大学院 医学研究院 臨床・腫傷外科 田中雅夫

 はじめに:膵切除術は、1930年代から40年代にかけてWhippleらにより確立されたが、その後、胃温存形式や再建法の変遷を経ながらも基本的に大きな変更はなかった。ところで、1987年に腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われて以来、腹腔鏡下手術の適応は消化器外科手術の様々な分野に急速に広がった。膵臓外科分野もこの例外ではなく、1994年にGagnerらが腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(LPD) 第一例目を報告し、1996年には同じくGagnerらが最初の腹腔鏡下膵体尾部切除術(LDP) を報告した。その後、手術器械の改良も手伝って、LDPの報告例は2006年頃より急速に増加してきている。初期のLDPに関するメタ・アナライシスの結果では、開腹手術と比較してLDPは非劣性であるが優位性は示されていなかったが、最近では、短期成績が開腹手術よりも良好であるとする解析結果も明らかになりつつある。LPDも報告例が増加しつつあるが、周術期の有意性を示す報告はあまりない。このような趨勢の中で、H24年から本邦でもLDPが良性腫瘍に対し保険収載されることとなった。本講演では、保険収載された良性腫蕩に対するLDPの基本事項を中心に、腹腔鏡下膵切除の全般に関して概説する。
 LDP:脾摘を伴う術式では内側アプローチが一般的に行われている。脾温存の術式はWarshaw法と脾血管温存術式の2法があるが、可能であれば血管温存術が望ましい。血管温存術施行時は、膵体部中央部で脾血管が膵実質に埋没する構造を認識する必要がある。また、脾動脈のみの温存は遠隔期の静脈瘤出血の危険性があるので、脾静脈を温存できない場合は脾動脈も離断する必要がある。膵液瘻防止策としては、膵の切離時圧縮が重要であるということが報告されているが、硬化膵や厚い膵ではDuVal法に準じた膵断端の内瘻化も考慮する必要がある。現在、浸潤性膵管癌は保険適用ではないが、将来的に適応拡大される場合に重要なポイントとしては、リンパ節郭清の精度と剥離面の癌陰性化がある。このうち、リンパ節郭清は腹腔鏡下胃切除術でほぼ確立されているので、剥離面の陰性化が開腹と遜色ない程度に可能であれば、今後の適応拡大も安全に行えると予想される。
 LPD: LPDは未だ実験的な術式であり、その臨床的なメリットも明らかにされていない。このため術式も定型的と呼べるものはないが、咋今報告される術式の多くで膵頭十二指腸の授動を左側より行う傾向にある。これは、腹腔鏡では、臍を中心とした放射線方向への水平に近い視野がより得られやすいということが理由であると思われる。また、同様の理由より、上腸間膜動静脈も左右方向でなく上下方向に並列している脈管として視認されやすい。再建は小開腹下に膵消化管吻合を行う場合と完全鏡視下に行う場合とがあるが、現状では、より安全な再建術式が望ましい。
 教育講演 7:消化管のEUS

 ムラタクリニック 村田洋子(むらた ようこ)

 超音波内視鏡が開発された当時より、現在まで行ってきた、食道癌の進行度診断を中心に消化管全般に渡って、超音波内視鏡診断(EUS) について報告する。
 消化管壁
 消化管は粘膜、粘膜下層 固有筋層 漿膜または外膜の構造をしている。超音波は周波数により分解能が異なる。一般的に使用される中心周波数7.5MHzでは、5層構造に分離される。しかし、食道、大腸など
の薄い管腔では、3層として描出されることもある。低エコーにみえる固有筋層が最も描出されやすく層をみる場合のメルクマールとなる。その上の粘膜下層は、高エコーとして描出、粘膜は胃の腺組織では、低エコーに描出される。ここに複雑に絡んでくるのが、境界エコーである。境界エコーは周波数が高いほど、薄く、低いほど厚い境界エコーが生じる。従って20,30MHzを使用した場合は、層の分解は良く、境界エコーの幅も薄くより病理組織に近い像が得られるようになる。また、均一な組織は内部にエコーを反射するものが無い場合は、低エコーで均一に、内部に血管、繊維組織のある場合は反射するため、ややエコーレベルが高く、脂肪組織などは、高エコーに描出される。層構造を読むときは、まず、ビームが垂直に入射されているかどうか、固有筋層の低エコーはどれかを目安に、その上の高エコ一層を粘膜下層、その上の低エコー層を粘膜として読影すれば良い。
 深遠度診断
 癌腫は低エコー腫瘍として描出されることが多いが、この低エコー腫瘍がどこまで層を破壊し、どの層が保たれるかによって診断する。癌巣が薄い粘膜癌は、周波数が低ければ描出が難しい。正常の粘膜より厚く、または低エコーに描出される。癌巣が薄いものは、癌の反応による細胞浸潤リンパ濾胞形成なども診断を難しくする。
 粘膜下腫瘍
 腫瘍がどの層由来か、腫瘍のエコーレベル、構造より組織診断が予測できる。この場合もどの層と連続しているかが重要となる。良悪性の鑑別には経時的な大きさの変化と穿刺細胞診による判定が必要になる。
 リンパ節転移診断
 メルクマール臓器を目安に、どのリンパ節が腫大しているか診断する。リンパ節の形態から転移の可能性が示唆される。正確な診断は穿刺細胞診により腫瘍組織を獲得する。
 機能診断
 噴門部の形態の3次元表示や、形態の動きを観察する事により、機能診断も可能となる。上記診断につき、重要な点、困難な点につき述べる。
 教育講演 8:消化器内視鏡における感染対策

 山梨大学医学部 第一内科 光学医療診療部 佐藤 公(さとう ただし)

 はじめに
 内視鏡検査は消化器疾患の診断と治療に不可欠のものとなっており、スクリーニング検査から、外科手術に比べて侵襲性が低いなどの理由から日和見感染をきたしやすいハイリスク患者に対する内視鏡治療まで、さまざまな医療場面で用いられている。
 院内感染対策の中で最も基本となるものは接触感染予防であり、その中心になるのは「汗を除くすべての体液は感染源となりうる」という標準予防策(standard precaution)の概念である。体液との接触が避けられない消化器内視鏡に求められる感染対策とはどのようなものであろうか。本教育講演では、内視鏡医および内視鏡室の責任者として知っておくべき、ガイドラインを踏まえた消化器内視鏡の感染対策および残された課題を解説することで、その責を果たしたい。
 消化器内視鏡に伴う感染の実態と本邦における対応
 消化器内視鏡に関連した感染としては、文献的には細菌、真菌、ウイルスの感染の報告がある。アメリカにおける消化器内視鏡に関連した感染の頻度は180万件に1件程度とされるが、この数値には報告されない、あるいは認識されない感染症が相当数存在することが指摘されている。高水準消毒が普及した1993年以降の消化器内視鏡に関連した微生物の伝搬のほとんどが、誤った感染予防策や内視鏡や不適切な付属品・処置具の洗浄・消毒と関連している。また、ERCPなどの侵襲性の高い手技や鉗子拳上装置などの複雑な構造を有する内視鏡では、感染の頻度が高いことが知られている。
 本邦においては、消化器内視鏡の洗浄・消毒の必要性が強く認識される契機となったのは、1980年代半ばから内視鏡検査後に発症する急性胃粘膜病変が多数報告されたことである。後に、その原因がHelico bacter pyloriの内視鏡を介した急性感染であることが判明し、内視鏡の洗浄・消毒を中心とした感染対策への関心が高まっていった。第一次日本消化帯内視鏡学会消毒委員会(委員長:春日井達造)は全国調査を実施し、内視鏡検査を受けた患者の8.5%においてB型肝炎マーカーの陽性化が認められ、グルタルアルデヒドを用いた消毒で感染が防止できることを1985年に報告した。1995年に日本消化器内視鏡学会甲信越支部消毒委員会(委員長:藤野雅之)から本邦初めての消化器内視鏡の消毒ガイドラインが発表された。その後、1996年には日本消化器内視鏡技師会安全管理委員会から、1998年には第二次消化器内視鏡学会消毒委員会(委員長:小越和栄)から、検査間の洗浄・高度水準消毒の推奨、観血的処置に用いられる処置具は減菌あるいはディスポーザブルとすることなどを含む、「内視鏡機器の洗浄・消毒に関するガイドライン」が発表された。2008年に日本消化器内視鏡学会、日本消化器内視鏡技師会、日本環境感染学会が合同で作成した「消化界内視鏡の洗浄・消毒に関するマルチソサイエティ・ガイドライン」では、内視鏡室の環境、検査前・検査時の対応、内視鏡および処置具の洗浄・消毒について具体的な対応が示され、今後更に改定が予定されている。
 消化器内視鏡に関する感染制御
 一般に感染の成立には、原因微生物の存在と感染成立に十分な量の微生物との接触、感受性部位の存在、感染経路の存在が必要である。感染制御とは、一つ以上のこれらの要素を絶つ対策を意味する。病原微生物の種類、行われる医療行為、宿主の免疫状態などに応じて、感染成立に関わる条件は異なるため、安全性を担保するためには、一定の感染対策を恒常的に行うことが重要である。このためには、スコープの洗浄・消毒だけでなく、内視鏡の検査開始から次の患者に再使用するまでの切れ目のない対応が不可欠である。
 医療従事者への感染・有害事象
 消化器内視鏡に関した感染には、患者間の交差感染とともに、医療従事者への感染も懸念される。その実態の把握は困難であるが、消化器内視鏡従事者には有意にHelicobacter pylori感染者が多いとする報告もあり、ガウン、手袋、マスクなどの個人用防護具(Personal protective equipment) の使用による接触感染予防が重要である。また、高水準消毒薬の中には刺激性のある薬剤もあり、内視鏡スタッフの限や呼吸器に障害を起こすことがあり、一時社会問題化した。厚生労働省からの通達により、グルタルアルデヒドについては、蒸気曝露を基準値以下に抑え、それを維持できる換気設備の設置が求められている。
 おわりに
 消化器内視鏡に限らず院内感染対策は、より厳密な対応が求められる傾向にある。内視鏡を含めた医療材料の再処理に関しては、より均ーかつ高い精度で行い、その精度を監査し、記録するという流れが海外を追う形で進行している。医療施設の規模によらず、安全な内視鏡医療を提供するために感染対策の徹底が極めて重要である。
 教育講演 9:Barrett食道腺癌内視鏡診断の現況と展望

 国際医療福祉大学化学療法研究所附属病院 内視鏡部 天野 祐二(あまの ゆうじ)

 近年、本邦でもGERD症例の著しい増加とともに、Barrett食道、更にそれを母地とするBarrett食道腺癌症例が増加しつつある。現在、欧米で最も増加率の高い癌がBarrett癌となっており、Barrett食道症例の死亡率も一般人口の25倍に上昇していることを鑑みると、本邦でも真撃な態度でBarrett食道・腺癌に向き合うべき時期に来ていると思われる。Barrett癌はSM浸潤とともに予後が急激に不良となることが報告されているが、DMM症例でも10数%に脈管侵襲を認めるなど、より早期に発見し、内視鏡治療を行うのが理想であることは言うまでもない。今回、Barrett食道及びBarrtt癌内視鏡診断のポイントなどについて現況と将来の展望を解説する。
 1. Barrett食道の内視鏡診断
 内視鏡的にBarrett食道を診断するためのlandmarkが、本邦では食道柵状血管の下端、欧米では胃縦走襞の最口側となっていることが、臨床の場に少なからず混乱を与えている。柵状血管を観察するにあたって、胃内の空気を少なくし、被検者に深吸気をしてもらうことで、被検者聞の観察環境をほぼ一定の条件に揃えることが可能である。しかしながら、LSBEでの観察率は低く、また逆流性食道炎による炎症の強い粘膜、異型性病変が存在する場合には観察できない。胃の襞口側端の診断一致率は、静止画像では食道柵状血管のそれよりも高いが、術者間での観察空気量の違いが診断一致性を大きく妨げる。後者のlandmarkを用いたC&M分類がglobal consensusを得つつあるが、柵状血管に重きをおいた内視鏡診断は、微小Barrett食道腺癌を診断する上でも意義は深く、早期にBarrett食道における低い内視鏡診断一致率を解決する必要がある。
 2. Barrett食道腺癌の内視鏡診断
 Barrett癌は食道前壁から右側壁に多いことが知られており、この部位を丹念に観察することが肝要となる。通常光内視鏡診断では、柵状血管の不自然な消失・発赤が重要であり、初期微小癌の発見に繋がる。色素内視鏡を含めた広義のimage-enhanced endoscopyは、Barrett癌を効率よく発見する上で有用であることは衆目の認めるところであり、積極的に併用すべきである。Mucosal及ぴcapillary patternの詳細な観察は、Barrett癌の存在診断や範囲診断をより正確なかつ簡便なものにするが、pattern分類は確立されておらず臨床応用には未だ問題点も多い。食道学会では拡大内視鏡診断基準の作成が始まっており、今後の動向を注視していきたい。また、本邦も内視鏡サーベイランスが必要な時期に来ていると思われる。SSBEが圧倒的に多い特徴などを考慮し、高い内視鏡技術を駆使した本邦独自の効率の良いサーベイランス法を確立する必要がある。
 教育講演 10:緊急医療における内視鏡診断と治療

 帝京大学医学部 内科学講座 久山 泰(くやま やすし)

 我が国の緊急医療において消化管疾患は高頻度でありかつ多岐にわたっている。救急疾患を扱う医療機関では、常時内視鏡を用いた処置が可能な体制が必要である。ここでは当院の診療体制を示しながら、緊急医療における内視鏡の関わりについて述べる。
 当院では、独歩の消化器疾患患者は、日中は内科外来、夜間はER外来に来院する。救急車の場合はER(2次救急)及び救命救急センター(3次救急)が窓口となっている。いずれも初療を外来担当医が行い、日中は消化器科病棟責任医師に、夜間はオンコール医師(指導医1人+卒後3-6年目1人)に連絡、緊急内視鏡の必要性を判断する。消化管出血症例については、採血検査(血液型判定、クロスマッチ採血)、レントゲン等の他、可能な限り腹部造影CT検査を施行し、疾患の診断及び現在の出血の評価を行う。上部消化管止血(非静脈瘤疾患)では、止血クリップ、高張エピネフリン局注の{也、アルゴンプラズマ凝固による焼灼法を頻用している。内視鏡止血が困難な症例では、外科当直医及び放射線オンコール医師と連絡をとり、動脈塞栓術や緊急手術を行う。緊急に減圧術が必要と判断された腸閉塞症例では、まず透視下でのイレウス管挿入を試みるが、挿入困難例では内祖鏡下で挿入を行っている。消化管異物についてはCTで評価を行った後に摘除の必要があると判断された場合には、外科当直医と連携しながら内視鏡的除去を試みている。
 急性化膿性胆管炎など胆道緊急症については、可及的速やかに内視鏡による胆道ドレナージを試みる。高齢者が多く抗血栓薬を服用している症例も少なくなく、また情報が不十分である場合もあるため、当院では緊急時には原則としてドレナージのみを行い、後日除石などの治療を行っている。また敗血症を伴っている重症例も少なくないため、必要に応じて他の消化器医や内科当直医に応援を要請し、安全面に配慮しながら施行している。
 最近の傾向として、大腸憩室出血などの下部消化管出血及び急性胆管炎が増加している。いずれもより労力及び技術を必要とするため、緊急を担当している医師の負担が増加している。日常業務を行いながら夜間のオンコールにも対応しているが、緊急症例が増加傾向であり過剰労務の傾向にある。コメデイカルスタッフも含め、全病院的な体制作りが必要と考える。
 教育講演 11:消化器内視鏡における臨床研究のあり方、進め方

 浜松医科大学 臨床研究管理センター 古田 隆久(ふるた たかひさ)

 消化管疾患は患者数も多く、また、疾患構造も時代とともに変遷しており、当然のことながら、内視鏡検査の診断機器、治療法の開発が必要であり、そのための研究も盛んに行われている。研究成果を実臨床に応用するためには、有効性・安全性を実際の患者さんで検証されることが必要であり、そのためには、質の高い臨床試験によってエピデンスとして認められる必要がある。
 ヒトを対象とした試験である臨床試験では、守られるべき原則がある。ひとつは、倫理的原則である。ヒトを対象とした試験である以上、倫理的な配慮のないプロトコールでの試験はありえない。また、科学的原則も重要である。用いる手段全てが科学的に検証されており、解析も正しい統計的手法によらなくてはならない。そして、データの信頼性である。当然、人の行う事であるから、エラーはつきものであるが、そうしたエラーが排除され誤差の少ないデータでなくてはならない。この3つの原則を守ってできた臨床試験の結果こそあらたなエビデンスとして認められるのである。
 内視鏡検査を用いた臨床試験では、いくつかの独自の問題点がある。評価項目に内視鏡所見がある場合には、病変の写真の質、発見率等は個々の症例の違いに加えて術者の技量に影響する。検査時間等も同様である。機器の使い勝手の評価も術者で異なるであろう。所見の記載にしても、用語の統ーはしていても個々で解釈が微妙にことなるため、バラツキがおこりやすい。数字では表現できない内容が多く、いかに普遍性・再現性のある評価を行っていくかがポイントとなる。
 内視鏡検査を用いる臨床試験ではそうした内視鏡検査独自の問題点があるためいくつかの工夫がされている。内視鏡所見が評価項目の場合には中央判定といって術者とは別に数名の内視鏡医が合議制で写真のみに基づいて所見を判定している。なるべく術者間での評価の差を少なくするための試みである。大腸ポリープの経過観察での研究でも大腸内視鏡を2回行ってクリーンコロンとするなど、ヒューマンエラー(ここでは見落とし)を極力少なくする試みがされている。エビデンスの高いデータを創るためにはその他にも様々な工夫が必要であろう。
 さて、しっかりとした臨床研究で得られたエピデンスは、患者さんや担当医が臨床的な決定をする際の根拠となる。すなわち患者さんに説明するときのデータなのである。この場合、最も重要なことはそうしたエピデンス創りに自らが参加・協力することである。自らの参加したデータであれば、高い説得力で患者さんに説明できるであろう。
 今後も多くの大規模な臨床研究が行われるであろうが、消化器内視鏡学は医学分野の中でも日本が世界で最もリードしているところであり、日本が最も優越性をもてる分野である。今後も日本が世界をこの分野でリードしていくためにも消化器内視鏡分野において質の高い臨床研究を行っていく必要がある。
 教育講演 12:内視鏡を用いた上部消化管運動機能の評価

 川崎医科大学 総合臨床医学 楠 裕明(くすのき ひろあき)

 近年の内視鏡機器の進歩はめざましく、それに伴う消化管疾患の診療技術の進歩には目を見張るものがある。しかし、内視鏡では世界をリードする本邦の内視鏡エキスパート達も、消化管運動についての興味は薄く、検査中に実際の前庭部収縮運動を見ながら、その出現頻度や強さに注意を払う内視鏡医は少ない。この理由としては、本邦の内視鏡学が胃癌の診断と内視鏡的治療を中心に発展してきたこと、本邦の内視鏡メーカーがそれを支える多くの新しい技術を開発してきたことなどがあるが、保険適応のある一般臨床で、簡便に実施可能な運動機能検査が無かったことも大きく関与している。従って、本邦の消化管運動研究は多少欧米に後れを取ることとなったが、現在もいくつかの施設で多くの研究が行われている。われわれは体外式超音波を用いて生理的に多くの項目を同時に評価できる方法を考案し、薬効評価などに用いることで、注目されつつあるが、内視鏡を用いて消化管運動を評価する方法もいくつかあり、今回はそれらの方法を解説します。ミンクリア散布で前庭部運動が低下するメカニズムなどの消化管運動機能の基礎知識は、内視鏡医としても必ず役に立つものであると信じます。

内視鏡検査で可能な消化管運動のチェック
#胃内の観察・・・内視鏡の胃内挿入時に、胆汁混じりの黄色の胃液の貯留や、とき卵状の浮遊物の胃壁付着に遭遇することがある。これは空腹期に十二指腸の胆汁が胃に逆流した証拠であり、十二指腸への過剰酸暴露などで生じる現象です。また、MMCと呼ばれる空腹期の消化管強収縮や幽門輪の機能低下なども関与した現象と言われています。
#前庭部運動の観察・・・ もし、ブスコパン注射などの前処置なしに内視鏡を施行すると、前庭部収縮はl分回に3回の頻度で正確に収縮します。これは胃の拡張刺激によって体上部大彎のトリガーが刺激された結果発生するため、内視鏡で送気した後にも生じます。
#幽門輪の開閉・・・前庭部収縮が幽門輸の2〜3cmまで到達したら幽門輸は閉鎖しますが、これは前庭部が食物を粉砕するために必要な現象です。内視鏡を幽門輸に挿入しようとすると幽門輸が閉鎖する現象は、内視鏡によって収縮と同じ刺激が生じた結果である可能性があります。
超音波内視鏡を用いた食道運動の観察
細径超音波を用いて食道の収縮を観祭することが可能であり、水嚥下による食道の収縮による筋層の肥厚を確認することで食道運動を評価可能である。特に内輪筋と外縦筋を別々に評価可能なため、どちらが優位に収縮しているかを判定できる。
鉗子口挿入式pHセンサーを用いた上部消化管のpH測定
鉗子口挿入式pHセンサーで内視鏡下に上部消化管の様々な場所のpHを測定する。GERD患者や機能性ディスペプシア患者では、下部食道や十二指腸のpHが健常対象より低いという報告もあり、酸クリアランス能力の評価が可能であると考えられます。

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(13/4/14日曜分)
休みなのに、早朝の7時02分の新幹線に乗って、奥さんと一緒に東京国際フォーラムで開催されている【第110回日本内科学会講演会】(多様性に対応する内科学)=SAVEpdf書類(494KB)に参加し登録してきた。参加費1万円。認定更新単位:15単位を戴いた。
第110回日本内科学会総会・講演会 「多様性に対応する内科学」 ポスター
(ポスター)

今回の参加目的の第一は「教育講演」の聴講である。

1.自己免疫性甲状腺疾患の病態と治療:藤田保健衛生大学 伊藤 光泰 先生
2.膵炎の病態と治療:東京女子医科大学 白鳥 敬子 先生
3.白血病の分子病態:東京大学 黒川 峰夫 先生
4.脊髄小脳変性症 最近の進歩:北海道大学 佐々木秀直 先生
5.血管炎の最近の知見:杏林大学 有村 義宏 先生
6.心不全の病態と内科的治療:東京慈恵会医科大学 吉村 道博 先生
7.今日の結核−診断・治療から感染対策まで:国立病院機構東広島医療センター 重藤 えり子 先生
8.生物学的製剤使用患者の感染症リスクと対策:東京医科歯科大学 針谷 正祥 先生
9.利尿薬を使い分ける:名古屋市立大学 木村 玄次郎 先生
10.特発性肺線維症の診断と最新治療:東邦大学 本間 栄 先生
11.多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO):東北大学 藤原 一男 先生
12.輸血療法とその副作用−見逃されている臨床病態−:京都大学 前川 平 先生
13.循環器領域における画像診断の現状と未来:日本医科大学 水野 杏一 先生
14.総合内科専門医の育成について:千葉大学 生坂 政臣 先生
15.糖尿病腎症の治療:東京慈恵会医科大学 宇都宮 一典 先生
16.胆石症の病態と治療:広島大学 田妻 進 先生
17.日本人の肺癌の特徴と治療:九州大学 中西 洋一 先生
18.透析療法の現況:東京女子医科大学 秋葉 隆 先生
19.輸入感染症について:東京都立墨東病院 大西 健児 先生

この教育講演を聴くと、消化器内科以外の、各内科領域での最新の知識が耳学問で得られるので、お得なのであるが。で、自習目的にて、以下に各抄録を転載させて戴く。

第110回日本内科学会講演会教育講演抄録
 l. 自己免疫性甲状腺疾患の病態と治療

 藤田保健衛生大学内分泌・代謝内科学 伊藤光泰

 自己免疫性甲状腺疾患は遺伝的素因に環境因子が加わって発症し,Thl/Th2/Th17および制御性T細胞の異常が病態に関与している。橋本病ではサイログロブリン(Tg) や甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO) などに対する抗体がみられ,HLA class 1拘束f生のTgあるいはTPO特異的なCD8+細胞が増加して甲状腺傷害性に働いているとされる。 Basedow病は多くの疾患感受性遺伝子が報告され, 橋本病についても免疫応答に関与するCTLA-4(cytotoxic T-Iymphocyte associated antigen 4)遺伝子の多形の報告が多い。microRNAは標的mRNAに相補的に結合することにより遺伝子発現を制御する。血中にもmicroRNAが, 細胞からエクソソーム等に包まれて存在する。自己免疫性甲状腺疾患の血中microRNAは健常人に比べて, 数十種類が2倍以上の発現強度を示し病因への関与の解明が期待される。環境因子では,ヨウ素摂取量,喫煙,妊娠・出産が重要である。甲状腺自己抗体の存在は機能低下症,妊娠中の合併症のリスクを増大させる。
 Basedow病は抗TSH受容体抗体によるTh2優位な疾患であり,B細胞活性化が病態の増悪に関与している。未治療Basedow病のCD8+細胞減少, 治療による活性化CD8+細胞の上昇はTh2への偏りの是正が治療では重要なことを示唆している。B細胞のCD20を標的としたモノクローナル抗体による欧米での治療は,眼症で一部効果は得られたが,再燃例での甲状腺機能を改善できなかった。抗甲状腺薬治療には頻度の高い重篤な副作用があり,完全緩解率は半数以下と低い。再発予知因子に甲状腺腫の大きさがあり,甲状腺刺激抗体,ヨウ素など多くの因子が関与し,その解明も重要である。未治療Basedow病
ではIL-18などの増加がみられ,緩解群では末治療あるいは難治群に比べてTNFα/sCD40Lの比が高く治療経過の指標となりうる可能性がある。
 個々の甲状腺機能は狭い範聞に制御されている。加齢による影響を考えた基準値が設定されるべきである。潜在性機能低下症と潜在性中毒症はともに心血管イベントのリスクとして生命予後にも影響する。病因に基づく根本的治療を求める努力が今後も必要である。
 2. 膵炎の病態と治療

 東京女子医科大学消化器内科 白鳥敬子

 膵炎は急性膵炎, 慢性膵炎に分けられ, 成因からアルコール性, 胆石性, 遺伝性, 特発性の膵炎と呼ばれる。最近,自己免疫性膵炎も知られる。
 急性膵炎は膵酵素の活性化による自己消化である。炎症が膵局所に留まる軽症と,重症では傷害された膵実質から多量の炎症性mediatorが放出され多臓器不全やSIRSを併発し,腸内細菌の移行による重症感染症を合併することもある。成因はアルコールや胆石が多いが,女性では特発性も多い。重症度を判定し,重症例はICU管理とする。治療では十分量の初期輸液が極めて重要で予後を左右する。蛋白分解酵素阻害薬や抗菌薬とともに,疼痛にNSAIDsや非麻薬性鎮痛薬を投与する。重症では早期からの経腸栄養の導入が望ましい。
 慢性膵炎は持続的な炎症により膵組織の破壊と線維化が進行し,膵内外分泌機能が低下する疾患で代償期,移行期,非代償期に分けられる。原因は男性ではアルコール,女性では特発性が多い。慢性膵炎が進行すると膵管に蛋白栓や膵石が出現し,膵管の不整拡張がみられる。代償期での腹痛には鎮痛・鎮痙薬や経口蛋白分解酵素阻害薬の投与,醇石や膵管内圧上昇に起因する腹痛にはESWLや内視鏡的に治療を行う。消化不良と膵性糖尿病が主となる非代償期では補充療法として高力価消化酵素薬,インスリン治療を行う。慢性膵炎は膵癌危険因子であり長期にわたる経過観察が必要である。
 自己免疫性膵炎は発症に自己免疫機序の関与が疑われる膵炎で,我が国から発信された疾患概念である。膵腫大・膵管狭細が特徴で,血中γグロブリン高値, IgG・IgG4高値,自己抗体陽性を示す。組織学的にはリンパ球や形質細胞浸潤がみられる。胆管狭窄による閉塞性黄疸,糖尿病に加えて,硬化性胆管炎,硬化性唾液腺炎,後腹膜線維症,間質性腎炎など多彩な疾患を併発する。治療はステロイドが有効であるが,膵癌との鑑別が極めて重要である。
 3. 白血病の分子病態

 東京大学大学院医学系研究科血液・腫蕩内科学 黒川峰夫

 白血病は造血細胞が単クローン性増殖をきたす疾患で,主な病型は急性白血病と慢性骨髄性白血病である。急性白血病では,造血前駆細抱レベルに遺伝子異常が生じて幼若な芽球が増殖する。急性骨髄性白血病と急性リンパ'性白血病に分かれ,いずれもよく認められる染色体転座がある。急性骨髄性白血病ではt (8; 21), inv(16), t (15 : 17)が代表的なもので,それぞれAML1/Runx1-ETO,CBFβ-MYH11,PML-RARαキメラ遺伝子を形成する。 t (15 ; 17)は急性前骨髄球性白血病に特異的である。キメラの構成遺伝子は正常では造血系の分化に重要な転写因子などをコードし,その機能異常が白血病発症に関わる。 t (15 ; 17)陽性例では, PML-RARαを標的としたレチノイン酸を用いることで高い治癒率が得られる。染色体転座以外ではFLT3重複変異などの異常が知られている。FLT3は受容体型チロシンキナーゼで,重複変異はその恒
常的活性化をきたし,予後不良な白血病を引き起こす。
 成人の急性リンパ性白血病ではt(9:22) とt(4:11)などがよく見られ,それぞれBCR-ABL,MLL-AF4を形成する。ABLはチロシンキナーゼであり,BCRと融合することによりそのキナーゼ活性が亢進し,増殖シグナルが活性化される。MLLは転写因子であり,MLL-AF4の異常な機能獲得が白血病の一因となる。
 慢性骨髄性白血病では病初期には分化能を保ったまま,各成熟段階の骨髄系細胞が増加する。造血幹細胞レベルにt(9:22 )転座によってBCR-ABLキメラ遺伝子が生じることが疾患の原因となる。同じBCR-ABLでも,急性リンパ性白血病では190kDの蛋白質が生じることが多いが,慢性骨髄性白血病では210kDの蛋白質をコードするものが多い。慢性骨髄性白血病ではABLに対するチロシンキナーゼ阻害薬が著効を示す。
 4. 脊髄小脳変性症最近の進歩

 北海道大学大学院医学研究科神経内科学分野 佐々木秀直

 脊髄小脳変性症(SCD) は運動失調を中核症候とする,一群の慢性進行性神経変性疾患の総称である。平成23年度の特定疾患医療受給者証交付数は,多系統萎縮症(MSA)が11,797人,“その他のSCD"が25,047人である。疾患構成では,我が国のSCDの1.8%が劣性遺伝性疾患で,27%が優性遺伝性疾患,孤発性疾患は67%である。そして孤発性疾患の実に65%はMSAが占めている.。OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man)において優性遺伝性SCAはSCA36まで登録されている。SCAの当該遺伝子と起因変異の同定に関して我が国の研究者の貢献が大きい。最近ではSCA31やSCA36,及び劣性遺伝性失調症であるSYT14の起因変異同定などはその例である。SCDとして扱われている痙性対麻痔(SPG)については,運動失調症班のJASPACが症例の集積と遺伝子解析を進めている。SPGは痙縮のみを主徴とする純粋型と,他の症候を伴う複合型に大別される。SPGはSPG46まで登録されているが,その中で起因変異不明のものが残されている。以上,SCAは臨床像と同じく,原因も多彩である。
 SCDの中で最も頻度の高い疾患はMSAである。欧米ではparkinsonismで発症する例が多いのに比して,我が国では運動失調で発症する例が60%以上を占める。この相違は人種聞の遺伝学的背景によると推定されている。MSAについては素因遺伝子の解明と,将来の治験に備えて自然歴と重症度評価系の開発が進んでいる。まだ素因遺伝子として確立したものは報告されていないが,今後の展開に期待される。皮質性小脳萎縮症CCAは頻度の高い疾患であるが,その原因には自己免疫機序の関与を示唆する例もあるなど,複数の原因があるものと推定される。
 以上の進歩を踏まえて, SCDに関する最近の話題と課題を紹介したい。
 5. 血管炎の最新知見

 杏林大学第一内科(腎臓・リウマチ惨原病内科)  有村義宏

 血管炎とは,大動脈から毛細血管,静脈に至る血管系の血管自体を炎症の場とする疾患である。血管炎には多くの疾患が含まれ,多臓器障害性で難治性の疾患が多い。血管炎の基礎・臨床研究は,1982年の抗好中球細胞質抗体(antineutrophil
cytoplasmic antibody :ANCA)の発見が契機となり,さらに1994年のChapel-Hill分類の提唱により大きく進展した。本分類によ
り,@血管の太さや血管炎内の各疾患が定義され,AANCA関連血管炎という疾患概念が確立し,B血管炎に属する疾患が主な罹患血管径により分類された。この分類は,基礎研究に影響を与えるとともに,特に臨床研究(血管炎の分布,人種差,治療薬の検討など)に大きな影響を与えた。 たとえばANCA関連血管炎の中で,PR3-ANCA陽性の多発血管炎性肉芽腫症( 旧Wegener肉芽腫症)は欧米に多く,我が国ではMPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎が多いこと,ANCA関連血管炎にシクロフォスファミド点滴静注療法やリツキシマブ治療が有効なことが明らかとなった。
 そのほか血管炎研究では最近の数年間でも多くの注目すべき成果が報告されている。本講演では,その中で,特にANCA関連血管炎について,@病態研究の進歩:好中球活性化,標的抗原,in-situ免疫複合体,T細胞の関与,A診断・治療の進歩:ANCA測定系の改良, 新規治療,新しく提唱された内外の診療ガイドライン,B2012年に改定が提唱され,今後の臨床研究に大きな影響を与えると考えられる改定Chapel-Hill分類(病名・定・疾患定義・分類の改定など)について概説する.
 これらの最新知見は, リウマチ内科,腎臓内科呼吸器内科の専門医だけでなく,初診例を診療する機会の多い一般内科医にとっても有用と思われる。
 6. 心不全の病態と内科的治療

 東京慈恵会医科大学内科学講座循環器内科 吉村道博

 心不全は,心機能の低下により,末梢循環不全やうっ血を来す病態であるが,そこには数多くの神経体液性因子が関与している。特に, レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系,交感神経系は,循環維持に役立っているが,それらの過剰の活性化は,かえって心不全の病態を進めている。それに対抗して,心臓からナトリウム利尿ペプチドが分泌され,ホルモンバランスを取ろうとしているが,前者に対しては不十分である。そこで,この現象を応用する形で,血築BNP濃度測定が心不全の診断に,そして,合成ヒトANP(カルベリチド)の静脈内投与が急性心不全治療法として確立した。
 心不全の治療においては,集学的治療が必要であるが,ここでは内科的治療を中心に述べる。急性心不全においては,救命の観点から迅速な初期対応が望まれる。特に血行動態の改善に重きが置かれ,うっ血がある場合には血管拡張薬や利尿薬を用いる。末梢循環不全が強い場合は,カテコラミン薬の静脈内投与が必要である。また,限外濾過療法(ECUM),持続性血液濾過透析(CHDF),大動脈内バルーンパンピング(IABP),経皮的心肺補助装置(PCPS) などを必要に応じて使用する。心不全の治療においては呼吸管理が重要であり,適切な酸素投与,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV),さらには気管内挿管が必要になることもある。
 急性心不全の最近の薬物療法は,血行動態の改善のみならず,急性期から出来るだけ臓器保護を心掛けるという考え方が基盤となっており,カルベリチドなどはそのような観点からよく用いられる。そして,慢性心不全の薬物療法では,臓器保護の考え方はさらに明確になる。心不全の基礎疾患や重症度でも異なるが,内服薬としては,ACE阻害薬(またはARB),β遮断薬,抗アルドステロン薬が中心となり,生命予後やQOLの改善に役立つことが期待されている。
 7. 今日の結核-診断・治療から感染対策まで

 国立病院機構東広島医療センタ一重藤えり子

 内科の診療において結核は見逃しではならない疾患である。その診断の遅れは集団感染や院内感染に直結する。また,治療が不適切であれば薬剤耐性菌の誘導と感染拡大のリスクが高まる。結核はその疾患の重篤性,感染性から公衆衛生上も重要な疾患であり, 感染症法において2類に位置付けられ,その診療に際しては診断直後の届け出,治療においては「医療の基準」の存在と医療費の公費負担制度,保健所が行う積極的疫学調査(接触者検診)など行政も強く関与することが規定されている。
 結核の感染拡大に最も重要で、あるのは患者の早期発見である。感染性が高いのは喀痰抗酸菌塗抹陽性の肺結核患者であり,診断に際しては胸部X線撮影が手掛かりとなる。しかし,診断の基本は肺外結核も含めて適切な検体を用いた抗酸菌塗抹・培養検査(陽性の場合には薬剤感受性検査)である。最近は核酸増幅同定による迅速な菌の同定,更には耐性遺伝子の検出も可能になっている。これらの検査の普及および適切な使用が望まれる。
 治療は,「I結核医療の基準」に沿って行う。イスコチンとリファンピシンを軸にピラジナミドを含む4剤併用が基本である。副作用の頻度は比較的高く注意が必要であるが,標準治療からの逸脱はできるだけ避ける。薬剤耐性や副作用のため標準治療が行えない場合には専門家に相談すべきである。新薬の可能性も見えてきているが,さらなる薬剤耐性を作らないためにその
使用には慎重であるべきである。
 最近は接触者だけでなく免疫抑制状態にある患者等の発病ハイリスク者に対しでも潜在性結核感染症として積極的に治痕が行われる。日本の結核は高齢者や免疫抑制状態を来す疾患をもつ患者へ偏在しており,大半の患者が一般医療機関において診断されている。その後の治療も含め,結核専門医療機関と地域の一般医療機関の連携による医療提供が必要である。
 8. 生物学的製剤使用患者の感染症リスクと対策

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科薬害l監視学講座 針谷正祥

 Tumor necrosis factor (TNF) 阻害薬を中心とする生物学的製剤は,関節リウマチ(RA),炎症性腸疾患(IBD),乾癖などの自己免疫疾患の新たな治療薬として過去10年間に次々と臨床に導入され,これらの難治性疾患の治療成績が格段に向上した。その一方で,生物学的製剤はさまざまな副作用を有することが明らかとなり,その対策が極めて重要な臨床的課題となった。中でも, 感染症は頻度および重症度から最も重要な副作用と位置付けられている。
 国内では,殆どの生物学的製剤承認時に全例製造販売後調査が義務付けられ,投与開始から6カ月間の有効性・安全性に関する詳細なデータが集積されてきた。また,我が国を含む世界各国で生物学的製剤使用患者レジストリーが立ち上げられ,中・長期に亘る有効性と安全性が解析されている。これらの検討結果から,1)生物学的製剤投与患者における感染症の種類・発現時期・重症度などの臨床的特徴,2)感染症のリスク因子となる患者背景や併用薬,3)原疾患が感染症発現に及ぼす影響,などが明らかとなった。生物学的製剤使用患者では,一般感染症の他に日和見感染症として,結核およびニューモ
シスチス肺炎(PCP) が特に重要である。TNF阻害薬使用により結核の発現リスクは一般人口の数倍から十数倍に上昇し,肺外結核が高率に認められる。PCPは,欧米と比較してTNF阻害薬使用日本人RA患者で高頻度に発現する重症感染症であり,急速な臨床経過を示すため,迅速な診断と治療が特に要求される。また,低頻度ではあるが,生物学的製剤投与下のB型肝炎ウイルス再活性化も注目され,レジストリー研究が進められている。
 本講演では,生物学的製剤使用患者の感染症に関する国内外のエビデンスを整理し,感染症に対する適切なスクリーニング,予防,モニタリングについて概説する。
 9. 利尿薬を使い分ける

 独立行政法人労働者健康福祉機構旭労災病院 木村玄次郎

 利尿薬を服用している限りNaバランスは常に負となり,服用する毎にNaが尿中に失われ続けると考えられがちである。しかし少し考えれば,それは誤りであることに気づく。負のNaバランスが続けば,脱水に陥りミイラにならざるを得ないからである。実際には,通常1週間程度だけNaバランスは負となるが,それ以降は新しい定常状態に達し,その後の体液量は一定に維持
される。このとき体液量や血圧は,利尿薬服用前に比し低くなっている。この時期,Na利尿作用が見えない状態にあっても,利尿薬は作用し続けており中止すればNa排推量は減少し元の高い体液量や血圧に復する。つまり,利尿薬は「Na排泄を永遠に促進する薬剤」ではない。正確には「本来,多い体液量・高い血圧でなければ排世できないNa量を,もっと少ない体液量・低い血圧下でも排池可能とする薬剤」である。
 尿細管セグメントにおける作用部位や強度,持続時間などをよく理解した上で,病態に応じて利尿薬を使い分けることが重要である。概して,浮腫が強い急性期にはフロセミドを,しかし,浮腫が軽快し定常状態に近づけばサイアザイドを選択するのが理に適っている。尿細管の終末端に作用する抗アルドステロン薬は,高K血症がない限り基礎薬として併用する。
 一方,高血圧ではRA系抑制薬が臓器保護の観点から第一選択薬として汎用されている。そのため,高K血症を防止する意味から併用利尿薬はサイアザイドとなる。利尿薬の最大の効用は,体内Na量を減少させ,血圧日内リズムをnondipperからdipperに正常化することにある。その結果,心不全や脳卒中などの心血管事故を抑制する。夜間降圧に一致して尿量が減少するため夜間排尿が不要となり,十分な睡眠が確保でき,生活の質改善も期待される。サイアザイドにはCaバランスを正に転じ骨密度を高め骨折を予防する作用もある。日本人は世界的にも最も食塩摂取量の多い民族でありながら,利尿薬の使用頻度は極めて低い。その活用法については,日本でこそ見直す必要があろう。
 10. 特発性肺線維症の診断と最新治療

 東邦大学内科学講座呼吸器内科学分野 本間栄

 特発性間質性肺炎(IIP) は7型に分類されるが,その中で特発性肺線維症(IPF)は最も予後不良で,発症後の平均生存期間は3〜4年である。IPFの詳細な病態は不明であるが,主に肺胞上皮や基底膜が何らかの刺激で傷害された後の異常な修復反応と捉えられている。その際,様々な炎症細胞ならびに間質細胞から産生される種々のサイトカイン及び増殖因子の作用により病態が修飾されている。TNF-α,IL-1 ,IL-6等の炎症性サイトカイン,TGF-β,FGF等の組織再構築に関与する増殖因子,さらにIFN-γの低下やIL-4等の上昇に起因するTh-2へのシフトが線維化を促進すると考えられている。診断:IPFの確定診断には,外科的肺生検(SLB)によってUIPパターンの確認が必要であるが,IPFとして特徴的な臨床像とHRCT画像所見等を満たせば,SLBを行わなくとも臨床診断は可能である。しかし,HRCT所見で蜂巣肺が認められない場合や,IPFに典型
的ではない臨床所見や生理学的所見を示す場合は他の間質性肺炎との鑑別のためSLBによって診断することが推奨される。治療:IPFは治癒が期待できない慢性進行性疾患であるため,改善にいたらないまでも悪化を阻止することが治療目標である。従って治療効果と副作用のリスクをよく検討し,必ずしも全例が治療適応とはならない。IPF増悪例の治療には,これまでステロイド剤が広く使用され進行性に悪化する場合,シクロフォスフアミド,アザチオプリンなどの免疫抑制剤が併用されてきた。しかし効果は十分とは言えず,これらの薬剤はいずれも直接的,間接的に炎症過程を抑制することが主体であり,徐々に進行する線維化を阻止または改善するものではない。従ってIPFの治療薬として抗炎症作用のみならず,慢性進行性の線維化を抑制する薬剤が望まれてきた。この様な観点から近年,疾病早期から主に抗酸化作用を有するN-アセチルシステイン吸入ならびに抗線維化薬としてピルフェニドンが治療薬として注目を集めている。
 11.多発性硬化症(MS) と視神経脊髄炎(NMO)

 東北大学医学系研究科多発性硬化症治療学寄附講座 藤原一男

 多発性硬化症(multiplesclerosis :MS) と視神経脊髄炎(neuromyelitis optica :NMO)は,免疫性神経疾患の中でも最近の病態解析や治療に関する研究の進歩が極めて著しい疾患である。
 MSは中枢神経の炎症性脱髄疾患であり,病変が時間的空間的に多発することが大きな特徴である。MSは欧米の若年成人における主要な神経疾患であり,その機能障害は患者の長期的なQOLに重大な影響を及ぼしている。一方わが国のMSの有病率は欧米に比べて低いことが指摘されてきたが,近年はその症例数が着実に増加している。以前はMSの診断は臨床症候のみを頼りにして行われ,再発や病状進行を抑制する治療薬も存在しなかった。しかし1980年代から急速に普及した脳脊髄MRI検査は,症候性のみならず無症候性のMS病変の鋭敏な検出を可能にし,MRI所見を取り入れたMcDonald基準はMSの早期診断を可能にした。またMRIは病態研究や治療効果の判定にも重要である.またMSの病因に関与する種々の遺伝因子及び環境因子や多様な分子病態の理解が進み,1990年代半ば以降からはMSの長期経過を改善する疾患修飾薬が登場してきた。しかし慢性進行型MSの有効な治療法はまだない。
 NMOは重症の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする疾患であるが,以前からMSとは別個の独立した疾患であるのかどうかが議論されてきた。しかしNMOに特異な抗アクアポリン4抗体(NMO-IgGとも呼ばれる)が発見されて以後,その特徴的な臨床症候, MRI等の検査所見や病態,治療薬への反応性などが解析され,MSとの重要な相違点が報告されてきた。そしてNMOはアストロサイト障害が主な病態であり,アストロサイトパチーという新たな疾患概念であることが明確になっている。
 本講演では,MSとNMOに閲する臨床,病態,治療や今後の課題などについて概説する。
 12. 輸血療法とその副作用一見逃されている臨床病態一

 京都大学医学部附属病院輸血細胞治療部 前川平

 輸血による感染症は核酸増幅検査の導入により激減し,致死率の高い輸血後GVHD(移植片対宿主病)は血液製剤への放射線照射により見られなくなった。しかし,そのほかの輸血副作用は日常臨床においてしばしば観察される。溶血性輸血副作用と非溶血性輸血副作用に大別した場合,前者は後者に比べて頻度は少ないものの,発症すれば重篤な症状を呈することが多い。溶血性副作用は時間的要因から二つに分けられる。輸血後24時間以内に発症した場合を急性輸血副作用,24時間以上経過してから発症してくるものを遅発性溶血性輸血副作用(delayed hemolytic transfusion reaction : DHTR)と呼ぶ。代表的な急性輸血副作用はABO不適合輸血時の抗A抗体・抗B抗体による血管内溶血であり,輸血開始後10分程度で静脈に沿った熱感,悪寒戦慄,呼吸困難,胸部痛,腹痛,嘔吐などで発症し,輸血開始後患者の様子を観察していれば通常気づ
く。ABO不適合輸血はしばしば致命的で,医療安全の観点から発生防止のために種々の対策がとられている。DHTRは,抗Fy抗体や,抗E,抗D抗体などの不規則抗体による血管外溶血,あるいは補体結合性の抗Jk抗体などの場合は血管内
溶血として発症する。約100万個の分子が関与するABO式血液型と異なり,その他の血液型の抗原決定基数は少なく補体を活性化することはまれで,血管内溶血や腎不全を発症する例は少ない。DHTRでは輸血後数日経ってから発熱とともに貧血が進行したり,ビリルビン値が上昇した場合,輸血との時間的な繋がりが希薄なことから見逃され,また重篤な臨床症状に陥ることがないまま軽快することも多い。しかし,重篤な臨床症状を呈したり,腎不全で死亡する症例も少なからず報告されている。本講演では輸血副作用をオーバービューし,とくにDHTRの臨床病態について臨床症例を提示して考察してみたい。
 13. 循環器領域における画像診断の現状と未来

 日本医科大学内科学講座(循環器内科学)主任教授 水野杏ー

 循環器領域の画像診断の飛躍は近年医療技術の進歩,科学技術の発展の為目覚ましいものがある。観血的な方法として,我が国で開発された血管内視鏡は,世界に多大なインパクトを与え,血管内視鏡により循環器疾患の病因病態が解明され, 新しい疾患概念が生まれた。また,定性診断のみならず,定量的診療が可能な血管内超音波は循環器疾患のカテーテルインターベンション時,バルーン等のサイズ決定に有用のみならず,プラークの性状診断としても役立っている。最近では,臨床の現場で10μmと非常に高い解像度(空間分離能)を有するopticalcoherence tomography (OCT)や,近赤外光を使用するspectroscopyがプラークの性状診断等に用いられるようになった。例えば,糖尿病は末梢動脈疾患と同等の重要な危険因子と考え,これを伴うのみで動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは,高リスク群に分類される。糖尿病例は,糖尿病のコントロールが悪い程プラークが破綻しやすいいわゆる不安定プラークを多く有しているが,IGTの時からすでに不安定プラークを有する事が解明され,極早期からの糖尿病治療の必要性を裏付けたまた。 molecular imagingにより,組織の分子構造まで診断されつつあり,病態の解明に役立っている。
 非観血的な画像診断は,検診などの多くの人達を対象とする際に有用である。CT, MRI,核医学検査等は心血管イベント発生予測のスクリーニング,観血的治療の適応の判断などに使用されている。最近,CT,MRIなどの非観血的診断法で形態学的な診断のみならず,冠動脈血流の測定など機能的な生理学的診断が行えるようになり,画像診断は飛躍的に新たな展開もなしとげている。
 画像診断の進歩は科学技術の進歩に負う事が多いが,科学技術の進歩をいかに画像診断に応用するかが臨床医の力量と思われる。
 生体に侵襲度がより低く,しかも形態的な画像として診断されるばかりでなく,生体機能も診断できる画像診断が将来望まれる。
 14. 総合内科専門医の育成について

 千葉大学附属病院総合診療部 生坂政臣

 地域医療の崩壊は地域中核病院での勤務医不足から始まったとされ,特に全領域の専門医を揃えることが現実的でない中小病院では,救急から入院患者までl幅広い疾患に対処できる一般内科医のニーズが高まっている。この医療崩壊に拍車をかけているのが,ナンバー内科から臓器別診療科への再編が進み,専門外診療を不得手とする内科医の増加とも言われている。事実,初期臨床研修必修化以降,内科研修が不十分なまま認定医となり,そのままサブスペシャリティ研修に進む内科医が増えており,本学会でもジェネラルな内科研修を強化すべく制度改革に着手した。本抄録提出時点での案として,内科認定医を廃止し初期臨床研修を含めた5年間で内科を幅広く研錯して内科専門医を取得した後にサブスベシャリティに進む制度や,教育や臨床研究の実績を加えた内科専門医を,従来の総合内科専門医に代えて内科指導医とする意見などが出されている。
 この一階建て部分の研修強化によって育成する内科専門医が非サブスペシャリストとして活躍する場所は大きく3つに分けられ,それぞれ必要とされるスキルも異なる。すなわち大学病院では稀な疾患や複雑な病態の診断と臨床教育の比重が高くなり,地域の一般病院では充足できない臓器専門医の肩代わりとして侵襲的な手技や専門治療まで要求される。さらに診療所では内科だけでなく整形外科,皮膚科,精神科,婦人科などを含めた広範囲の成人プライマリケア診療能力が必須となり,これらすべてのキャリアパスの礎を築くためプログラムを考案しなくてはならない。医療面接に始まり,身体診察,一般検査, (侵襲性のある)特殊検査,そして治療と進む診療の流れの中で,内科専門医としての最低限のスキルは,特殊検査と専門治壌を除いたすべてを全内科領域で過不足なく実行し,必要に応じてサブスペシャリストへ適切なコンサルトを遂行する能力であり,このような内科医が育つ研修体制の構築が望まれる。
 15,糖尿病腎症の治療

 東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科 宇都宮一典

 糖尿病腎症(腎症)の増加は著しく,新規透析導入患者の40%以上を占めるに至っている。しかし,腎症の大きな問題は,病期進展とともに心血管疾患のリスクが高まり,死亡率が増加することである。糖尿病がCKDの最大の原因とされる所以であるが,こうした糖尿病における心腎連関は,微量アルブミン尿の早期から作動する。腎症の治療を論じるにあたっては,糖尿病における血管障害の病因論的共通基盤を踏まえて,包括的な血管保護を目指すことが望まれるのである。
 インスリン抵抗性は,内臓脂肪蓄積を上流に動脈硬化疾患の基盤病態を担うが,近年,腎症の進展要因にもなることが示されている。腎臓にはインスリン受容体が広く存在し,腎構成細胞におけるインスリン作用不足が腎症の成因に関与する可能性が論じられているが,これらの知見は,インスリン抵抗性は糖尿病における心腎連関に重要な役割を演ずることを示唆してい
る。すなわち,腎症に対する治療にはこうした病態の評価を的確に行い,リスクを層別化し,ハイリスクの症例について早期からの包括的介入が必要である。
 腎症の治療は,血糖,血圧,脂質異常症の管理を目標とする。厳格な血糖管理は腎症の発症を抑制するが,顕性化した腎症の進展に寄与する血糖管理の意義はいまだ明確ではない。一方,血圧管理,特にレニン・アンギテテンシン系(RAS)抑制薬はあらゆる病期に進展抑制効果が示されており,腎症治療の第l選択薬とされている。 しかし機序の異なるRAS抑制薬を併用し,強くRAS系を抑えることの意義は,現在論議になっている。腎症には様々な脂質異常症を合併する。スタチンは糖尿病における心血管疾患のリスクを低減するが,腎症の進展を抑制することも判明している。これらの薬物療法によって,腎症の寛解とともに心血管疾患のリスクの低下が期待できる。今後,基盤病態を担う治療標的分子の同定が望まれている。
 16. 胆石症の病態と治療

 広島大学 田妻進

 胆石症は消化器病の中では頻度の高い疾患の一つである。胆石の種類(コレステロール石,色素石に大別)や存在する部位(胆嚢,総胆管,肝内胆管)によりその病態は異なり,診療のあり方も多様である。2009年11月に日本消化器病学会より作成された胆石症診療ガイドラインは,疫学・病態,診断・治療,予後・合併症を包括した診療指針として広く普及している。本教育
講演では内科医として習得しておくべき胆石症の病態と治療について,診療ガイドラインの要点をまじえて以下を中心に概説する。
 1 無症状胆石の取り扱い
 胆嚢結石の約半数は無症状であり経過観察が推奨されるが,正常な胆嚢生理機能と胆嚢壁画像に異常を認めないことが前提である。一方,総胆管結石は症状の有無にかかわらず積極的介入が推奨される。さらに肝内結石は肝萎縮,胆管狭窄,肝内胆管癌合併,症状の有無を視点に治療介入を推奨している。すなわち,無症状胆石の取り扱いには精度の高い画像診断が求められる。
 2. 総胆管結石治療
 内視鏡治療が基本であるが,施設によっては胆管ドレナージや外科的結石摘出術を優先する。その選択は施設の設備や陣容,実績に委ねられる。胆嚢結石を伴う総胆管結石治療も,内視鏡治療に引き続く胆嚢摘出術が推奨されるものの,施設によっては一期的に両者に対する外科治療を行うことを基本とする施設もあり,ガイドラインではその選択を施設に委ねていることから明確な指針が求められる。
 3. 肝内結石治療
 厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」での肝内結石疫学調査では, 1) 胆管手術既往, 2) 結石除去術(内視鏡治療)後の場合,肝切除に比較して発癌リスクが高く,逆に3)ウルソデオキシコール酸投与例では発癌リスクが低いことが報告されている。肝内胆管癌を念頭におく診療が重要な課題である。
 17. 日本人の肺癌の特徴と治療

 九州大学胸部疾患研究施設 中西洋一

 肺癌は急増傾向にあり, 10年以内に世界人類死亡の第5位になると予測されている。日本も例外ではない。原因はタバコと社会の高齢化といわれているが,日本人女性の喫煙率はこの70年間13% 前後とかなり低く,男性喫煙率(85〜40%) の1/3以下である。一方で、日本人肺癌患者の男女比は2:1である。日本人の肺癌は欧米人の肺癌とかなり生物学的特徴が異なっているのである。
 祖父江班の報告によると,我が固におけるタバコによる肺発癌は,男性69%,女性20%という(欧米では男女とも90%とされている)。言い換えると,日本人肺癌患者のうち,男性の30%,女性の80%は「タバコとは無縁の肺癌Jということになる。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異による肺癌がその代表である。この遺伝子変異は,アジア人,女性,非喫煙者,腺癌の患者に多く, EGFR阻害薬(ゲフイチニブやエルロチニブ)が著効する。アジア人肺癌患者の30%以上はこれである。化学療法無効で他に治療法がない患者に対しでも優れた治療効果を有し,アジアの非喫煙肺腺癌患者を対象とした臨床試験(IPASS Study)では標準的化学療法よりも優れた治療効果をもたらすことが示された。さらに,我が国で実施された2つの臨床試験では,EGFR遺伝子変異陽性の患者において標準的化学療法より治療効果に優れるという結果が出た。それ以外にも肺発癌の原因となる新たな遺伝子異常の発見が続いている。
 化学療法についても,骨髄抑制等の副作用のパターンや重症度にも人種差があることが明らかになってきた。薬理遺伝学の導入に伴い人種差・個人差がさらに明らかになれば,安全安心な医療の実現に繋がることが期待される。今,我々が肺癌の領域でなすべきことは,日本人にとっての最適医療を構築すること,そのための研究体制を整備し良質で、倫理的な臨床試験を推進することである。この努力が最終的には理想の個別化医療提供に繋がるはずである。
 18. 透析療法の現況

 束京女子医科大学腎臓病総合医療センター血液浄化療法科 秋葉隆

 2011年末には慢性透析患者30万人を突破し,我が国は人口比で,台湾に次いで,絶対数で合衆国に次いで、それぞれ世界第2位の透析大国となっている。その治療成績は,最も死亡率が低く(DOPPS),世界最良の透析医療を提供できていると自負される。しかしその寿命は同世代の健腎者の4〜5割の余命しかない。この成因として透析導入前の保存期腎不全期の高血圧や動脈硬化を挙げることもできるが,血液浄化療法の不十分さが指摘されている。
 特に,AKIの世界で持続治療の優越性が着目される中で2007年にはLancet誌にDavenportらがwearble artificial kidney (W AK,着る人工腎臓)の試みを紹介し将米の持続治療として期待できると述べた。しかしWAKは血管アクセスという致命的な欠陥があり本邦における実用化はあり得ない。そこで施設血液透析から在宅血液透析へ移行させることで時間と頻度を増加させる方向性が模索されている。現時点では本邦の在宅血液透析患者は約300名に過ぎないが,ニュージーランドでは全透析患者の17.7%が在宅血液透析である。@在宅血液透析専用装置の開発A在宅血液透析用透析液の認可B透析穿刺者介助
者の居宅への派遣C電気水道科などの公費負担D介護施設での実施など,社会的な条件が整えば,現在の技術だけで多数の患者の透析時間と回数の飛躍的な増加が可能となり,CAPDを優に超える患者の治療法として定着する可能性がある。
 一方,透析患者は高齢化が進み,糖尿病を原疾患とする患者割合が増加するなど,施設通院が困難となる患者が増加し,無症状透析や低効率透析を模索したり,「透析の差し控え」を考慮する必要性を検討すべき場面にも遭遇するようになっている。
 以上, 長寿とQOLを求めた治療法の進歩と,老後の生き方を模索する方向性との両極端の変容の要請に直面している維持透析療法の現状を報告する。
 19. 輸入感染症について

 東京都立墨東病院感染症科 大西健児

 多くの日本人が熱帯,亜熱帯地域へ出かける現在,日本人臨床医にとっても輸入感染症の知識は必須となっており,担当医がその知識を有しているか否かが,患者の予後に大きく影響する現状にある。輸入感染症の主症状は発熱と下痢である。発熱を主症状とする代表的疾患にマラリア,腸チフス,パラチフス,デング熱があり,遭遇頻度は低いがチクングニア熱,ウイルス性出血熱,メリオイドーシスなども考慮しなければならない場合がある。下痢を主症状とするものは旅行者下痢症とも呼ばれ,代表的なものに腸管毒素原性大腸菌腸炎,プレジオモナス腸炎,細菌性赤痢,ジアルジア症,クリプトスポリジウム症があり,遭遇頻度は低いがコレラなども考えなければならない場合がある。さらに,日本国内でも感染者が多いカンピロパクター
腸炎やサルモネラ腸炎であることも多い。発熱を主症状とする患者では,渡航先や滞在期間,潜伏期を考慮して,一般的な検査に加えマラリア検査,血液培養検査,デング熱検査などを行う。下痢を主症状とする患者には便の細菌培養検査が必須であり,便の寄生虫検査も行うようにする。高齢者で下痢を主症状とする場合,虚血性腸炎や大腸癌であった例もあり,感染症以外の疾患も考えた対応が必要となる。なお,輸入感染症では複数の病原体を保有することが多く,1種類の病原体を検出しでも常にそれ以外の病原体が検出されるか否かの検索を勧める必要がある。絶対に見逃しではならない疾患は,治
療法や予防法があるにもかかわらず適切な治療や予防が行われなければ不幸な転帰をとる疾患であり,輸入感染症の場合,熱帯熱マラリアや狂犬病がそれに相当する。マラリアは血液標本を作製し顕微鏡でそれを観察して診断することが原則であるが,診断キットも利用できる。同様にデング熱にも診断キットが存在する。治療に抗病原体薬投与が必要な場合は,原則として
病原体を特定した後に,それに効果のある抗病原体薬を投与する。

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(12/11/23金曜・祝日=勤労感謝の日分)
本日は休みの日だが、8:50〜16:50まで、一日中缶詰め状態で、お勉強の日だった。仙台市・TKPガーデンシティ仙台で(財)日本消化器病学会東北支部【第14回教育講演会】が、教育講演会会長:木村理(わたる)先生(山形大学外科学第一講座(消化器・乳腺甲状腺・一般外科))主催の元で開催されたのだ。内容は、
日本消化器病学会東北支部 第14回教育講演会テキストpdf書類(18.2MB)

1.「肝硬変・肝癌の病態解析とその対策
滝川康裕先生(岩手医科大学 内科学講座 消化器・肝臓内科分野)
肝硬変・肝癌の病態解析とその対策:講習のポイントとキーワード
講習のポイント
1.肝硬変の予後は代償性に比し非代償性で極端にあっ化する。
2.肝硬変の基本病態は、肝細胞機能不全、門脈圧亢進、腎前性腎不全、hyperdynamic
  circulationである。
3.肝硬変の抗ウイルス療法(核酸アナログ、インターフェロンなど)が、発癌のリスク減少
  のみならず繊維化を改善する可能性がある。
4.肝細胞癌の危険因子に応じて生活習慣の改善、サーベイランスの頻度の調節を行う。
キーワード
1.非代償性肝硬変
2.門脈圧亢進
3.HVPG
4.Hyperdynamic circulation
5.癌化の危険因子
 1 .はじめに
 我が国の肝細胞癌による死亡者数は年間約3万人で,悪性腫蕩のうち肺癌,胃癌に次いで第3位となっている。肝細胞癌は慢性肝疾患を発生母地とする場合がほとんどであり,その代表である肝硬変による死亡も死因全体の第10位である。従って,慢性肝炎から肝硬変への進展とその非代償化および肝細胞癌の発生は,我が国の健康および社会問題上重要な課題であり,各段階に応じた対策が求められている。
 2 .肝硬変の予後と非代償性
 肝硬変は,肝のぴまん性の線維化と再生結節を特徴とする病理学的な診断名であるが,その臨床症状・症候は無症状から昏睡まで極めて幅広く,予後も大きく異なる。D'Amicoによるシステマティックレビューによると,代償性肝硬変の生存期間の中央値は12年以上であるのに対し,非代償性では2年以下と大幅に低下している。また, 5年生存率は代償性肝硬変の75%に対し,非代償性肝硬変では25%と低下しており,経過中も代償性を維持した例と比較するとその差は更に大きくなっている。
 また,死亡例のほとんどは,代償性肝硬変から非代償性肝硬変へと移行した後,肝不全で死亡するという経過をとると言われ,静脈瘤の出現,腹水の出現,静脈瘤出血と非代償化の段階を経るに従い,1年間の死亡率が急激に上昇する。そして,非代償性の最初の症候は腹水の出現のことが多いと言われる.
 この様な傾向は,我が国の多施設集計でも示されており,肝移植の時期を決定する根拠にもなっている。すなわち,肝不全死亡例のChild-Pughスコアの経緯をレトロスペクテイブに見ると,スコアは経過とともに緩やかに上昇し, 9点を超えた(すなわちクラスCに移行する) 辺りから急激な上昇に転じ, 6ヶ月後に死亡に至る。
 以上のことから,肝硬変の診療においては,非代償性への移行の阻止が重要なポイントとなり,非代償化の機序とその予防法の理解が重要となる。
 3. 非代償性肝硬変の基本的病態
 1 )腹水の発生病態と非代償性肝硬変
 非代償性肝硬変の最初の症候であることの多い腹水を例にとると,その病態生理は概ね図のようになっている。すなわち肝硬変に伴う門脈圧亢進(機序は後述)と肝細胞機能の低下およびこれによる末梢血管拡張物質の貯留が基本的病態である。肝硬変における腹水の起源は主に肝リンパ液の肝表面からの漏出と考えられている。リンパ管あるいは類洞からの血漿およびリンパ液の漏出は,門脈圧すなわち漏出圧が膠質浸透圧(主としてアルブミンによる)を上回ったために起こる(Starlingの末梢血管の法則)。従って,肝硬変における門脈圧の亢進と血清アルブミンの低下(肝細胞機能低下)は,腹水形成に対して少なくとも相加的に関与する.。一方,初期の軽度門脈圧充進に伴い,腸管における血管拡張作用物質産生が亢進し,しかも肝によるこれらの物質の代謝・排世機低下が加わり,末梢血管とりわけ内臓血管の拡張を引き起こす。これにより神経系, レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(ARRS)などを介した心拍出量および心拍数の増加が起こりhyperdynamic circulation が形成される。これと同時に,末梢血管の拡張は有効循環血漿量の低下を招き, RAASやバゾプレシンを介したNa,水の貯留が引き起こされる。このようにして腹腔内に肝リンパ液(腹水)の漏出がおこると,更なる有効循環血漿量の減少を招き,悪循環が形成される。
 腹水の発生に関する上述の機序は,腹水に限らず,非代償性の肝硬変に共通して認められる病態であり,形成された悪循環は種々の合併症,非代償性症候の発現に繋がる。
 2) 肝性腹水の性状
 上述のように,門脈圧充進に伴う腹水は,アルブミンによる膠質浸透圧を門脈圧が凌駕する形で漏出するため,腹水と血清のアルブミン濃度に較差(SAAG) が生じ,一般にSAAG1.1 g/dl以上が門脈圧尤進性腹水の基準とされる。また正常な類洞は基底膜を欠く上に,内皮に無数の小孔を有するため,肝の類洞から漏出する組織間液(リンパ液)には相当量の蛋白が含まれているのが特徴である。
 従って,類洞内皮が正常の状態で漏出する後類洞性門脈圧亢進性腹水(心不全や初期のBudd-Chiari症候群)では腹水中の蛋白濃度が通常2.5g/dl以上を示す。これに対して,肝硬変では,肝線維化が進行するため,デイッセ腔が消失し,内皮も小孔を閉鎖して,いわゆる毛細血管化が起こるため,形成されるリンパ液は通常の組織と同様に低い蛋白濃度を示し,腹水も2.5g/dl以下となる。
 4. 肝硬変における門脈圧亢進の機序とその臨床的意義
 1 )門脈圧充進の機序
 肝の重量は体重の約2.0-2.5%の容積であるのに,受け取る血流は平均して心拍出量の約27%程度である. しかも,肝の血流は体位や食事により大きく変化するため,門脈は血管抵抗をダイナミックに変化させて圧を一定に保っている。すなわち正常肝は血流に対して大きなコンブライアンスを有している。しかし肝硬変では上述のように,門脈血流の増大があるにもかかわらず,肝血管のコンブライアンスが低下,肝血管抵抗の増大があるために門脈圧充進が進行する。
 肝血管抵抗の増大の機序は,解剖学的および機能的要因の2つが上げられている. このうち肝の線維化と再生結節の形成などに伴う解剖学的機序が主体と考えられ,これに星細胞の活性化および収縮による機能的要因が加わって,相加的に圧が充進すると考えられている。
 2) 門脈圧の測定とその臨床的意義
 日常臨床での門脈圧の直接的な測定は困難であり,これに変わるものとして肝静脈圧較差(HVPG)が肝硬変の予後と極めて良く相関することが示されている。HVPGは肝静脈に挿入したカテーテル先端の圧センサーで肝静脈圧とバルーン閉塞したときの圧較差として測定する。HVPGの正常値は,1-5mmHgで, 6mmHg以上が門脈圧充進と診断される。しかし食道静脈瘤や腹水発現など臨床的に有意の症状を来しうるのは,10-12 mmHg以上と言われ,これを"Clinically significant portal hypertension (CSPH)" と呼んでいる。事実,HVPG 10 mmHg未満と10mmHg以上では,累積非代償化率が有意に異なることが示されている。また,既にHVPGが12mmHgを超えた肝硬変においては,治療によってHVPGを12mmHg 以下に減少させるか10%以上の低下を得ることにより,静脈瘤出血や非代償化の危険を有意に低下させうると報告されている。従って,肝硬変において,門脈圧(HVPG)のコントロールは,予後を改善する重要な治療目標と言える。
 しかし. HVPGの測定は侵襲もあり,我が固においては必ずしも普及しているとは言えず,非侵襲的測定あるいは推測の手段の開発が待たれる。その目的で,超音波による肝の弾性度の測定が検討されている。HVPG 10mmHg あるいは 12mmHg にする弾性度の値は報告によりまちまちであるが,近年,C型肝硬変を対象とした検討でそれぞれ13.6 kPa. 17.6 kPaが提唱されている。
 3) 門脈圧允進症に対する治療
 肝硬変における門脈圧亢進の機序(上述)に応じた治療法を示す。肝硬変は病理学的,解剖学的に大きな変化を伴うため,肝血管抵抗の増大を標的とした治療に限らず,肝硬変の原因に対する治療が最も重要なことは言うまでもない。これには,抗ウイルス療法(ウイルス肝炎),アルコール中止(アルコール性),ステロイド(自己免疫性肝炎),潟血(ヘモクロマトーシス),銅キレート(Wilson病)などの効果が報告されている。また,肝硬変および門脈圧尤進の増悪因子として,肥満,アルコール摂取が報告されており,食事(カロリー,塩分制限を含む),運動,アルコール摂取などのライフスタイルの改善の意義が提唱されつつある。かつて,肝硬変は病理学的に不可逆の病態と言われていたが,原因治療により線維化も含めた病理学的所見の改善が見られることが報告されている。
 門脈血流の増大に対する治療法としては,古くから非選択制のβ遮断薬であるプロプラノロールの有効性が示されている。これはアドレナリンのβ1受容体(心拍,心筋収縮)およびβ2受容体(末梢血管拡張)の両者に対する阻害作用が,肝硬変におけるhyperdynamic circulation を抑制する目的に合致しているためで,欧米を中心に広く使用され,有効性の評価も多数報告されている。 しかし,HVPGの目標達成率は必ずしも高くなく,低血圧,気管支喘息など禁忌症例も少なくない。
 アンギオテンシンII受容体阻害薬(ARB)は,星細胞の活性化および収縮抑制作用により肝類洞血管抵抗と肝線維化を抑制すると言われる。中等度から高度の門脈圧亢進を有する患者のHVPGを losartan が45%程度低下させるという報告がなされた。その後のシステマティックレビューではChild A の症例で有効と評価されている。一方では,アンギオテンシンIIは腎糸球体の輸出細動脈の収縮作用が強いため,この抑制はGFRを低下させる可能性があることも指摘されている。
 5 .肝細胞癌の危険因子と予防対策
 わが国における肝細胞癌の約90%がウイルス性慢性肝障害を発生母地とし、そのうち最も多いC型肝硬変においては年約7%程度の率で発生することは周知の事実である。また、近年は非アルコール性脂肪性肝炎からの発癌の増加も指摘されている。これまで、肝硬変の成因,性,年齢,肥満など疫学的な観点からの危険因子が明らかにされている一方で,近年ではGWASにより,肝細胞癌の疾患感受性の高い SNP が報告されるなど,発癌予測がより精密に行われる可能性が生まれている。
さらに,発癌の分子機構に関わる遺伝子異常の研究から,炎症や肝細胞再生,酸化ストレスと発癌との関連が明らかにされつつあり,分子標的治療のみならず発癌予防の標的も示されつつある。
 これまで肝細胞癌の発症率を抑制する事が示されている治療法は,B型慢性肝炎に対するインターフェロン療法や核酸アナログ製剤, C型肝炎に対するインターフェロン投与および著効(SVR),瀉血療法,肝硬変に対するインターフェロン少量長期投与,分岐鎖アミノ酸製剤,非環式レチノイド(二次予防)などである。
 6 .肝細胞癌のサーベイランス
 上述のように、肝細胞癌は危険群がほぼ特定されている極めて特殊な癌である事から、これを対象とした頻回のサーベイランスを可能にしている。すなわち、危険群を絞り込み、事前確率を高めた上で、繰り返し検査を行うことにより、癌の検出の精度を高めている。
 肝細胞癌の腫蕩体積倍加時間 (DT) は報告により開きがあるが、平均で30-600日と報告されている。腫瘍を球体と仮定した場合、その直径の増大速度は、10mm を起点とした場合、体積2倍で12mm、4倍で16mm、8倍で20mm、16倍で26mm となる。従って、仮に 10mm で見逃したとすると、DTの4倍 (4期間) を経過すると 26mmに達していることになる。 DTが仮に90日 (3ヶ月) とすると、1年で局所療法の選択を変更せざるを得なくなる可能性もある。事実、B型肝硬変に対する 6ヶ月毎の超音波検査と AFPによるサーベイランスで、有意に死亡率を減少させたと報告されている。
 日本肝臓学会の「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2009年版」による肝細胞癌診断アルゴリズムを示す。基本的には、超音波検査で結節の存在診断を行い、dynamic CT あるいはMRI で質的診断を行う。検査の間隔は、高危険群では6ヶ月、超高危険群では3-4ヶ月を推奨している。

2.「最新の肝切除術
窪田敬一先生(獨協医科大学 第二外科)

最新の肝切除術:講習のポイントとキーワード
講習のポイント
1.ischemic/reperfusion injuryの対策を知る。
2.種々の肝切離手技について習熟する。
3.新しい用語を習得する。
4.vascular control手技に習熟する。
キーワード
1.ischemic/reperfusion injury
2.Parenchymal transection
3.Liver volumetry
4.Pringle's maneuver
5.Pre-conditioning
 1 .はじめに
 1886年Luisにより初めて肝切除が施行されたが、術直後出血で患者は死亡した。最初の肝切除成功例は1888年Langenbuchにより施行された症例であるが、やはり、出血で再手術されている。当初より肝切除術では出血のコントロールが大きな問題であったことがわかる。1908年Pringleにより肝十二指腸間膜遮断による出血コントロールが記載され、この手技は現在も多くの症例で採用され、出血コントロールに役立つている。最初の成功例以来124年が経過し、肝切除成績は飛躍的に改善したが、これは、肝解剖の理解、術前・中・後管理、肝切除手技、などの進歩により、術中出血量の低減、術後肝不全の減少、が得られたことに寄与するところが大きい。本セミナーでは、腹腔鏡下肝切除手技を除いた、肝切除全般に関わる最近の進歩について概説することにする。
 2. Brisbane 2000 Nomenclature of Liver anatomy and Resections
 2000年Brisbaneで開催された第4回国際肝胆膵外科学会においてLiver anatomyとResectionに関する新しい名称が提唱された。アメリカ、アジアを中心にして、2006年までの約80%の論文で使用されるようになった。このterminologyはさらに普及する傾向にあり、改めて使用を推奨したい。
 3. Liver volumetry
 肝切除術式は肝機能と予定切除肝容積を照らし合わせて選択される。したがって、肝容積測定は肝切除術前に必須の検査と言える。以前は、2D-CT画像をなぞり、volumeを算出していた。Sectorの容積は正確に測定できるが、亜区域の測定はできなかった。現在は3D-CT画像に基づき、門脈枝一本一本の支配容積まで semi-automated に測定することができる。さらに、生体肝移植では、グラフト選択のほか、肝静脈枝のドレナージ領域容積を算定し、枝の再建の必要性を評価することにも役立てられている。術前肝容積測定は保険算定もできるようになっており、各施設で正確に亜区域まで評価できる体制が必須である。
 4. 門脈塞栓術
 門脈塞栓術は、righthepatectomy, right lobectomyの安全性を増すうえで有用な手技であり、無水エタノールなどを用いて、各施設で工夫して施行されている。最近、門脈結紫術を応用した新しい術式が報告されている。Schnitz bauer らは、right lobectomyで切除可能な腫瘍を有する症例に対し、体重に対する left lateral lobe 容積の比が0.5以下の場合、初回手術時に門脈右枝を結紮し、in-situに肝鎌状間膜に沿い、肝実質を切離することにより、急速な left lateral lobe の肥大が得られ、平均9日後に二期的に right lobectomy を安全に施行できた、と報告している。患者は、動脈血で栄養されるright liverと全門脈血を受けるleft lateral lobe で耐術することになる。肝切離しているので、S4の再生・肥大はなく、門脈右枝とP4に対して門脈塞栓術を施行した状態に近似している。その機序は現時点では不明だが、left lateral lobe の急速な肥大が得られ、この二期的肝切除術は残肝容積が小さい症例で有用な可能性がある。
 5. Vascular control
 出血は肝切除後の予後に影響する最も重要な因子である。肝切除を安全に施行し、出血量を軽減するためには、様々な出血コントロール手技に精通していなくてはならない。
 1) Pringle' s maneuver
 最も施行されている出血量軽減手技である。15分クランプ、5分解除で施行することが多いが(intermittent clamp)、欧米では肝切離完了までクランプすることもある(continuous clamp)。クランプ解除中に出血量が増すことが危倶されるが、総出血量、輸血頻度に関し、intermittent群とcontinuous群で差がなかったと報告されている。 Continuous Pringle により、肝切離の中断はなくなるが、手術時間の短縮には繋がらないとも報告されている。慢性肝障害例では、intermittent Pringleのほうが有用であろう。
 2) 片葉阻血
 S8切除で前区域と後区域の境界の肝切離をする際、Pringle法を施行しても良いが、右肝を栄養する脈管のみをクランプするだけで肝切離は可能である。Fogarty鉗子を用いて右ないし左を栄養する脈管を一括遮断し肝切離を施行する(30分遮断、5分開放)手技が片葉阻血である。Pringle法に比較して肝障害を軽減できると考えられている。
 3) Glissonian pedicle clamping
 高崎らにより開発されたGlissonを一括処理して肝切除を行う手技である。 right  paramedian sectorectomy,right lateral sectorectomy、などに有用であると報告されている。
 4) Total hepatic vascular exclusion
 肝へのinfiowとoutfiowを完全に遮断する手技である。利点として、肝静脈の逆流による出血および空気塞栓の減少、が挙げられる。しかし、技術的に難しく、心拍出量、血圧は40-60%に減少し、それに伴い、頻脈などが起こり、約15%の患者しか耐えられないと報告されている。さらに、術後合併症の増加、手術時間の延長、など欠点も多い。
 5) Hanging maneuver
 多くの場合、右肝静脈と中肝静脈の間で、下大静脈前面の無血管領域にテープを通し、釣り上げるhanging maneuver により、肝授動をすることなく、出血量を軽減させ肝切除を施行することができる。また、深部では肝切離の方向性を確認するうえで有用である。テープを通す部位を適宜変え、工夫することにより様々な肝切除手技に応用可能である。
 6. Ischemia reperfusion injuryの軽減
 肝流入血遮断手技はischemia-reperfusion injury(I/R injury)を併発し、術後肝機能不全に繋がる危険がある。このI/R injuryを軽減するために様々な工夫がなされている。
 1) Pre-conditioning
 ClavienらはRCTにより、30分間の連続遮断に先立ち、10分間のクランプ、10分間の解除を施行することにより、特に若い症例でI/R injuryを軽減することができたと報告している。しかし、meta-analysisによると、intermittent Pringleに比較して、出血量で差が無かったとも報告されている。また、肝移植においては、Andreani らにより preconditioning の効果が検討されている。彼らは、阻血障害、primary graft non-function、急性拒絶頻度 、morbidity,mortality において優位性を見いだせなかった。現時点では、肝移植において、ischemic preconditioning の有意な効果は認められていない。肝臓外科における血流遮断を利用した pre-conditioning 効果については今後も検討する必要がある。
 2) Pharmacological preconditioning
 Ratを用いた動物実験で、肝阻血前に isofiurane を導入することによりI/R injuryから肝細胞を守る効果があることが報告された。この結果に基づき、isofiurane などの麻酔薬を preconditioning に用いたRCTが報告されている。Beck-Schimmer らは、Propofol を用いた麻酔において、30分以内の肝阻血前に3.2vol % sevoflurane を30分導入することにより pharmacological preconditioning の効果が得られ、ASTの上昇、合併症率を低減できたと述べている。薬による I/R injury の軽減は新しい概念であり、今後普及する可能性もある。
 3) Post-conditioning
 Ishemic preconditioningの不十分な点をカバーするため、post-condi tioningが考案された。reperfusion後、潅流、阻血を繰り返し施行し、I/R injuryを軽減させる試みである。Zhaoらは実験動物モデルで急性心筋梗塞に対する post-conditioningの有用性を示した。
 肝細胞の apoptosis を減少させ、I/R injury を軽減させると考えられているが、人間で臨床応用するほど有用な実験データは得られていない。
 4) Remote ischemic preconditioning
 体の広範囲の組織で一過性の虚血を起こさせることにより、全身に I/R injury に対する防御能を起こさせる概念である。小児先天性疾患の心臓手術では既に臨床応用されている。
 7. Parenchymal transection
 肝実質切離は出血量に直結する重要な手技である。様々な手技が採用されており、どの手技を用いるにしても、肝要なのは、麻酔医との協力のもと中心静脈圧を5cmH2O以下に抑えておくことである。
 1) Crush-clamp technique
 最も基本的な肝実質切離手技である。ペアンなどを用いて肝実質を破砕し、残った細い脈管を結繋・切離する。 Pringle法下に施行し、電気メスを用いれば、肝実質の硬度にもよるが、効果的に切離が可能である。
 2) Ultrasonic dissection
 CUSAは肝実質を破砕・吸引し、2mm以上の脈管を露出させ、結紮・切離することにより、出血、胆汁漏を軽減させるうえで有用である。 CUSAは肝硬変の有無に関わらず有効であるが、crushclamp法に比較して、切離に時間はかかる。
 同様な原理を用いた Harmonic Scalpel は55500/秒で振動するはさみではさむことにより、3mmまでの脈管をseal し、切離することが可能である。蛋白変性を起こすことにより止血効果が得られるとされている。特に腹腔鏡下肝切除術における肝実質切離に有効である。しかし、harmonic scalpel の使用は、手術時間短縮、出血量軽減、に繋がるが、術後胆汁漏が増加すると報告されている。
 3) Sealing devices
 Sealing装置は切離前に細い血管を seal して肝実質を切離するのに使用される。Ligasure Vessel Sealing System (Covidien,Mansfield,MA,USA)は bipolar 電気メスの原理を応用した seal 装置であり、7mmまでの血管を seal できる。Crus-clamp 法に比較して、出血量、結繋回数の減少に繋がったという報告もあるが、手術時間、出血量は減少しなかったという報告もあり、その有用性に関し今後の検討を要する。
 4) Tissue Link
 円錐状の先端に水滴を滴下しながら radiofrequency のエネルギーを伝えることにより、鈍的に実質切離するとともに、止血効果を得る装置である。Geller らは、Tissue Linkの使用により、輸血率、胆汁漏、合併症率が減少したと報告している。
 5) Radiofrequency-assisted liver resection
 ラジオ波のプローベを使用して、前凝固し、肝実質切離する方法である。2本のプローベを付けた装置など開発されており、面で前凝固し切離していく。しかし、術後の膿瘍形成、胆汁漏などの頻度が高いと報告されている。
 6) Water jet dissection
 高圧の waterjet で肝実質を破砕し、血管・胆管のみ剥離・結紮し、その結果、出血量を減らすことを目的としている。剥離してから結紮する点で、seal 装置より時間がかかるが、切離面を明瞭に露出できる、熱ダメージがない、血管を露出させるのに有用である、などの利点もある。Rau らは、CUSA などと比較して、出血量、切離時間を減らすことができたと報告している。
 7) Vascular stapler technique
 Vascular stapler は主要血管の切離に使用されていたが、肝実質切離にも使用されるようになった。
切離予定ラインを大きな鉗子で圧挫した後、連続的にファイアーすることにより肝実質を切離する。
Crush-clamp 法に比較して、手術時間、出血量、輸血率が減少したと報告されている。
 8)肝下部下大静脈クランプ
 肝実質切離に際し、中心静脈圧を5cmH2Oに下げることが出血量を減らすうえで重要であることは前述した。輸液量を減らす、などの方法の他、肝下部下大静脈クランプは中心静脈圧を下げるのに有用であり、ほとんどの患者で施行可能である。中心静脈圧が5cmH2O以上の症例で施行する意義あり、5cmH2O以下の症例では施行する必要はない。
 8 .まとめ
 肝切除にまつわる最近の進歩について概略した。一見、変化、進歩が無いように思われる領域でも、日進月歩で進歩が得られていることを肝に銘じて、日々の臨床に臨んでいただきたい。

3.「食道癌の外科治療
真船健一先生(三井記念病院 消化器外科)

食道癌の外科治療:講習のポイントとキーワード
講習のポイント
1.食道癌手術の適応。
2.食道癌手術の実際。
3.補助化学療法・補助化学放射線療法。
4.サルベージ手術。
キーワード
1.3領域リンパ節郭清
2.術前化学療法
3.胸腔鏡補助下食道切除
4.食道外科専門医
 1.食道癌の概説
 わが国における食道の悪性新生物による死亡数は、2007年には総数11,699人(男性9,900人、女性1,769人)であり、人口10万人あたりの死亡率は9.3人(男性16.1人、女性3.7人)となっている。(参考:胃癌の死亡率は40.1人)。食道の悪性新生物による死亡数は、全悪性新生物による死亡数の約3.5%であり、悪性新生物のなかで総数では第9位、男性に限ると第6位となっている。食道悪性新生物の死亡率の近年の年次推移は、女性はほぼ横ばい、男性はわずかに増加していることから、全体としてはわずかではあるが増加傾向が認められている。
 2. 食道癌の手術適応
 食道癌の深達度がT1aのうちEP(M1),LPM(M2)のリンパ節転移率は5%以下であり、内視鏡治療の適応とされている。MM(M3),SM1 (200μm 以内)では、約9〜20%のリンパ節転移があり、内視鏡治療は相対的適応となっている。SM2以深では50%以上のリンパ節転移率があり、進行癌と同様に取り扱う必要がある。したがって、手術適応はT1a-MM以深の食道癌となる。もちろん、全身状態に大きな問題はないこと、本人・家族の同意、承諾が得られることなどの条件がクリアされることはいうまでもない。
 近年、化学療法の発達は各臓器において目覚ましいものがある。日本でも、食道癌に対する治療として、欧米で多く施行されている化学放射線療法に高い期待が寄せられ、数年前までは根治的化学放射線療法をまず行い、根治できなかった患者さんのみに手術をすればよいと考える医師が多数いたのも事実である。しかし、その後、晩期合併症が無視できないものであること、根治的化学放射線療法の後に手術を行うサルベージ手術が非常にリスクの高いものであることが認識されるようになり、再び「切除可能な食道癌の標準治療は手術である」といっ意見が主流となっている。
 3 .食道癌の手術
 食道癌の手術は、主病変のある食道切除とリンパ節郭清、さらに再建からなる。食道癌の存在部位によって、切除範囲や郭清部位、そして再建方法も異なってくる。
 1 )胸部食道癌の外科治療
 胸部食道癌の外科治療の原則は、食道亜全摘、3領域リンパ節郭清である。すなわち頚部食道以外の食道はほとんど切除し、頚部・縦隔・腹部のリンパ節を郭清する術式である。
 @ 到達術式
 a. 右開胸・開腹・頚部切開
 従来、右開胸は後側方切開で多く行われてきたが、近年ではqualityof lifeも考慮し、前側方切開によって胸筋温存したり、肋骨切離を控えたりするような工夫も行われている。そのために比較的大きな開胸でも、胸腔鏡を補助的に用いることも多い。
 b 胸腔鏡・腹腔鏡子術
 近年、胸腔鏡を用いた手術が多く行われるようになってきた。手術そのものは通常開胸の手術と変わりなく、郭清程度も変わらないため、侵襲そのものはあまり変わらないといわれている。しかし、実際、胸部の創痛が少ないことで呼吸抑制も少なく、術後の立ち上がり、日常生活動作への復帰も早いのは確かである。
 イ左側臥位:従来から行われていた通常開胸の延長として行われている。通常開胸を行ってから、胸腔鏡手術に移行する場合にわかりやすいことと、急な出血にも対処しやすいなどが利点である。また、胸腔鏡でも開胸手術と同じような視野となるため、教育的には良いと考える。
 ロ:腹臥位:縦隔が重力でシフトするため、下縦隔の郭清スペースが保たれること、出血した血液が前方に貯留するため、血液が郭清部位の妨げにならないこと、少ない人数で手術が可能であることなどが利点であるが、通常の開胸の視野と異なるので解剖に十分注意する必要がある。
 A 切除術式
 基本的に頚部食道を除いた食道および噴門部および胃小彎を切除する。後縦隔経路で胸腔内吻合をする場合は、胸部上部の切除をやや控えることになる。
 B 郭清術式
 3領域郭清:胸部食道癌は広範囲にリンパ節転移を起こすことから、本邦では頚部・縦隔・腹部の領域にわたる3領域リンパ節郭清が広く行われている。これによって良好な成績が発表され、2002年のガイドライン作成以降、日本の標準郭清術式として認められている。
 しかし、3領域郭清のevidenceは、無作為比較試験を行っていないため低くみられ、リンパ節郭清をあまり重視していなかった欧米ではあまり受け入れられていない。ただし、Altorki らは Skinner らが提唱した en bloc esophagectomy に頚部郭清を加えて報告し、さらに日本と同様の3領域リンパ節郭清として郭清の有用性を報告している。Udagawaらは、転移度と郭清症例の5年生存率からリンパ節部位ごとに efficacy index を計算し、郭清の有用性、とくに3領域郭清の意義を示した。これは比較的均一の手術方法で広範囲の郭清を行っている施設であることから、信頼性があるデータといえよう。
 C 再建術式
 a 再建臓器
 イ.胃:原則的には、胃を用いて再建することが標準的に行われている。左右の噴門リンパ節、小彎リンパ節を郭清するように胃管を作成する。比較的太い胃管を作成する場合と大彎側の細経胃管を作成する場合がある。
 ロ.結腸:胃切除後や胃癌を合併して胃が用いられない場合などは、結腸を用いることが多い。一般的であるが、縫合不全の頻度が高い。
 1.回結腸:回結腸動脈を切離し、中結腸動脈を栄養血管茎として、右側の回結腸を拳上する方法。
 2. 横行結腸(左結腸動脈):中結腸動脈を切離し、左結腸動脈を栄養血管として、上行結腸から横行結腸を拳上する方法。
 3.空腸:有茎空腸を用いるが、血管吻合が必要なこともある。
 b 再建経路
 イ.胸壁前経路
 ロ.胸骨後経路
 ハ.後縦隔経路
 従来は、美容上の外観、手術の安全性などの理由から、胸骨後経路が多く行われてきたが、近年は後縦隔経路の頻度が増加している。嚥下に有利であるとの理由であるが、逆流が起きやすいことや再発時や胃管病変の処理などに難渋すること、縫合不全の際に重篤になる可能性があることなど、他の方法に比較して一概に優れているとは言いがたい。
 2) 頚部食道癌の外科治療
 頚部食道癌は進行癌が多く、リンパ節転移の頻度も高いが、頚部に限局することが多い。
 @ 到達術式
 頚部切開:襟状切開、U字切開などの切開を置く。広頚筋 Platysma まで切開した後、皮膚を上方に翻転し、頚部の術野を展開する。まれに胸部上部に大きな横切聞を置いて、大きな術野を確保することもある。
 胸骨縦切開:頚部切聞に加え、胸骨を縦切開したり、逆T型に切離し、観音開きにして、上縦隔の術野を得ることもある。
 縦隔鏡:近年では、縦隔鏡や胸腔鏡を用いて、上縦隔の郭清を追加することも行われている。
 A 切除術式
 イ.喉頭温存手術:喉頭、気管に浸潤なく、腫瘍口側が食道入口部より下方にとどまる症例が適応。
 a.喉頭温存頚部食道切除
 b. 喉頭温存食道全摘
 ロ.咽頭喉頭食道切除(喉頭合併切除)
 a. 咽頭喉頭頚部食道切除
 b 咽頭喉頭食道全摘:胸部食道まで癌が伸展している場合は食道を全摘する。また、食道全体に異型上皮が存在し、いわゆるヨードの斑不染が認められる場合などは考慮される場合がある。
 B 郭清術式
 頚部食道癌の第1群リンパ節は101、106rec、第2群リンパ節は102、104、105であり、T1b以深の頚部食道癌では頚部郭清に加え、上縦隔リンパ節(106rec、105) のリンパ節郭清が必要である。
 C 再建術式
 頚部操作のみの手術では、遊離空腸再建が原則である。
 食道を全摘した場合は、通常、後縦隔経路に胃管を拳上し、咽頭まで届かない場合は、遊離空腸を間置する。
 3)腹部食道癌の外科治療
 通常は、下部食道・噴門側胃切除を行う。食道胃接合部癌と同様で、開腹・経食道裂孔によるか、左開胸・開腹によるアプローチが多い。経食道裂孔的に下縦隔の郭清を行う方が、左開胸よりも予後が良いという食道浸潤胃癌に対する臨床試験JCOG9502の結果もあるが、腹部食道癌に対してはいずれのアプローチも使用されている。
 縦隔・下部食道へ進展しているようなら、胸部下部食道癌に準じた右開胸・開腹の食道亜全摘手術と郭清が必要となる場合もある。胃への浸潤が大きい場合は、食道浸潤胃癌に準じて胃全摘・膵合併切除を行う。
 @ 到達術式
 a.左開胸・開腹
 b. 経食道裂孔的
 c. 右開胸・開腹
 A 切除術式
 a. 下部食道・噴門側胃切除
 b. 下部食道・胃全摘
 c. 食道亜全摘
 B 郭清術式
 a. 下縦隔郭清+胃D1+
 b. 下縦隔郭清+胃D2
 c.上中下縦隔郭清+D1+/2
 C 再建術式
 a. 食道・胃管吻合
 b. 有茎空腸間置
 c. 空腸Roux-en-Y再建
 d 結腸再建
 4 .偶発症
 食道癌の手術は、術後に多くの偶発症(いわゆる合併症)が起こる危険性が高いとされている。
Ando らは、術後の偶発症では呼吸器合併症が19.5%と高く、在院死亡の40〜 60%が呼吸器偶発症であったことを報告している。またGriffinらによると、食道癌根治手術後の偶発症発生率は45%であり、うち呼吸器関連は17%、心血管系は7%であり、やはり呼吸器偶発症が最も問題であった。
 1 )呼吸器偶発症:無気肺、肺炎、肺水腫、呼吸不全など。食道癌術後には最も高頻度に起こる偶発症である。
 2) 不整脈:頻脈、心房細動など。虚血性心疾患や心不全などに結びつくこともあり、注意を要する。
 3)縫合不全:頚部の食道皮膚痩なら自然に軽快するが、縦隔炎を起こすと重篤化する可能性がある。
リンパ節転移のためなどで切離した場合を除き、通常は半年以内に回復することが多い。
 4) 吻合部狭窄:器械吻合を行った場合には高頻度に起こることも指摘されているが、手縫いでも器械でも縫合不全や狭窄の頻度に差がないという報告もある。いずれにせよ、狭窄の多くは内視鏡下にバルーン拡張で対処可能である。ただし、頚部や胸部上部に吻合部があるため、嚥下の際につかえや誤嚥をしないように注意深く嚥下させる必要がある。
 5)反回神経麻痔(さ声):反回神経周囲のリンパ節郭清を行う際に損傷すると神経の麻痺が起こり、声帯麻痺が起こる。片側ならばさ声で済むが、両側だと気道閉塞の可能性もある。また誤嚥を起こしやすいので、注意を要する。
 6) 乳ぴ胸:術中胸管損傷によって、乳ぴ胸が発生する。保存的に経過観察したり、胸膜の癒着療法で軽快することが多いが、手術が必要とすることもある。
 7)術死・在院死亡:30年以上前には、食道切除手術は非常に危険な手術とされ、Akiyamaらの術死率3%という良好な報告は世界的に驚かれた歴史がある。その後、Andoらは術死(手術直接死亡) (30日死亡)率1.7%、在院死亡率7.9%と報告している。近年は、欧米でも、術死率2%、在院死亡率4%という極めて良好な報告がなされている。また胸部外科学会の全国調査によると、術死率は、2007年1.2%、2008年1.2%、在院死亡率は、2007年3.4%、2008年2.8%であり、従来に比較すると、また欧米と比較するとはるかに安全に手術が可能となっている。
 5. 補助療法
 1 )補助化学療法
 JCOG 9204試験では、術後補助化学療法としてシスプラチン(CDDP) /5-FU群が対照群に比べて、全生存率では有意の差は認められなかったが、無再発生存率で有意に良好な成績を示しており、その結果より、2007年度版のガイドラインでは、リンパ節転移を有する症例におけるCDDP/5-FUの術後化学療法を推奨されていた。
 しかし、JCOG9907試験によって、術前化学療法が術後化学療法より効果的であることが示され、Stage II/III食道癌に対して、術前のCDDP/5-FU投与が標準治療とされている(食道癌診断治療ガイドライン2012年版) 。また、StageIIIでは術前化学療法の予後上乗せ効果はほとんど認められないため、その効果は十分とはいえなかった。したがって、近年はより強力なDocetaxel/CDDP/5-FU(DCF)などの化学療法を術前に施行する試みがなされている。
 なお欧米では多くの無作為比較試験がなされているが、これらを基にしたメタアナリシスの結果からは、切除可能例に対する術前化学療法の有効性は明確ではない。
 また、JCOG9907試験では、術前と比較して術後の化学療法完遂率が低いことが成績の差となった可能性が指摘され、一概に術後化学療法が無効とは結論できない。
 2)補助化学放射線療法
 欧米では、術前化学放射線療法を用いた比較試験が多く行われているが、化学放射線療法の術後生存率への上乗せ効果ははっきりしていない。化学放射線療法によって高いpCRが得られ、よく効いた症例では、さらに手術を追加しても生存率は向上しないという主張もある。術前化学放射線療法群と手術単独群を比較したメタアナリシスも数多く行われているが、はっきりとした結論は出ていない。
3年生存率をエンドポイントとするメタアナリシスでは、術後90日以内の手術関連死亡が上昇するものの、局所再発率を低下させ、3年生存率を有意に上昇させることが報告されている。
 術後に施行する予防的な放射線治療に関しては、1980年代後半には積極的に行われていた。無作為試験ではないが術後予防照射による生存率の改善や局所再発の頻度を低下させる効果も報告され、またJCOGの無作為比較試験でも術後放射線療法が生存率を改善することが報告された。しかし、海外で行われた4つの無作為比較試験にいずれにおいても、術後照射による局所再発は有意に低下するものの、生存率の向上はみとめられなかった。CDDP導入による化学療法の進歩とともに、予防的な放射線療法はあまり行われなくなっている。
 非治癒に終わった症例に対しては、遠隔転移がなければ化学放射線療法は広く行われており、有効であるとの報告も散見されるが、無作為比較試験は行われていない。
 6 .サルベ-ジ手術
 根治的(化学)放射線療法後の癌遺残または再発に対する手術をサルベージ手術と定義されている。
根治的放射線量はわが国では一般に60Gy以上としている施設が多いが、欧米ではINT0123試験の結果より50.4Gyが標準となっている。したがって、50Gy以上の放射線照射を行った症例に対する食道切除を一般にサルベージ手術としている。
 サルベージ手術の術後5年生存率は25〜35%であり、予想以上に良好な成績を示している。しかし、サルベージ手術は決して容易ではなく、目標とするROを達成できないことも多い。非治癒切除率は15〜35%であり、非治癒の場合の予後は極めて不良である。
 さらにサルベージ手術では、呼吸器偶発症や縫合不全など術後偶発症の頻度が高いことが指摘されている。気管壊死・穿孔などの組織虚血による重篤な偶発症が多いのも特徴である。したがって、在院死亡率も7〜22%と極めて高率であり、決して安全な手術ではないことに留意しなければならない。
以上より、サルベージ手術によって長期生存が期待できる症例はあるが、リスクが高い手術であることに留意して、慎重に適応を決定する必要がある。
 7 .その他の食道癌に対する手術
 1 )非開胸食道抜去
 頚部食道癌の胸腹部食道切除、胸腹部食道癌で癒着・低肺機能で開胸困難例、高齢者、郭清が不要な表在癌症例などが適応とされてきた。現在は、化学放射線療法やEMR/ESDの普及でその適応が限られている。しかし、一方、内視鏡手術の発達により、縦隔鏡下で従来不能であった郭清操作が可能になってきている。
 2)バイパス手術
 切除不能食道癌で手術以外の治療でも狭窄が改善しない場合、食道気管凄など経口摂取が不能な症例を適応として、バイパス手術を行うことがある。サルベージ手術時に切除不能と判断された時の姑息的手術として行われることもある。食道ステント挿入術の普及でその頻度は従来と比較すると減少している。
 8.食道外科専門医制度
 食道癌の手術治療は難しく、かつ手術によって手術成績が大きく異なる可能性がある。また術後も十分な管理が必要であり、生死に関わる偶発症も多い。手術数の多い病院ほど術後偶発症が少ないことが指摘されている。米国における全国的な解析調査から食道切除と肺切除でその傾向が強いことが示されている。英国でも、National Health Service のガイドラインでは、食道切除は大病院で行うことが推奨されている。一方、食道癌治療で生存率を左右するのは病院の手術症例数ではなく、個々の外科医の手術症例数であるとの報告もある。また同じような手術を行っても、術後管理を行うチームによって差が出ることも事実であり、術後管理を行うチームの経験も重要な要素である。
 そういう意味でも、食道癌の外科治療ではきちんとした教育や資格が必要な分野であると考える。
そこで、2010年度より日本食道学会の食道専門医制度がスタートした。最初の2年間のみ食道外科暫定専門医を認定し、2011年度がらは暫定専門医による食道外科専門医の認定作業が始まっている。したがって、暫定専門医は、暫定という名称ではあるが、実際は食道手術100例以上、筆頭論文10篇以上という日本の食道外科をリードする指導医である。現在までに、暫定を含め166人の食道外科専門医が認定されており、今後は食道外科医選択の参考にしていただければと考える。

4.「胃癌の内視鏡治療
小原勝敏先生(福島県立医科大学附属病院 内視鏡診療部)

胃癌の内視鏡治療:講習のポイントとキーワード
講習のポイント
1.ESDの登場に伴い、胃癌の内視鏡診断が著しく進歩した。
2.内視鏡治療適応の原則は、リンパ節転移の可能性がきわめて低く、腫瘍が一括切除
  できる大きさと部位にあることである。
3.ESDの適応拡大病変の問題点を十分に把握しておくことが大切である。
4.ESD後の根治性の評価と切除後の治療方針が重要である。
5.ESDの偶発症として穿孔、術後出血などが重要であり、適切な対応と防止対策が必要
  である。
キーワード
1.早期胃癌
2.EMR
3.ESD
4.胃癌治療ガイドライン
5.適応拡大病変
 1 .はじめに
 わが国の胃癌診療は検診システムの整備・発展や内視鏡機器の進歩により、早期癌が多数発見されるようになり急速な進歩を遂げた。その中で、機能温存かつ根治性を追究した内視鏡治療が広く行われている。
 内視鏡治療は、1960年代の胃ポリペクトミーに始まり、1980年代には多田らがstrip biopsy法を開発し、これが内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection :EMR)の原点となった。EMRでは、平坦な病変に対しても病変部の一括切除が可能となり、病理組織学的検討が行えるようになった。しかし、EMRでは一括切除できる大きさに限界があり、分割切除になることもあり、正確な病理診断は困難になり、さらには再発率が高くなるという問題があった。そのような状況の中で病変を一括切除する方法として、平尾らは高張性食塩水局注法(endoscopic resection with local injection of hypertomic saline-epinephrine solution :ERHSE)、すなわち針状ナイフを用いて全周切開を行い、スネアで切除する方法である。しかし、本法では大きな病変の切除が困難であることや、穿孔の危険性が高いことより、一部の施設にとどまった。その後、EMRに際して一括切除の重要性が主張されるようになり、1990年代後半より、細川・小野らにより ITナイフを用いた、粘膜切開後さらに粘膜下層を剥離する内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection :ESD)が提唱された。その後Hook ナイフ、フレックスナイフなどが次々と発表され、広く普及しつつある。ここでは、胃癌の内視鏡治療としてEMR.ESDを中心に述べる。
 2 .内視鏡治療の適応
 日本胃癌学会が発表した「胃癌治療ガイドライン改訂第3版Jによれば、内視鏡治療適応の原則は、「リンパ節転移の可能性がきわめて低く、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあること」とある。
 1 )絶対的適応病変
  2cm以下の肉眼的粘膜内癌(cT1a)と診断される分化型癌(pap,tub)。肉眼型は問わないが、Ul(-)に限る。
 2) 適応拡大病変
 cT1a, 2cm超、Ul(-)の分化型癌
 cT1a, 3cm以下、Ul(+)の分化型癌
 cT1a, 2cm以下、Ul(-)の未分化型癌(por,sig)
 内視鏡治療遺残再発病変:cT1a,U l(-)の分化型癌
 3) 適応病変からみた治療手技
 絶対適応病変では病変の性状や術者の技量により、EMRまたはESDが選択されるが、適応拡大病変ではEMRでは一括切除は困難でありESDが行われている。
 適応拡大病変に対する標準治療は外科切除であることを留意したうえで行う。
 Ul(+)病変は技術的に難しいことが多く、手技や器機の進歩が必要である。
 3. 術前検査
 内視鏡治療の適応基準である組織型、腫瘍径、深達度、潰瘍瘢痕(Ul)の有無について、術前検査で厳密に診断する必要がある。とくに、病変の範囲や深達度を診断するために、詳細な通常観察に加え、
画像強調観察[色素法、光デジタル法(NBI)、デジタル法(FICE,i-scan) ]、拡大観察などを用いて、内視鏡治療の適応病変(ガイドライン病変または適応拡大病変)に入るかどうかを検討する。病変の境界が不明瞭な場合は、癌の境界の外側で正常と思われる部位から生検し、病理学的に境界を決定しておく。なお、超音波内視鏡は必須ではないが、深達度や潰瘍瘢痕所見の補助診断として有用なこともある。
 4 .内視鏡治療の実際
 EMR ESDで使用する医療器機、医療材料としては、高周波発生装置、電子スコープ(前方送水機能付き)(病変部位によりMulti-bendingスコープ)、止血用処置具(ホットバイオプシー紺子、止血紺子、クリップ、APCなど)、局注針(25G)、局注液(生理食塩水、グリセオール、ヒアルロン酸製剤など)、CO2送気装置、EMR用処置具(ワニ口把持紺子、半月形スネア、爪付きキャップ、EVL用キットなど)、ESD用処置具(IT系ナイフ、針状ナイフを改良した先端系ナイフ、ハサミ系ナイフなど)、ESD時のカウンタートラクション用処置具(先端アタッチメント、先端細径透明フード、エンドリフタ一、外付け把持鉛子、糸付きクリップ)などがあり、施行する治療手技に応じて準備しておく。
 1) EMR
 EMRの手技としては、Strip biopsy法、透明プラスチックキャップ法(EMRC法)、内視鏡的吸引粘膜切除法(EAM)、食道静脈瘤に対する結紫術を応用したEMR-L法など様々な方法が開発されたが、ESDの登場によりEMRの施行頻度は減少している。しかしながら、EMRは簡便で安全性の高い手技であるので、病変によってESDと使い分けることが望ましい。
 2) ESD
 @ 前処置および術中管理
 抗血栓薬服用中の場合は、内服薬に応じて、治療前に一定期間の休薬が必要である。
 降圧剤や冠血管拡張剤など、内服が望ましい薬剤以外の内服薬は当日朝より中止する。
 前日から術後1ヶ月間、PPIの投与を行う。
 ESD前に静脈確保を行い、鎮痙薬、鎮静薬などの静注を行う。当内視鏡診療部では、ソセゴン(15mg) 1Aを静注し、ドルミカム1A+生理食塩水18mlの溶液を呼びかけに応じなくなるまで5mlずつ静注する。治療中に体動があれば適宜追加する。終了後、フルマゼニルで覚醒させる。
 術中モニタリングは必須であり、血圧、酸素飽和度、心電図、脈拍はモニターし記録に残しておく。
 A ESDの手技
 a.病変の観察
 術前検査で決定した切除範囲を確認、再度範囲診断を行う。
 b.マーキング
 病変の辺縁より約5mm程度外側に、針状ナイフやAPCを用いて2-3mm間隔で全周性
にマーキングを凝固波で行う。切除標本の口側と肛側の位置関係がわかるようにいずれかに目印を付けておく。
 c.局注
 マーキングのやや外側局注針を穿刺し粘膜下層に局注を行い、十分な粘膜膨隆を形成させる。
 d.全周切開および粘膜下層剥離
 各種デバイスで粘膜を全周性に切開する。粘膜下層に局注を追加しながら、粘膜下層の剥離を進めていく。
 当内視鏡診療部では、ESDの工夫の1つとして、2011年10月からカルボキシメチルセルロースナトリウム(sodium carboxymethylcellulose:SCMC )を局注剤として用い、粘膜下層の剥離を施行している。SCMC注入により粘膜下層が浮き上がり、良好な視野のもとに粘膜下層の剥離が安全に行えるようになった。
 e.標本回収と粘膜欠損部の処置
 標本を回収後、再度スコープを挿入し、露出血管の確認を行い、止血甜子などで処置しておく。
 f.内視鏡安全チャックリストとタイムアウト
 当内視鏡診療部では、ESDを安全に行うためにチェックリストを用いて、治療直前にスタッフ間での前処置の確認、患者確認、抗血栓薬服用の有無、禁忌薬剤の確認を行い、さらにタイムアウト(モニターが患者に装着され作動しているか、すべてのチームメンバーの名前と役割を確認する、内視鏡治療の方法や予定時間の確認、各種ライン・輸液の確認、予想される重要なイベントの確認など) を行い、ESDを開始する。治療後にサインアウト(検体・標本の氏名と患者氏名が一致しているかを確認、患者の回復および管理について注意すべき問題点を確認)し、最後にそれぞれ署名して終了する。
 B 術後の処置
 治療当日はベット上安静とし、絶食とする。
 必要最低限の内服(胃薬を含む)のみ可とする。
 治療翌日に、採血、胸腹部XP施行する。
 治療翌日あるいは翌々日より流動食や粥食から開始する。
 5. ESD後の評価
 ESD後の根治性の評価は、局所が完全に切除されているか、リンパ節転移の可能性がほとんどないか、という2つの因子によって決定され、これらがクリアできて治癒切除と評価できる。
 治癒切除の原則は、「腫瘍が一括切除され、腫瘍径が2cm 以下、分化型癌で、深達度がpT1a,HM(-),VM(-),Ul(-),ly(-),v(-)である」と定義されている。
 適応拡大病変の治癒切除については、胃癌治療ガイドラインによれば、一括切除でHM(-),VM(-),lyv(-)でかつ以下の基準を満たすものとされている。
 @ 2cm超、Ul(-)、分化型、pT1a(M)
 A 3cm以下、Ul(+)、分化型、pT1a(M)
 B 2cm 以下、Ul(-)、未分化型、pT1a(M)
 C 3cm以下、分化型、pT1b( SM1: 500μm未満)
ただし、@で未分化成分が2cm超、Aで未分化成分のあるもの、CでSM浸潤部に未分化成分のあるものは、非治癒切除とする。
 6. ESDの治療成績
 当内視鏡診療部にて2003年7月から2012年9月まで施行した胃ESD症例は571例であった。平均年齢71.9歳(41-86歳)で、平均標本径42.lmm(15-115mm)、平均腫瘍径18.6mm(2-75mm)、一括切除率96.8% (553/571)、完全一括切除率89.6%(493/571)、治癒切除率86.3%(493/571)であった。
 7 .偶発症とその対策
 当内視鏡診療部で施行した胃ESD症例571例における偶発症は、穿孔16例(2.8%)、術後出血27例(4.7%)、誤嚥性肺炎10例(1.8%)などであった。
 1 )穿孔
 一般に術中穿孔は1-5%程度と報告されている。当院では2.8%であった。
 手術時間が長くなったり、U領域(体上部、体部大彎)の病変、大きな病変、潰瘍瘢痕を伴
う病変など、難易度の高い病変で多い。
 穿孔した場合は、クリップで閉鎖し、経鼻胃管による持続減圧吸引、抗生剤の投与、PPIまたはH2受容体拮抗薬の静脈内投与を行う。クリップ閉鎖の方法には、孔をクリップで完全に閉じるいわゆる縫縮術(simple closure) と小網もしくは大網を充填するomental patchと呼ばれる方法がある。ほとんどの場合は保存的に治療可能であるが、重篤な腹膜炎をきたした場合は、緊急外科手術の適応を考慮する。
 遅発性穿孔は0.1%以下とされているが、保存的に治療できないことが多く、原則は開腹手術の適応である。
 2)術後出血
 治療後2週間までの術後出血の報告がある。
 切除後の潰蕩面の露出血管を、止血紺子やホットバイオプシー鉗子、APCなどで凝固処置することで術後出血のリスクが減少する。
 術後出血防止のためにPPIの投与や生活制限を行う。
 8. ESD後の治療方針
 1 )治癒切除の場合
 年1-2回の内視鏡による経過観察を行い、とくに適応拡大病変では、腹部エコー検査やCT検査を併用することが望ましい。
 治癒切除の場合、ヘリコバクタービロリ感染の有無を検査し、陽性者では除菌を行う。
 2) 非治癒切除の場合
 @ 追加外科手術を必須としないもの
 分化型癌を一括切除したが、水平断端(HM)が陽性であった、または分割切除になったものの、HMのみが非治癒因子であるという場合である。このような場合は転移の危険性が低く、患者へのインフォームドコンセント後に、再ESD、切除時の焼灼効果(burn effect)を期待した厳重な経過観察、焼灼法(APC,レーザーなど)の追加、あるいは追加外科切除を選択する。
 A 追加外科手術を必須とするもの
 上記以外は非治癒切除として追加外科手術を選択する。
 おわりに
 EMRからESDへの内視鏡治療の発展に伴い、消化管癌の内視鏡診断が著しく進歩している。ESDのさらなる先には、NOTES関連手技として腹腔鏡補助下内視鏡的胃全層切除術(laparoscopy-assisted endoscopic full-thickness resection :LAEFR) や内視鏡的全層切除術(endoscopic full-thickness resection :EFTR) が期待されている。

5.「早期慢性膵炎診断の確立に向けて
入澤篤志先生(福島県立医科大学会津医療センター準備室 消化器内科)

早期慢性膵炎診断の確立に向けて:講習のポイントとキーワード
講習のポイント
1.2009年に慢性膵炎診断基準が改定され、早期慢性膵炎という概念が加えられた。
2.早期慢性膵炎の診断には、膵実質の微細な変化を捉えられるEUSの役割が大きい。
3.慢性膵炎への早期医療介入のためにも、早期慢性膵炎の臨床徴候および画像所見を
  理解しておく事は重要である。
キーワード
1.早期慢性膵炎
2.超音波内視鏡
 1 .はじめに
 慢性膵炎の予後は悪く、慢性膵炎の予後調査によれば、慢性膵炎患者の死亡率は一般人口の死亡率の約2倍とされ、1993年の世界的な疫学調査では、膵癌の発生率は年齢・性別・国を調整した予想発症数の26倍にものぼることが明らかにされた。このようなことから、慢性膵炎を早期に診断し、適切な治療を行うことの重要性が認識されていたが、2009年に慢性膵炎診断基準が改定され、この中で早期慢性膵炎という概念が世界に先駆けて提唱された。これは、慢性膵炎に対するより早期からの医療介入のためにも画期的な改訂であった。早期慢性膵炎の診断においては、微細な膵実質・膵管異常を示す画像が重要視されており、非侵襲的に高解像度で至近距離から膵臓を観察できる超音波内視鏡(endoscopic ultrasound: EUS) の役割が大きい。本稿では、早期慢性膵炎の診断のポイントについて記す。
 2 .早期慢性膵炎診断基準
 「早期慢性膵炎」とは、膵炎を疑わせる臨床症状や検査値異常、飲酒歴などの複数の因子を有し、EUSや内視鏡的逆行性膵管造影(Endoscopic retrograde pancreatography: ERP) で早期慢性膵炎に合致する軽微な膵実質・膵管異常を呈する疾患群である。早期慢性膵炎診断基準を表に示した。なお、体表からの超音波検査やCTでは早期慢性膵炎の特徴的な画像の描出はできないため、検査法からは除外されている。早期慢性膵炎が通常の慢性膵炎に進展するか否かについては、現在国内でも検討が進められているが、CatalanoらはEUSで早期慢性膵炎(mild chronic pancreatitis : CTやセクレチン試験では慢性膵炎所見が陰性)と診断された37症例を5年間経過観察した結果を報告し、20例でEUS所見の増悪が観察されたとしている。また、このうちの18例ではCTでも慢性膵炎を示唆する所見が出現. 16例ではセクレチン試験で異常値を示したと報告しており、EUSで捉えられた微細な膵実質・膵管変化は、まさに慢性膵炎の初期像である可能性が高いことが示されている。
 3.早期慢性膵炎の臨床徴候
 早期慢性膵炎診断基準では、臨床徴候として以下の4項目:1 )反復する上腹部痛、2)血中・尿中膵酵素値の異常、3) 膵外分泌障害、4) 一日80g以上の大量飲酒歴、が挙げられている。以下に各徴候と早期慢性膵炎を念頭に置いた考え方について具体的に記す。
 1 )反復する上腹部痛
 慢性膵炎の腹痛の特徴は「反復する腹痛」である。胃潰瘍などの消化管由来の腹痛の性状とは異なり、痛みの性状の詳細な問診も診断に役立つことが多い。また、上部消化管内視鏡検査や腹部超音波検査を施行しても有意な所見がなく、痛みの原因となる様な器質的な疾患の存在が考え難い場合は早期慢性膵炎も鑑別診断として考えておく必要がある。また、PPIの試験的投与も早期慢性膵炎診断過程においては試みてよい方法である。
 2) 血中・尿中膵酵素値の異常
 膵酵素異常とは、血中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇あるいは正常下限未満に低下、もしくは尿中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇することとされている。しかし、早期慢性膵炎では膵酵素異常が認められない場合も少なくない。
 3)膵外分泌障害
 臨床診断基準においては、膵外分泌障害はBT-PABA試験で明らかな低下を複数回認めることとされており、確実な再現性が求められている。膵外分泌障害の特徴的な症状としては、脂肪便、下痢、体重減少、栄養障害などがあるが、組織学的にも軽微な変化である慢性膵炎早期の段階で機能障害に関連した顕著な症状を呈する事は少ない。
 4) 一日80g以上の大量飲酒歴
 前述の反復する上腹部痛を訴える患者を診察する際には、飲酒歴の詳細な問診は不可欠である。純エタノール換算で一日80gの飲酒量とは、概ねビール大瓶3本、日本酒3合、25%焼酎2合、である。飲酒と慢性膵炎EUS所見との関連について、Thulerらは、アルコール多飲者と非多飲者間で慢性膵炎のEUS所見の差異について検討しており、アルコール多飲者で有意にEUS異常所見が観察されたとしている。また、Sahaiらは、1157人の飲酒量とEUS所見を解析し、飲酒量に比例して慢性膵炎のEUS所見数が多くなったと報告している。それほどの自覚症状がなくとも、相当量の飲酒をする患者に対してはEUSでの精査が推奨される。なお、女性は男性に比してアルコールによる膵障害は起きやすいとされている。原因がはっきりしない上腹部痛を訴える女性の場合は、飲酒量が必ずしも80g/日でなくとも早期慢性膵炎も念頭に診療にあたることは重要と考える。一方、Petroneらは、飲酒のみならず喫煙、および年齢も加味した検討を行っており、年齢に伴う膵実質や膵管異常を考慮しても、長期の喫煙とアルコール摂取は慢性膵炎EUS所見(hyperechoic foci やhyperechoic ductal margin) の発現リスクが明らかに高いことを報告している。飲酒のみならず喫煙についても慢性膵炎のリスクファクターであることを認識して問診を行うことは求められる。
 4. 早期慢性膵炎の画像診断
 1 )基本的事項
 早期慢性膵炎の診断基準では、画像診断としてEUSとERPが取り上げられている。いずれも専門施設での特殊検査の類に入るものではあるが、早期慢性膵炎は膵実質の微細な変化を主体とするため、その診断の確実性といった点からこれらの検査が要求されている。一般に施行されている体表からの腹部超音波検査では、EUSで描出される微細な膵実質変化を捉える事は困難であり、前述の臨床徴候から早期慢性膵炎が疑われる場合は、積極的な専門施設への紹介が望ましい。特にEUSは非侵襲的な検査であり、ERPに比してそのハードルは明らかに低い。筆者らの検討では、ほほ同時期に腹部超音波検査とEUSを施行した患者の所見を比較してみると、腹部超音波検査で正常範囲内と考えられた患者のうち、その約半数でEUSでは早期慢性膵炎像を呈していた。すなわち、先述の臨床徴候が2項目以上ある患者(特に大量飲酒者)においては、腹部超音波検査が問題なくともEUSは施行しておいてよい。
 2)超音波内視鏡(EUS)所見
 EUSは高解像度で至近距離から膵臓を観察できるため、早期慢性膵炎の画像診断に極めて有用な検査法である。正常膵実質は肝臓とほぼ同等かやや高エコーで均一に描出され、fine reticular patternを呈しており、その膵実質エコー内には拡張・蛇行した主膵管や、不整拡張分枝膵管は観察されない。主膵管壁は膵実質に比してわずかに高輝度の均一線状エコーとして観察され、その径は頭部で2.4mm、体部で1.8mm、尾部で1.2mm程度である。これらの所見を基本とし、表に示した様な異常所見が定義されている。
 早期慢性膵炎診断基準においては、慢性膵炎の重症度が考慮され、表に示した7項目が挙げられており、特にその中でも蜂巣状分葉エコー、不連続な分葉エコー、点状高エコー、索状高エコーの4項目は特に重要とされている。以下に、正常像も含めた早期慢性膵炎のEUS画像について解説する。なお、各所見の定義はRosemont分類(2009年に提唱された、以前から定義されてきた各EUS所見をその重要度に応じて格付けすることによる新しいEUS診断基準)に則り記載した。
 @ 分葉エコー(Lobularity)
 @)蜂巣状分葉エコー(Lobularity,honeycombing type)
 A)不連続な分葉エコー(Nonhoneycombing lobularity)
 分葉エコーは、膵実質が高エコーの線で分葉状に区切られ網目の様に見えるもので、その線で囲まれた一分葉の大きさは5mm以上であり、膵体尾部に少なくとも3つは見られるものである。3つ以上のLobularが連続性に見られるものが蜂巣状分葉エコーであり、分葉状のパターンに連続性がないものは不連続な分葉エコーと定義される。
 A 点状高エコー(Hyperechoic foci: non-shadowing)
 少なくとも3つ以上の、陰影を伴わない径3mm以上の点状高エコーである。陰影を伴う点状高エコーは石灰化であり早期慢性膵炎所見からは排除される。
 B 索状高エコー(Stranding)
 膵体尾部に3mm以上の線状高エコーが3つ以上見られる所見である。索状高エコーはアーチファクトとしても観察される事があり、有意な索状高エコーはその方向性にばらつきがみられる。また、高エコーを呈する膵管壁との区別にも注意しなくてはならない。
 C 嚢胞(Cysts)
 短径が2mm以上の円形または長円形を呈する膵実質内の無エコー構造物である。その個数に規定はない。
 D 分枝膵管拡張(Dilated side branches)
 主膵管と交通のある1mm以上の径を持つ分枝膵管拡張であり、少なくとも3本以上の不整拡張分枝膵管が見られる場合を有意所見とする。
 E 膵管辺縁高エコー(Hyperechoic MPD margin)
 膵体尾部でみられる主膵管の半分以上の範囲で、その壁が高エコーに観察される所見である。
 3) 内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)
 早期慢性膵炎診断におけるERP所見は、主膵管には大きな変化を認めないが3本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められるものである。適切に分枝膵管の拡張を評価するためには、ある程度主膵管内に圧をかけて画像を得る必要がある。
 5. おわりに
 早期慢性膵炎診断のポイントとしては、1)原因の同定が出来ない上腹部痛を訴える患者では、早期慢性膵炎の可能性を念頭に置く。2) 飲酒歴がある患者や検診等で膵酵素上昇/低下を指摘された患者に対しては、症状がなくともEUSでの精査を勧める。
 このような事を念頭に消化器診療にあたることにより、早期慢性膵炎確定の診断は出来なくとも早期慢性膵炎疑いの患者を拾い上げる事は可能であり、この事は長期的に見ても患者にとっては大きな福音になる。EUSやERPによる膵画像診断においては、腫瘍診断という観点だけではなく、早期慢性膵炎診断といった観点からも取り組んでいただければ幸いである。

6.「胆道癌の内視鏡診断・治療
小林 剛先生(仙台市医療センター 仙台オープン病院 消化器内科)

胆道癌の内視鏡診断・治療:講習のポイントとキーワード
講習のポイント
1.胆道癌の治療方針の決定にはMRCP、MDCTが有用である。
2.胆嚢癌ではEUS、胆管癌ではERCPが診断の基本となる。
3.胆管癌では側方進展の診断が重要で、IDUS、胆道鏡と生検が有用である。
4.化学療法導入のための減黄には、開存期間が長いmetallic stentが有用である。
5.ERCP下胆道ドレナージが困難な場合には、経消化管的なEUS下穿刺ドレナージが用
  いられるようになってきた。
キーワード
1.ERCP:Endoscopic retrograde cholangiopancreatography
2.EUS:Endoscopic ultrasonography
3.IDUS:Intraductal ultrasonography
4.EBD:Endoscopic biliary drainage
5.ESBD:Endosonography-guided biliary drainage
 はじめに
 本邦の人口動態調査によると、胆道癌の死亡数は2007年度、癌死亡の第6位で全体の5.0%を占めていた。罹患数は年間19000人程度で、癌死亡数と差が少ないことから、胆道癌が予後不良であることがわかる。特に欧米に比べて本邦では胆道癌の発生頻度が高く、高度で着実な対応が望まれる。胆道癌の根治治療は外科手術であるが、本稿では診断のポイントと内視鏡治療に関して述べて行きたい。
 I .胆道癌の診断
 [胆道癌の拾い上げ
 胆道疾患は胆管拡張などをUSで拾い上げ、病因検索には簡便なMRCPが有用である。MRCPは静止水を画像化するため、黄疸時の閉塞部位と全体像の把握に適している。すなわち拡張した胆管枝の情報からドレナージの適応、方法、ルートの選択など治療のstrategyを組み立てることができる。
 MRCPによる悪性胆管狭窄の質的診断能を、胆道ドレナージ施行前に検討すると、胆管癌100%、膵癌86%、乳頭部癌63%と総じて高いレベルにあった。MRCPの診断で注意を要するのは、下部胆管狭窄で直下の胆管虚脱を伴う場合や、乳頭部癌例である。その他の pitfall としては、右肝動脈の圧排による偽狭窄像、Oddi筋収縮による下部胆管偽狭窄像、flow artifact などが挙げられる。いずれMRCPで胆管閉塞が確認されればさらなる精査、加療に進む。
 [胆管癌の部位別診断ポイント]
 ・上部胆管(Bs)癌では右肝動脈浸潤の有無は、肝右葉切除もしくは切除不能の判断根拠ともなる重要な因子である。この判定にはERCPに引き続き、管腔内超音波検査(以下、IDUS)が有用である。
 ・中部胆管(Bm)癌は三管合流部となることが多く、予後不良な胆嚢管癌との鑑別が問題となる。胆嚢管癌の画像はMRCP、ERCP ともに片側性の狭窄、平滑、ふた瘤状の圧排像を呈する。
 ・下部胆管(Bi)癌は膵癌の他、良性胆管狭窄として慢性膵炎、自己免疫性膵炎(AIP) によるものとの鑑別が必要である。
 ・肝門部胆管癌(Bp)の局在は、胆管と周囲脈管が複雑な解剖学的位置を示すため、進展度診断には再構成画像の情報量が多いMDCTが有用である。鑑別診断には原発性硬化性胆管炎(PSC)が挙げられるが、AIPにおける多発胆管狭窄例の86%が肝門部に狭窄を伴っており、血清、組織学的なIgG4検索が必要である。
 ・広範囲胆管癌は、表層進展が肝内にみられても顕性黄疸を発現しにくい点や、画像でも腫瘤像として描出されにくいことから発見が遅れることがあり注意を要する。
 [胆管癌の進展度診断]
 胆管癌は側方進展(表層進展、壁内進展)を伴いやすいという特徴を有し、手術適応や術式の決定にはその診断が重要である。基本はERCPや経皮経肝的胆管造影による直接造影であるが、引き続きIDUSや胆管生検、胆道鏡(POCS)など精密検査が必要となる。胆管癌切除例からIDUSの側方進展の診断能を検討すると、正診率は上流側78%、下流側70%であった。これらは胆管壁への影響を考慮してドレナージ前に評価することが重要である。また、IDUSによる膵浸潤、十二指腸浸潤の正診率はそれぞれ90%、90%と良好な成績を報告している。超音波による胆管壁の深達度診断は、内側低エコー層にss浅層(線維組織)も含まれるため、厳密な意味では早期癌(T1)と進行癌(T2)との鑑別は困難である。診断基準として低高エコー境界が整である所見をm-ss(Tis-T2)、不整のものをss(T2)、外側高エコーが断裂、消失したものをse以深(T3)としたとき、IDUSの正診率は83%であり、EUSの正診率79%を上回っていた。これまでの報告でもIDUSの正診率は85-87%と良好とされている。
 [胆石と胆嚢癌との関係]
 胆石と胆嚢癌の因果関係は明らかにされていない。当センターの切除例をみると、切除例というbiasはあるが、胆石からみた胆嚢癌の合併率は2.2%、胆嚢癌からみた胆石の合併率は55%であった。無症状胆石の胆嚢癌発生率は、画像診断の発達した近年の報告をみると、長期観察群の0.5%以下とするものが多い。これは超音波検診で発見される胆嚢癌の頻度が0.02%前後であることから、検診例の長期逐年群に相当する可能性がある。一方、全国胆石症調査では胆石症からみた胆嚢癌の合併率は0.81%と高率であることが報告されている。胆嚢癌切除例では胆石を有していても(有石胆嚢癌)、症状がみられたのは76%であり、4人にl人は無症状であった。胆嚢癌の術前診断能は,胆石を合併していない胆嚢癌(無石胆嚢癌)では隆起型が84%で、約90%が診断可能であったのに対し、有石胆嚢癌の診断はより低率で、強く胆嚢癌を疑った例は65%にとどまっていた。このような有石胆嚢癌の特徴、肉眼型を把握しておくことが重要で、肉眼型は隆起として指摘し難いUa, Ub型の早期癌と平坦型の進行癌が37%を占めており、無石胆嚢癌の16%と比較すると倍以上であり、これは術前確診が困難であった症例の分布とよく相関していた。また、有石胆嚢癌の切除例では術前診断の難しいm癌が34%を占め、術後に初めて発見されることが多く、標本の詳細な検索の重要性を示している。
 [胆嚢癌の診断]
 胆嚢癌の質的診断や深達度診断に際してはEUSによる形態評価、MDCTでの viability を含めた dynamic study が有用である。胆嚢癌の予後規定因子を切除例の多変量解析からみると、壁深達度が最も重要な因子と報告されている。深達度がm、mp(pT1a pT1b)までの早期癌は切除により完治が見込まれるが、se、siの癌の多くは予後不良である。ss癌の診断は、進展度に応じた適切な手術が選択されれば予後が期待できるため臨床上重要である。
 EUSで表面が小結節状、平滑で、内部が実質様の1p型であれば胆嚢癌の深達度はm と判断される。また、表面不整で実質エコーからなる広基性腫瘤や限局性壁肥厚であっても、lOmm以下で外側高エコー層が保たれていれば早期胆嚢癌(1s,Ua,Ua + Ub)である可能性が高い。外側高エコー層が不整であればss浸潤癌であり、断裂していればse、si、hinflb以上となる。一方、外側高エコー層には組織学的にssの一部も含まれているため、保たれていてもss浸潤は否定できない。胆嚢動脈の造影にて2-3次分枝に閉塞やencasement があればss浸潤癌の診断が可能であるが、最近では非侵襲的な検査が優先され、MDCTや造影エコーなどでのdynamic study が用いられる。
 U.胆道癌の内視鏡治療
 [内視鏡治療の注意点]
 胆膵の内視鏡的診断、治療の基本はERCPである。ERCPは1968年にMcCuneらによって施行され、本邦では1969年に大井、高木らによって初めて報告された。ESTは1973年にKawai ら、1974年にClassen らによって報告されて以来、その有用性、安全性は長期予後も含め確立されている。現在ではこれを応用した各種診断法と、特に内視鏡治療が大きな発展を遂げている。一方、消化器内視鏡実施による医療過誤訴訟では、ERCP関連手技による事例が多いとされている。実際にERCP施行時に起こりうる症状とその発症機序を表lに示す。
 ERCPに伴う偶発症の頻度はprospectiveな多施設研究では、4.0%、6.7%という報告がある。また、EST後の偶発症に対する多施設研究では、偶発症の頻度は9.8%であり、勝炎が5.4%、出血は2.0%との報告がみられる。
 [EBD : Endoscopic biliay drainage]
 悪性胆道閉塞に対する stentingで, plastic stent の問題点は clogging であり、改善策として大口径化を目指した self-expandable metal stent (SEMS) が登場した。一方、SEMSの欠点はメッシユ間隙からみられる tumor ingrowth であり,カバータイプ(CMS:covered expandable metals tent)の出現により改善されている。SEMSの問題点は抜去,再挿入などの自由度の低い点,高価である点、胆管や十二指腸粘膜の損傷のリスクなどが挙げられる。また、CMSは胆嚢管の閉塞による胆嚢炎,逸脱,迷入などが指摘されている。
 これまでの報告による plastic stent の開存期間の中央値は、10F以上に限定して検索すると3-6ヶ月であり,これに対しSEMSの開存期間の報告は6-9ヶ月の成績が得られている。悪性肝門部狭窄では複数本の stenting が必要となることが多い。切除不能な肝門部胆管癌を中心とした内視鏡治療を検討した。SEMS (Niti-S) 2本を用いてY字型に留置を施行した20例(YMS群)と、Plastic stent 2本を用いて両葉ドレナージを施行した37例(PS群)を比較すると、YMS群のstent開存期間は平均250日でありPS群の115日を有意に上回っていた(P= 0.0061) 。
 閉塞性黄痘で発症した切除不能膵癌では化学療法の前に滅黄術が必須であり、最適なstentを選択することが重要である。減黄後にGemcitabine化学療法(GEM) を施行した36例とhistorical control を比較すると、CMS-GEM群の stent 開存期間の中央値は13.6ヶ月であり、Plastic stent-GEM群より長い結果であった。 GEM施行群では生存期間の延長が確認され、継続投与や患者のQOL改善のためには長期間存の期待できるCMSを選択するべきである。
 [ESBD : Endosonography-guided biliary drainage]
 十二指腸狭窄や乳頭部浸潤などで、ERCP自体が施行できない場合は、経皮経肝的な穿刺ドレナージが行われてきた。近年、EUS下に行う穿刺機器や処置具が発達し、経消化管的な胆道穿刺ドレナージが可能になった。方法はEUSを使用して穿刺後、ガイドワイヤーで胆管内腔を確保し、テーパードや拡張用バルーンを用いてstent を留置する方法である。偶発症としては胆汁漏出,出血,穿孔,ワイヤーの逸脱などが報告されている。
 当センターで非切除悪性胆道狭窄にESBDを施行したのは42例であった。このうちにSEMSを21例に留置し、16例は内視鏡的胆管腸管吻合を目的とし施行し、5例は腫瘍を介して順行性に留置した。One-stepでSEMSを留置したのは7例で、最終的に plastic stent 留置後2期的にSEMSを留置したのは14例であった。標的胆管は肝外胆管80%、肝内胆管20%であり、手技は全例で成功した。内視鏡的胆管腸管吻合を目的とした16例の長期経過は良好で、2例にstent閉塞、1例に逆行性胆管炎がみられたが、平均開存期間は433日であった。
 [胆道癌に対する化学療法]
 当センターにおいて切除不能の胆道癌に対する化学療法の成績をretrospectlveに検討した。切除例・非切除例に対して、GEM単剤療法を基本として53例、S-l単剤療法を61例に施行していた。1クール以上遂行できた非切除胆道癌55例で1次治療の有効性を検討すると、奏功評価可能であったGEM群21例、S-l群17例では奏効率(CR+PR)はそれぞれ、10%、18%、病勢コントロール率(CR+PR+SD)は、81%、88%であった。生存期間中央値はhistorical controlであるBSC群9.4ヶ月に比較すると、GEM群16.6ヶ月、S-l群11.5ヶ月と長かった。原発部位別に生存期間を検討すると、肝外胆管癌のGEM群はmedian-OSが24.1ヶ月、肝内胆管癌ではS-l群が25.5ヶ月と長かった。また、胆道癌ではGEM投与後のS-l投与にて生存期間延長の上乗せ効果が期待できた。
 [最後に]
 近年、胆道癌に対する各種画像診断の発展は目覚ましい。原発部位に応じた診断,治療の strategy が必要で、可能な限り患者負担の軽減を計ることが重要である。また、胆道癌に対する術前や化学療法施行時には、適切な内視鏡的ドレナージが必須となることが多く、その後の対応も迅速に行えるようにしなければならない。

7.「大腸癌の治療
橋口陽二郎先生(帝京大学 医学部外科学講座外科)

大腸癌の治療:講習のポイントとキーワード
講習のポイント
1.大腸早期癌のリンパ節転移の危険因子は、SM浸潤度1,000μm以上、脈管侵襲陽性、
  低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌、浸潤先進部の簇出(budding)Grade2/3である。
2.直腸癌では、腫瘍の局在により腸管の切除範囲およびリンパ節の郭清範囲が異なっ
  てくる。
3.大腸癌の分子標的治療薬として、bevacizumab、cetuximab、panitumumabがあり、それ
  らのうち、cetuximabsとpanitumumabはKras野生型の症例にのみ適応がある。
キーワード
1.SM癌
2.腹腔鏡下手術
3.側方郭清
4.分子標的治療薬
 1 .はじめに
 高齢化と食事の欧米化を背景に、大腸癌は増加の一途を辿っており、2001年には、大腸癌の罹患数は毎年10万人を超えるようになっており、2020年には、胃癌、肺癌を抜き、男女をあわせた日本人の癌罹患数、罹患率でともに1位になると予測されている。大腸癌の臨床は日進月歩であり、近年では診断の面ではPETなどの画像診断技術の進歩、治療の面では腹腔鏡下手術の普及、新しい抗癌剤の導入が顕著である。大腸癌の標準的治療方針を提示し、大腸癌治療における施設問格差を是正するために、大腸癌研究会によって大腸癌治療ガイドラインが作成され、治療の均てん化がはかられている。しかし腹腔鏡下手術の適応,遠隔転移に対する治療方針、大腸癌術後補助化学療法、進行・再発大腸癌への化学療法の選択などにおいて、施設問較差は依然として大きい。本講演では、大腸癌に対する現時点における治療法選択および治療の原則について解説する。
 2.大腸癌治療における基本方針
 大腸癌の治療は,外科的切除が第一選択である。大腸癌の病期(進行度)は、壁深達度, リンパ節転移の有無とその範囲,および遠隔転移の有無によって決定される。切除可能な遠隔転移をもつ患者には,原発巣と遠隔転移巣の切除を同時あるいは分割して施行する。切除不能の遠隔転移をもっ患者に対しても、有症状の原発巣に対しては外科的切除を施行することを原則としているが、病状および患者の全身状態により施行しない場合もある。近年では分子標的治療薬(bevacizumab、cetuximab、panitumumab) の導入により切除不能の大腸癌に、まず化学療法を行い、切除可能とした上で外科的切除を行う、いわゆる conversion therapy が注目を集めている。いずれの治療法の選択においても、ほほ全例において癌の告知と病状、治療法の詳細な説明を行い、その上で患者本人の選択を最優先して施行されるべきである。大腸癌における治療法選択のアルゴリズムを図に示した。アルゴリズムにおける適応決定の基準の詳細を以下に示し,解説する。
 3 .外科的切除における術式選択基準
 1 )大腸早期癌の治療
 内視鏡的摘除、外科的局所切除の適応
 大腸内視鏡検査,注腸, EUS、直腸指診による壁深達度診断を総合し、壁深達度がSMまでで内視鏡的切除が可能と判断された病変に対しては、内視鏡的摘除を施行する。内視鏡的摘除が不能な早期直腸癌に対しては、可能なら経肛門的切除などの局所切除が施行される。完全に切除された標本に対して病理組織学的な検索を行い、垂直切除断端陽性の場合、および完全摘除がなされている場合でもリンパ節転移の危険因子を有する場合には追加腸切除を行う。大腸癌治療ガイドラインでは、リンパ節転移の危険因子として、@SM浸潤度1,000μm以上、A脈管侵襲陽性、B低分化腺癌,印環細胞癌,粘液癌、C浸潤先進部の簇出(budding) Grade 2/3を取り上げ、ひとつでも認めれば、追加腸切除の適応としている。
 2) 大腸癌のリンパ節郭清
 大腸癌手術におけるリンパ節郭清度は、術前および術中所見における腫瘍の壁深達度とリンパ節転移度から決定される。
 ・リンパ節転移を認める場合は、D3郭清を行う。
 ・リンパ節転移を認めない場合は、壁深達度によって郭清度が異なる。
 M癌はリンパ節転移がなく、リンパ節郭清を要しない。SM癌は約10%のリンパ節転移頻度であり、2群までにとどまることが多いため、D2郭清の対象となる。MP癌もD2郭清が基本となるが、D3郭清を行う施設も多い。SS以深の場合はD3郭清を行う。直腸癌では、腫療の局在により腸管の切除範囲およびリンパ節の郭清範囲が異なってくる。Rs,Ra癌では肛門側直腸間膜を3cm,Rb癌では2cm切除することが望ましいとされる。また、腹膜翻転部より肛門側に下縁を持つ進行癌の場合には側方郭清が必要となる。
 3) 腹腔鏡下手術と開腹手術
 大腸癌治療ガイドラインにおいては、手術チームの習熟度に応じた適応基準を個々に決定すべきであると規定しており、施設によるぱらつきがかなり見られる。腹腔鏡下手術は結腸癌およびRS癌に対するD2以下の腸切除に適しており、 Stage 0〜Stage 1 がよい適応であるとされているが、年々拡大傾向にあり、D3を伴う腹腔鏡下結腸切除術もかなり一般的になりつつある。一方、直腸癌に対する腹腔鏡下手術も行われるようになってきているが、下部直腸癌に対して腹腔鏡下に側方郭清を行うことはかなりの習熟度を必要とするため、術前化学放射線治療等によって側方郭清の省略が可能かどうか注目されている。
 海外の大規模RCTにおいて、結腸癌およびRS癌に対する腹腔鏡下手術の有用性が開腹手術との比較で検討され、短期成績の優越性、合併症発生率および長期予後の同等性が報告されている。
 4. Stage IV大腸癌の治療
 大腸癌の遠隔転移好発部位は頻度の高い順に,肝,肺,腹膜播種、骨,脳である。肝,肺転移、腹膜播種の一部については切除により根治が期待できる場合もあるが、腹膜播種、骨,脳転移の多くは、全身的な多発転移の一環であり根治は期待しにくい。治療法選択について、図に示した。
 1)肝転移
 肝転移は大腸癌の同時性遠隔転移のなかで最も頻度の高い転移形式であり、その頻度は大腸癌全体で10.7%、直腸癌では9.5%とされている。治療法としては肝切除、肝転移巣のラジオ波凝固、全身化学療法、肝動注療法が行われている。非切除例では、無治療の場合の50%生存期間はl年未満であるが、近年の分子標的治療薬を含む有効な化学療法が施行された場合では2年を突破してきている。治療法としては、肝切除術が最も効果的な治療として確立しており、治癒切除された場合は40%前後(5年生存率は手術適応の違いにより幅があるが25〜50% ) の長期生存が期待できる。肝切除術の適応基準としては、肝転移が肝に限局しているか、肝外病巣があってもそれが根治的に切除可能であること、肝転移巣の完全な切除が可能で、残肝機能が十分であることが重要である。術式としては、肝部分切除と系統的肝切除があるが、転移性肝癌に対しては、現在一般的には部分切除が選択される場合が多くなっている。切除後の再発は残肝再発と肺転移再発が多く、肝切除後の補助療法の工夫が必要と考えられる。
 手術適応がないと判断された症例には、全身化学療法を施行するのが一般的である。肝動注療法は、全身静脈投与に比べて奏効率では優るが延命効果は少ないとされている。切除不能例を全身化学療法や肝動注による縮小効果で切除可能とし、肝切除を施行したConversion therapyの場合の予後は通常の肝切除例と同等か若干劣るとされるものの、非切除例と比較すれば有意に良好であり、注目されている。
 2)肺転移
 肺転移の多くは、原発巣の術前あるいは術後経過観察中に、通常無症状で発見される。大腸癌の同時性肺転移は肝転移に次いで多く、肝転移巣からの二次的転移としても起こりるが、肝転移を伴わずに肺転移のみをきたすことも多く、その頻度は大腸癌全体で1.6%、直腸癌では1.7%とされている。
 肺転移巣の治癒切除がもっとも有効な治療として確立している。肺転移に対する手術は、原発巣および肺以外の遠隔転移が根治的に切除でき、手術による肺機能の損失が少なく転移巣の根治性が高い場合に行われている。術式としては、末梢に位置する場合には胸腔鏡下で自動縫合器により楔状切除が行われ、肺門部に近くて部分切除が困難な例、腫瘍径が大きいものには開胸下の肺葉切除、肺切除が選択される。
 根治的肺切除例の5年生存率は手術適応により幅があるが25〜60%である。両側転移例、縦隔リンパ節転移例、肺以外に転移巣のあるものは予後不良である。肺転移が切除できなかった場合、抗癌剤の全身経静脈投与が行われる。
 5 .大腸癌の抗癌剤補助化学療法
 病理組織学的病期がstageIIIa,stageIIIbの症例については抗癌剤による術後補助化学療法を施行するのが一般的である。stageIIの症例については、ハイリスクのものを選別して施行してよいこととなっているが、ハイリスクのコンセンサスは確立していない。
推奨される術後補助化学療法:投与期間6カ月を原則とする
 ・5 - FU/ LV療法
 ・UFT/ LV療法
 ・capecitabine療法
 ・FOLFOX4療法またはmFOLFOX6療法
 6. StageW大腸癌の化学療法
 切除不能とされたStageW大腸癌については腫蕩増大の遷延、症状のコントロールと延命効果を期待して抗癌剤による化学療法が施行される。国内外の第V相試験により生存期間の延長が検証され、現在国内で使用可能な一次治療レジメンとしては以下のものがあげらる。ただし、cetuximab,panitumumabはKRAS野生型の患者に適応がある。
 ・FOLFOX療法±bevacizumab
 ・CapeOX療法±bevacizumab
 ・FOLFIRI療法±bevacizumab
 ・FOLFOX療法±cetuximab / panitumumab
 ・FOLFIRI療法±cetuximab / panitumumab
 ・5 - FU+LV療法±bevacizumabまたはUFT+LV療法
 おわりに
 大腸癌の近年のトピックは、腹腔鏡下手術と化学療法の急速な普及と進歩であり、大腸癌患者の
QOL、予後に大きな変化をもたらしてきている。臨床医は常に最新の知識を得る努力が必要である。
教育講演会会長:木村 理(わたる)先生
(山形大学 外科学第一講座(消化器・乳腺甲状腺・一般外科))
と盛り沢山で、 参加費:5,000円(テキスト代含)、更新単位:18単位であった。

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(12/10/12金曜分)
今日明日は学会出張(JDDW 2012-KOBE】(第20回 日本消化器関連学会週間))=SAVEpdf書類(227KB)にて休診。神戸国際展示場1号館2階に行って、15,000円の登録費を払って、学会参加登録をする。及び会議資料(プログラム集、CD-ROM抄録集、コングレスバッグなど)を受け取り、又、財団法人日本消化器病学会専門医更新単位登録票 第54回大会(JDDW)[23単位]に記入する。

(12/10/13土曜分)
8時20分には神戸国際展示場1号館2階に行って、LS42ランチョンセミナーの整理券をゲット。8時30分には教育講演JDDW-KOBE プログラムSAVEpdf書類(470KB))の第4会場に席を確保。9時きっかりに午前の部が始まった。

教育講演の抄録

教育講演1
胃:機能性ディスペプシア(FD)
三輪洋人(兵庫医大・内科(上部消化管科))
ディスペプシアとは胃の痛みやもたれなどの心窩部を中心としたさまざまな上腹部症状を表す用語であり、機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia) とは「症状の原因となる器質的疾患がないのにもかかわらず胃十二指腸に由来すると思われる症状を呈するもの」と定義される。またFDではディスペプシア症状を慢性的に認められることも特徴であり、機能性消化管疾患のーつとして位置づけられている。FD患者はこれまで慢性胃炎として取り扱われることが多かった。しかし元来、慢性胃炎とは「胃粘膜の組織学的炎症」を意味する診断名であり、症状の有無や程度と関連するものではない。実際には胃の組織学的炎症がなくとも症状があることは少なくないため、上腹部症状があることと組織学的に胃炎があることは厳密に区別されるべきである。FDという疾患の出現により、このようなどちらかというと暖昧な疾患概念が近年整理されつつある。FDは非常にありふれた疾患で患者数も多い。日本では国民の約1割がディスベブシア症状を慢性的に感じているとされており、日常臨床で最も多く遭遇する疾患のひとつである。FD患者のQOLは大きく損なわれ、労働生産性も低下していることが知られている。臨床医はこの疾患を正しく理解し、対応する必要がある。実際のFDの定義は現在Rome基準が用いられている。Rome委員会は機能性消化管疾患を調査、分類している研究機関である。1989年に初めてFDが定義されたが、現在は2006年に発表されたRomeIII分類が使用されている。この分類ではディスベプシアを腹部膨満感、早期満腹感、心窩部痛、心窩部灼熱感の四つの症状のみで定義し、症状を食事と関連する前二者の症状(食後愁訴症候群PDS) と痛みと関連する後二者の症状(心窩部痛症候群EPS) に分けていることが特徴的である。以前はFDに胸やけを含めることがあったが、内視鏡で異常がないのに胸やけや逆流感を生じる疾患は「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」として別に扱うことが一般的になっている。胃や十二指腸に器質的病変がないにもかかわらずディスベプシア症状があるのは、胃・十二指腸の生理機能の異常によるものであると考えられている。特に胃運動機能異常、内臓知覚過敏などが症状と直接関連する因子として注目されている。この他、精神心理的因子や胃酸分泌過多、ヘリコバクター・ピロリ感染、遺伝子異常,感染後ディスペプシア,幼少時・思春期環境,食事因子,生活習慣などがさまざまな因子が病因として挙げられているが、実際にはこれら多くの因子が複雑に絡み合い、互いに修飾し合って上部消化管の生理機能異常を発現したり強めたりしており、これが症状発現に寄与していると考えられている。


教育講演2
大腸:炎症性腸疾患─最近の進歩─
渡辺守(東京医歯大・消化器内科)
炎症性腸疾患は日本では比較的稀な疾患と考えられ、厚生労働省難治性疾患になっているが、近年、患者数は増加の一途をたどり、2008年度特定疾患医療受給者証交付件数で、潰瘍性大腸炎121,319名、クローン病32,187名と、合わせて約15万人を越えた。過去20年間ほとんど変わっていなかった炎症性腸疾患に対する内科的治療の考え方が、この5年間で劇的に変化してきている。その変化をもたらしたのは、炎症性腸疾患の病態解明が直接的に治療に結びついた結果として開発された、初めての生物学的製剤「抗TNF-α抗体」である。クローン病に対する抗TNF-α抗体の治療効果は予想を大きく上回る驚くべきものであり、全世界で汎用されるに至っている。抗TNF-α抗体がクローン病治療に与えたインパクトは単にその治療効果に止まらなかった。多くのインパクトを与えたが、最も重要なものは、「粘膜治癒」効果、即ち潰瘍を治す事が病気の再燃を防ぐ上で大切だという考え方の導入であった。クローン病の治療はこれまでは症状を改善すれば良いという臨床的効果のみを考えていた。抗TNF-α抗体療法はこの考え方を大きく変え、クローン病の再発予防には内視鏡的にも良くする事「粘膜治癒」が必要であるという考え方が出てきたのである。これは治療に対する劇的な考え方の変化であり、初めて、クローン病のnatural historyが変えられ、早く強力に治療すれば完全治癒させる可能性があるのでは、という考え方に繋がっている。新しい治療概念の変化をもたらした抗TNF-α抗体療法は、日本においても新しいステージを迎えている事は間違いがない。抗TNF-α抗体療法において、結論は出ていないが今、考えるべき問題点、どんな患者に使うか、どれを選ぶか、いつ開始するか、免疫調節薬との併用はどうするか、効果がなくなったらどうするか、長期投与は安全なのか、これまで治療の第一選択であった栄養療法とどう棲み分けるか等を考えてみたい。一方、潰瘍性大腸炎に対しては20年前からの治療が依然として主体であるが、既存の薬物治療に対する考え方/使用法などが大きく変わり、治療成績は飛躍的に向上している。特に病態の解明により、免疫抑制から免疫調節へと考え方が変わったAZA/6-MPの高い有効性が示されてきた。更に薬物治療の副作用などの問題から、non-pharmacological therapyが俄に見直され、日本オリジナルの血球成分除去療法が海外に発信されようとしている。潰瘍性大腸炎においても局所における免疫担当細胞の異常、サイトカインや接着分子異常が明らかとなったことから、種々の抗サイトカイン療法などが欧米で臨床応用されようとしている。最近、潰瘍性大腸炎の寛解導入治療に日本オリジナルの免疫調節薬タクロリムス、抗TNF-α抗体が臨床の現場に登場し、クローン病で起こった治療に対する考え方の変化、即ち、症状の改善のみではなく「粘膜治癒」を治療目標にする考え方が潰瘍性大腸炎にも適用されようとしている。炎症性腸疾患に対しては生物学的製剤を主体とする免疫異常を制御する数々の臨床試験が現在、凄まじい勢いで進められている。しかもその多くが日本も加わった国際共同治験になっており、今後の炎症性腸疾患治療はいわゆる「Drug Lag」がなくなるという画期的な段階に入っている。このような内科的薬物療法の進歩を考えると、炎症性腸疾患は将来、完全治癒が期待できる可能性がある疾患である事を理解して戴きたい。

教育講演3
がん薬物療法:分子標的治療薬
大津敦(国立がん研究センタ一東病院・臨床開発センター)
消化器がんの薬物療法は大きく変貌しつつあるが、その主役は近年多数開発されている分子標的治療薬である。がんに伴う分子異常を標的としてよりがん特異的に作用する薬剤として開発が行われ、抗体薬とレセブターチロシンキナーゼ阻害などの小分子化合物の2つに大別される。がんの増殖因子やその受容体とシグナル伝達、血管新生阻害などがんの間質に作用する薬剤も多数開発され、ほとんどの消化器がんで日常診療に導入されている。GISTのようにc-KIT遺伝子のone-hit mutationのみで発生する腫瘍に対しては、c-KITチロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブが著効を示すように、原因となる遺伝子異常が単純であるほど(driver geneとも呼ばれる)その効果が高い。一方で、血管新生阻害剤 (ベバシズマブなど)のように主として間質に作用する薬剤は特異性が低く効果も限定的で、適切なバイオマーカーも見つかっていない。1) EGFR (HER 1 )阻害剤 EGFRに対する抗体薬としてセキシマブ、パニツムマブが大腸癌に対して臨床導入されている。大腸癌においてはKRAS遺伝子変異なし(野生型)の症例に対して効果が期待され、切除不能進行例では主として二次・三次治療として単剤あるいはイリノテカンとの併用で用いられるが、KRAS野生型で、かつ肝転移限局例など奏効後に手術が期待される症例ではFOLFOXなどとの併用も行われる。ざ創様発疹や爪囲炎など皮膚障害が主な毒性であるが、抗生剤や軟膏の適切な使用で軽減が図れる。胃癌においても現在EGFR抗体薬の臨床試験が進行中である。2)HER2阻害剤HER2は胃癌全体の約15%程度の症例で陽性である。大多数は分化型腺がん症例で、診断は免疫染色(IHC) および、FISHで行われ、IHC3+あるいはIHC2+/FISH+が抗HER2抗体トラスツズマブの治療適応となり、IHCの発現強度と治療効果に相関がみられる。切除不能進行再発例では、初回治療例ではカベシタビン(S-1) +シスプラチンとの併用で行われる。副作用は軽微であるが、心毒性がまれにあるため、定期的な心機能評価を行う必要がある。トラスツズマブ以外にも、ラパチニブ、pertuzumab、TDM-1などの新規薬剤も臨床試験で評価中である。3) 血管新生阻害剤 抗VEGF抗体であるベバシズマブは大腸癌で単剤での効果はないもののFOLFOXなどとの併用効果が示され、切除不能進行例で初回治療から使用される。副作用は概ね軽微であるが、まれに腸管穿孔、血栓など重篤な副作用があり注意を要する。血清VEGF-Aなど治療効果予測因子の検討がなされているが確立していない。VEGFR、PDGFR、c-KITなどとのマルチキナーゼ阻害剤であるスニチニブはGISTのイマチニブ抵抗例に対する二次治療として標準化し、ソラフェニブは進行肝癌で標準治療となっている。さらに同様の薬剤であるregorafenibが大腸癌およびGISTにおいて比較試験で有効性が証明され、現在承認申請中である。これらのマルチキナーゼ阻害剤の副作用は多彩であり、倦怠感、手足皮膚障害、高血圧、甲状腺機能低下などの管理を要する。他にも膨大ながん分子標的治療薬が開発段階にある。すでにポストゲノム時代に入り、フルゲノムシークエンスが安価に解析される時代となっている。例えば、HER2陽性は乳癌・胃癌のみならず、食道や大腸癌でもまれながら存在し、トラスツズマブなどの抗HER2療法の効果が期待されるなど、疾患ベースから標的ベースへと治療が変化しつつある。本講演では、消化器癌に対する分子標的治療薬を最新の知見を交えながら概説する。

教育講演4
食道:臨床応用のための食道発癌および癌進展機構解明へのアプローチ
三森功士(九州大病院別府病院・外科)
食道癌の治療成績を向上させ致死率を逓減させるためには、発癌あるいは予後増悪のハイリスク者を正確に囲い込み、早期発見・早期診断・治療をすることが重要である。このためには食道発癌および癌進展機構を分子レベルで正しく理解することが重要であるが、今日までの論文報告は散発的なものが多くpublic databaseにも登録された情報はほとんどない。今回はこれまでの報告をまとめると同時に、われわれのグループによる多施設共同研究の成果について発表する。1)食道扁平上皮癌におけるこれまでのおもな報告(1)癌遺伝子の増幅;c-MYC, HER-1, CYCLIN D, INT 2はゲノムレベルの増幅を伴い、発現上昇を認めている。(2)癌抑制遺伝子の突然変異:p53の変異は約50%でありexon5-8に集中。pRBは約40%に変異を認め、exon17に集中。APCあるいはMCCの欠失変異も約10%と報告されている。(3)アリル欠失:3p14/FHIT (22%)、5q31.1/IRF (57%)、9p21/p16 (50%)、17q25/不明(71%) などが報告されている。(4)メチル化遺伝子:p16/CDKN2 (62%) 、CDH 1 (45%) 、FHIT (45%)、SST (54%) 、RASSF 1A (50%)などが報告されている。以上、これまでの報告から食道発癌過程を推察すると、a) 発癌刺激に暴露された健常細胞が、b) 遺伝子(特にCYCLIN D) 増幅と過剰発現をきたし腫傷を形成。さらにc) 癌抑制遺伝子の変異や欠失、あるいはエピゲノム変異により癌化すると考えられている。2)新しいアプローチによる食道(発癌・癌進展)機構の解析:一般に癌は遺伝的要因(遺伝子多型)を背景に環境要因に暴露された粘膜上皮局所においてゲノムレベルおよびエピゲノムレベルの変異が原因で発症すると考えられることから、われわれは統合的・包括的に解析を行った。(1)ゲノムワイド関連遺伝子多型による発癌ハイリスク者の同定.われわれは食道痛患者1071名、また2762名のコントロールからの網羅的遺伝子多型解析、生活習慣アンケート解析を行った。その結果4q23と12q24.1l-13の2カ所が患者およびコントロールで著しい差を認めた。同部位にはADH1 B, ALDH 2遺伝子が含まれていた。また、飲酒と喫煙は危険因子であり。4因子を統合解析すると、危険因子が1個以下の場合と全て有する場合では危険度が360倍上昇した。血液検査とアンケートでスクリーニングすべき患者の選定が可能になった。(2)食道癌予後予測因子となる遺伝子およびゲノムDNA 領域の同定:予後予測因子を求める上でDNA変異とともに発現変異をきたす領域・遺伝子の検出は、安定した結果が期待され臨床的にも有用である。われわれは75例の食道癌原発巣よりLMDにて癌細胞を採取しaCGHおよびマイクロアレイを実施した。ゲノム変異(増幅・欠失)と有意に相関する発現(増加・減少)を示し独立予後予測因子となる遺伝子群を同定した。(3)真の食道発癌を規定する「ドライバー変異」の同定:われわれは食道扁平上皮癌11例の次世代シークエンサーによる食道癌細胞の全エキソン領域に存在する遺伝子変異の解析を行っている。平均154.5個/症例の遺伝子変異を同定したが、cDNAマイクロアレイおよびaCGHの結果を統合しドライバー変異を伴う遺伝子を探索している。また、同法を用いて17q25の家族性食道癌において高頻度にアリル変異を認める領域より、癌特異的な突然遺伝子を同定した。以上のアプローチは食道癌の診断、治療、あるいは発癌予防に有用な成果をもたらすと考えており、鋭意、進行中である。

教育講演5
胆膵:内視鏡的治療
藤田直孝(仙台市医療センター仙台オープン病院・消化器内科)
胆膵内視鏡治療は、外科手術と比較しより低侵襲性で、適切な症例の選択で術後のQOLも含め同等もしくはそれ以上の効果が期待できる。近年では、従来のERCP関連手技に加え、EUSを用いたさまざまな治療手技が開発、報告されている。本稿ではこの領域における最近の話題を紹介する。1.ERCP関連手技1. Large balloonを用いた乳頭拡張術(EPLBD) 巨大胆管結石の治療法として、近年報告が増加している。従来の内視鏡的十二指腸乳頭バルーン拡張術(EPBD) は8mm径までの拡張バルーンを用いて乳頭の拡張を行ない結石を摘出していたが、本法では12-20mm径の大型の拡張用バルーンカテーテルを用いて乳頭を拡張する。これにより、巨大結石でも容易に結石の摘出が可能になる。内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)と組み合わせて行なうとする報告が多いが、直接EPLBDを行なうとする報告もみられる。偶発症として、膵炎、出血、十二指腸穿孔、胆管穿孔などがある。膵炎はEPBDよりも少ないとされ、結石摘出の際の乳頭への負荷が少ないことがその理由として考えられている。2. Direct cholangioscopyを用いた治療 細径の内視鏡の開発、新しいシステムの胆道鏡の開発により、胆管内視鏡下の治療に関して展開がみられる。前者では経鼻内視鏡に用いられるような5mm程度の細径内視鏡をEST後の乳頭から直接胆道内に挿入し、結石の破砕、摘出を行なう。後者はカテーテル式内視鏡の構造で、10Fの外径で光学ファイバー用チャンネル、処置具用チャンネル(l.2mm径)、2つの灌流用チャンネルを備えており、乳頭から挿入し処置を行なう。single useで高価なのが難点である。3. 経乳頭的胆嚢ドレナージ術 抗血栓薬服用患者の増加もあって、経乳頭的胆嚢ドレナージ術が急性胆嚢炎の治療法として注目されてきている。ERCPの要領で胆管カニュレーションを行ない、胆嚢管を探りガイドワイヤー誘導下に経鼻ドレナージカテーテルを留置する。Intention-to-treatでの解析でも80%を超える成功率が報告されている。本手技に特異的な偶発症として胆嚢管穿孔がある。II.EUS関連手技1. EUSガイド下胆道ドレナージ術 EUSガイド下に肝内もしくは肝外胆管を穿し、穿刺ルートにまたは穿刺ルートを利用してステントを留置する方法である。経乳頭的アプローチ困難例を対象に施行されている。消化管胆道吻合術、順行性埋め込み術、Rendezvous法が可能である。十二指腸狭窄にも影響されず施行可能である。技術的にも成熟してきており、専用の処置具の開発に伴い広く普及することは疑問の余地がない。2. EUSガイド下膵仮性嚢胞ドレナージ術、necrosectomyEUSガイド下膵仮性嚢胞ドレナージ術自体の歴史は古い。近年のトピックはドレナージのみでは治癒困難な例に対するnecrosectomyである。いわゆるNOTES (normal orifice translumenal endoscopic surgery) に分類される手技で、消化管に造設した痩孔を介し消化管外の嚢胞内の壊死組織を摘出、洗浄し、患者を感染から離脱させる。3. EUSガイド下局注療法 EUSガイド下に薬液を局注することにより、治療効果を得ることができる。膵癌患者の腹背部痛に対する腹腔神経叢破壊術が実用レベルに達している。EUSガイド下にエタノールを腹腔神経叢、神経節に注入することにより、症状を緩和することが可能である。胆膵の内視鏡的治療は、内視鏡、処置具の開発により現在も手技の改良、新手技の創出が活発に進められている。今後もさらなる展開が期待される。

教育講演6
肝臓:C型肝炎
竹原徹郎(大阪大大学院・消化器内科学)
C型肝炎の抗ウイルス治療は1992年のインターフェロン(IFN) 治療にはじまり、2004年にペグインターフェロン(PEG-IFN) /リバビリン(RBV) 併用治療が標準治療として導入されるに至り格段の進歩を遂げた。2011年よりはじめてのHCV特異的抗ウイルス剤(DAA製剤:Direct-ActingAntivirals) であるテラプレビル(TVR) が臨床の場に登場した。国内の臨床開発第3相試験では、日本人の1型高ウイルス量初回治療例を対象に、TVR12週投与+PEG-IFN/RBV24週投与群とPEG-IFN/RBV 48週投与群の2群の無作為化比較試験が行われ、最終的なウイルス排除(SVR)率は試験群73%、対照群49%であり、より短い治療期間で、より高いSVR率を達成し、今回の承認に繋がった。一方、前治療歴(PEG-IFN/RBVが中心であるが、IFN/RBVあるいはIFNも含まれている)のある患者に対しても試験群の投与が行われており、前治療再燃例に対するSVR率は88%と極めて良好であったが、前治療無効例に対するそれは34%にとどまることが示された。前治療無効例では治療中あるいは治療終了後に高率にTVR耐性ウイルスが出現しており、本治療の適応を考える上で十分な注意が必要であることを示している。また、TVR/PEG-IFN/RBV治療はPEG-IFN/RBV 治療に伴う副作用とともに、皮疹や貧血などの副作用がより重症化することがある。そのために、本治療にあたっては、肝臓専門医と皮膚科専門医が密接に連携して診療にあたることが求められている。市販後ではこれらの副作用に加えて、嘔吐などの消化器症状、腎機能障害、高尿酸血症なども出現することが明らかになっている。PEG-IFN/RBVをプラットフォームとしてDAA製剤を加える治療については、TVR以外の新たな薬剤を用いて多くの臨床開発が行われている。NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤については、より少ない副作用で、より高い治療効果を求めてTMC435、MK-7009などの第2世代のプロテアーゼ阻害剤あるいはポリメラーゼ阻害剤の開発試験が行われている。また、まったく別個の作用機序をもつNS5A阻害剤の開発も行われており、米国ではプロテアーゼ阻害剤を含めた4剤治療の開発も推進されている。しかし、このような治療法の開発はいずれもPEG-IFN/RBVを使用することから、PEG-IFN/RBV非適応例には使用できない。また、PEG-IFN/RBV無効例に対しては、治療効果が限定的になる可能性がある。このような背景から、HIVに対するカクテル治療のように、複数のDAA製剤を使用するIFNフリーの治療法の開発が望まれている。実際、プロテアーゼ阻害剤とNS5A阻害剤の経口2剤の服用が日本の1b型患者には有効であること、ポリメラーゼ阻害剤とRBVの服用が2型患者に有効であることが示されており、今後の臨床開発に期待が持たれている。

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(11/10/22土曜分)
福岡で開催される【JDDW 2011-Fukuoka】と 【教育講演】の学会出張に出かけた。
午後には、福岡国際会議場でJDDWの参加登録(消化器病学会=23単位・消化器内視鏡学会=25単位)の受付を行う(=15,000円)。
JDDW 2011参加証明書pdf書類
(財)日本消化器病学会専門医更新単位登録票 第53回大会(JDDW)[23単位]pdf書類
14:00から4F第8会場で「第11回医療研修会(JDDW)-日本の医療力を高める」を聴講。
司会は日本消化器関連学会機構・理事長の跡見裕先生と日本消化器病学会・理事長の菅野健太郎先生が務めた。
1 医療イノベーションへ向けた戦略的施策
(東京大医科学研究所)中村祐輔先生
2 わが国の医療力を高めるための医学界からの提言
(国際医療福祉大・大学院長)金澤一郎先生
3 医療とサービス科学
(科学技術振興機構・研究開発戦略センター)吉川弘之先生
4 世界の医療機器産業の動向とわが国の医療機器の開発戦略-画像診断関連を中心として-
(東芝メディカルシステムズ株式会社・相談役)小松研一先生
5 日本の医療力を高める:わが国製薬産業の成すこと
(エーザイ株式会社・代表執行役社長)内藤晴夫先生
と、滔々たる先生方の講演であった。このようなメンバーは、お金を積んでもなかなか一同に会せぬ先生方であるとの司会の先生の話であった。
JDDW2011医療研修会 参加証pdf書類


(11/10/23日曜分)
福岡で、朝9時から午後4時30分まで教育講演を聴講した。
教育講演は、「消化器画像診断の進歩」である。(教育講演抄録集pdf書類

教育講演 9:00-9:50
 
演者 大垣市民病院・消化器内科
 熊田 卓 先生
司会 千葉大大学院・腫瘍内科学
 横須賀 收 先生
抄録
肝臓における最近の画像診断の進歩は著しい。中でも2008年2月から使用可能となったgadolinium-ethoxybenzyl-diethylenetriamine pentaacetic acid (プリモピスト)造影MRI(EOB-MRI)は従来の肝細胞がん(HCC)診断における基本的な概念を急速に変えつつあることは周知の事実である。
本教育講演では、 HCCを含めた肝細胞性結節の画像診断で、本邦で盛んに研究されてきて世界をリードしている血流画像および最近出現してきた肝特異性画像(EOB-MRIperfluorocarbon microbublle[ソナゾイド]造影超音波[CEUS])について述べる。
肝細胞性結節の質的診断には(1)動脈血流の評価、(2)門脈血流の評価、(3)肝細胞機能の評価、(4)Kupffer細胞の評価等が必要である。動脈血流の評価が重要な多血性肝細胞結節の代表的なものがHCCであり、鑑別すべき結節として限局性結節性過形成(FNH)、肝細胞腺腫、肝血管腫、結節ではないが動脈門脈シャント、偽結節などが知られている。
CTHA(CT during hepatic arteriography)が最も鋭敏で、dynamic MRI、CEUS血管相、MDCT (mutidetector-row CT)がこれに次ぐ。多血性HCCの診断にはCTHA第2相(後期相:造影剤注入後)のコロナ状濃染およびCT、MRI、CEUSの門脈相もしくは平行相でのwashoutが特異的所見となる。HCCが多血性腫瘍に移行することは多段階発がんに伴う結節内血管新生と血行動態・血行支配の変化を意味しておりあく性度の高い所見と判断され重要である。
門脈血流の評価はCTAP (CT during hepatic portography)による。古典的HCCの診断には極めて感度が高く、末梢の門脈浸潤の診断にも有用であるが侵襲的であり繰り返しの検査は困難である。
結節の肝細胞機能の評価にはEOBが優れている。EOBは肝細胞の類洞側にあるトランスポーター(OATP1B3)を介して肝細胞に特異的に取り込まれ、dysplastic nodule、早期HCC、高中分
化型HCCに至る過程でOATP1B3活性が低下・消失し信号低下を認める。画像における排出系トランスポーターの役割は低いと推定されている。乏血性肝細胞性結節の拾い上げには最も鋭敏で、今やEOB-MRIの肝細胞造影相が肝細胞相性結節の検出のための基本画像と考えられる。しかし5〜10%の多血性の高中分化型HCCで肝細胞造影相で信号低下の認められない結節もあり注意が必要である。また早期肝細胞がんで信号低下を認めない結節も報告されている。EOB-MRIで発見された之血性肝細胞性結節の経過(多血化、サイズの増大)は数多く報告され、大きな結節、サイズアップの認められる結節でのあく性転化率が多いとされている。一方、これらの結節を生検するとほとんどの結節でHCCであったという報告もある。
Kupffer細胞はHCCが脱分化する過程で減少あるいは消失する。Kupffer画像としてCEUS後血管相が用いられ、Kupffer細胞の減少に伴いエコー輝度は低下し悪性度の高い病変の検出に有用である。
最期に、これらの画像を駆使してHCCを早期に診断し治療することが予後の改善に繋がるという科学的な根拠はまだ得られてはいない。常に併存する肝疾患の予後とHCC治療時に非腫傷部の肝臓に与える影響を考慮して治療開始時期・治療法を決めることが重要である。

教育講演 9:50-10:40
 胆・膵
演者 帝京大ちば総合医療センター・外科
 安田 秀喜 先生
司会 埼玉医大・消化器内科・肝臓内科
 名越 澄子 先生
抄録
近年, X線CT検査機器の発展はめざましく,特にMDCT(multidetector-rowcomputed tomography)は,体軸方向に複数のX線検出器列を配置しX線管球が1回転する間に複数の画像情報を得ることができるCT装置である。このMDCTは短時間に広い範囲で高分解能の画像処理が可能となったことから,消化器画像診断における中心的な役割を果たすようになってきた。ここでは,胆・膵領域におけるMDCTによる画像診断の現況について述べる。
胆・膵領域では,胆管膵管直接造影による病変の局在診断や進展度診断さらに血管造影による脈管浸潤診断に代わって, MDCTのthin slice画像による診断が取りいれられるようになってきた。すなわち動脈相,門脈相を含んだ3phase MDCTや胆管・膵管造影を組み合わせたMDCTとMPR(multiplanar reformation),MIP (maximum intensity projection),MinIP (minimum intensity projection),VR (volume rendering)などの画像処理により複雑な立体構造を捉える事が可能となり,1) 進行度診断(局在診断,進展度診断,リンパ節転移診断,遠隔転移診断),2) 局所解剖の把握,3) 術前シュミレーションが一度に行えるようになってきた。アーチファクトなどにより診断能が低下するため,MDCT撮影は胆道ドレナージや膵管ドレナージの前に行うことが重要である。MPRでは撮像後に任意の断面で画像を再構築することが可能であるために,脈管浸潤や他臓器浸潤の有無を判定するのに有用である。また,VRによる立体構築では胆管や動静脈門脈などの分枝形態の把握や相互の位置関係を上下左右あらゆる角度から観察可能であるため,術前シュミレーションにも有用である。DICや胆管・膵管チュープからの造影を併用したMDCTにより管腔内陰欠損の描出や仮想膵管・胆管内視鏡も可能である。胆石や膵石の局在診断や嚢胞性病変内の結節成分の描出にも有用である。いわゆる陰性造影剤であるCO2による胆道・膵管造影は空気塞栓の危険性が少なく安全に施行可能であるが,仮想内視鏡では病的所見かartifactかの判定が困難なことも多い。また粘液産生性の病変では検査前に十分な洗浄を行っておくことが臨床的に重要である。しかしながら,いまだに転移リンパ節診断能に関しては十分とは言えず,胆管がんの表層進展に関しては過小評価もしくは評価困難である事も多い。更に,硬化性胆管炎や腫癌形成性自己免疫性膵炎などの胆管がんや膵がんとの良あく性鑑別診断に関しても未だ良好な結果は得られていない。


教育講演 10:40-11:30
 術前・術中ナビゲーション
演者 神戸大大学院・肝胆膵外科学
 具 英成 先生
司会 福井大・1外科
 山口 明夫 先生
抄録
医療用ナビゲーションは,対象臓器の位置,血管などの内部構造と診断・治療器具の定位を目的とした診療支援システムを指し,近年様々な領域で導入されている。特に臓器組織の定位が比較的容易な脳神経や整形外科領域では,既に手術用ナビゲーションユニットとして市販化され汎用されている。
消化器外科領域では,近年,胸・腹腔鏡手術の普及,手術支援ロボットや単孔式内視鏡手術といった次世代低侵襲手術の登によって,安全性に加えて確実性,精密性が要求されるようになり,手術ナビゲーションの必要性が高まっている。本講演では既に実用化されている諸種のナビゲーションシステムを紹介するとともに,今後の展開について述べる。
これまでに実用化された手術ナビゲーションでは,術前・術中の画像情報を下に構築するナビゲーションシステムが中心となっいる。その画像情報はCT,MRI ,PET,SPECT,超音波検査など対象臓器によって多岐にわたるが,多くは汎用性が高い医療用画像として国際標準規格であるDICOM画像が用いられている。
具体的に述べると,CTやMRIなどの画像情報をもとにまず多断面再構成(MPR: multi-planar reconstruction)や最大値投影(MIP:maximum intensity projection)などを用いた2D再構築像を作成する。さらに3D再構築としてvolum rendering,仮想内視鏡像(virtual endoscopic imaging)などを作成すれば術前シミュレーションや術中ナピゲーションに応用できる画像情報となる。
胃や大腸の消化管手術ナビゲーションにおいては, MDCTで得られた仮想内視鏡像を血管画像やPET-CT画像と融合させ,腫療とリンパ節の局在や浸潤範囲,動静脈などとの空間的位置関係を3D画像にてあらゆる角度から表示することが可能になっている。触覚に乏しい腹腔鏡子術や触覚のないロボット手術では,このような画像ナビゲーションが安全性の向上に特に有用である。さらに光学式や磁場式の3D計測装置を用いて臓器の位置情報を解析し,腹腔鏡画像に尿管像やセンチネルリンパ節などを重ね合わせる新技術も開発されており,リアルタイムな術中ナビゲーションが可能になっている。
肝臓外科領域においては, 3D-CTシミュレーションソフトの使用がすでに一般化しており,画像支援ナビゲーションとして先進医療として承認されている。このシステムは肝実質と脈管を3D構築し,門脈域と肝静脈還流域を総合した機能的肝容積を計算することが可能であり,肝がん患者のみならず肝移植ドナーにおける手術の安全性や精度の向上に寄与している。一方,2D超音波画像は主に術中ナビゲーションに利用されてきたが,最近では3D画像も構築可能となり,肝切離時の血管解剖の把握に応用が期待される。
胆道外科領域では,がんの水平・垂直方向の胆管進展が術式決定に重要である。最近は胆道造影下CTやMRCPの胆管像と門脈や肝動脈画像を融合した3D構築により,腫瘍の局在および脈管との関係が詳しく評価可能になっている。また,造影剤の代わりに二酸化炭素を注入する仮想胆道造影も試みられている。
最後に我々が取り組んでいる最先端手術ナビゲーションとして,3D臓器モデルを紹介する。これは画像デジタル情報をもとに3Dプリンターにて臓器を多色・多素材で立体造形する新技術である。術前,術中のシミュレーション&ナビゲーションに手軽に利用でき,教育用素材として大いに期待できる。
以上,消化器外科領域における手術ナビゲーションは,まだまだ発展途上であるが,今後,画像解析や位置情報などの技術革新によって精度や利便性が向上すれば有用性はますます高まると考える。


教育講演 14:00-14:50
 上部消化管
演者 東京大附属病院・光学医療診療部
 藤城 光弘 先生
司会 済生会川口総合病院
 原澤 茂 先生
抄録
上部消化管における内視鏡診断は,通常白色光観察に引き続き,食道におけるルゴール染色法,胃におけるインジゴカルミンコントラスト法を中心に色素内視鏡を行い,それで分からないものは生検して診断するしかない,という時代が長らく続いた。しかし,近年における,拡大内視鏡観察法の上部消化管分野への応用と新たな画像強調観察法の出現により,極めて精度の高い術前診断が可能となっている。
特にその有用性が証明されているのが,光デジタル法に分類される狭帯域光法(Narrow Band Imaging:NBI)である。NBIは,専用の光学フィルタを利用して,ヘモグロビンの吸収特性を持つ415nmと540nmの狭帯域光を照射することで,ヘモグロビンを含む血管では低信号となり,血管を強調することができる。咽頭・食道領域では,茶褐色領域(Brownish area) の拾い上げとその内部に上皮乳頭内ループ状毛細血管(Intraepithelial Papillary Capillary Loop:IPCL)の異型・増生を観察することで,腫瘍・非腫瘍の鑑別,腫瘍の深達度診断が高い精度で可能となっている。広い管腔臓器である胃においては, NBIの光量不足により病変の拾い上げには限界があるものの,拡大内視鏡観察と併用することで,白色光や色素法により拾い上げられた病変の,腫瘍・非腫瘍の鑑別,腫瘍における範囲診断,組織型予測などが可能である。その際,粘膜微小血管もしくは粘膜表面微細構造の不整とその領域性を示す境界線の有無が,非常に重要な所見である。
デジタル・コントラスト法である, Flexible Spectral Imaging Color Enhancement (FICE), i-scanのTone Enhancement (TE) は, NBIと対比して議論されることが多いがNBIとは全く異なる技術である。これらは,白色光で得られた画像情報をコンビューター処理により疑似カラー表示することで病変の拾い上げや質的診断を高める技術であり,前者はWeiner推定により得られる個々の波長における分光画像のうち,3波長画像を抜き出してモニター上のRGBに出力するものであり,後者はRGBに分解した3成分のトーンカーブを変更した後に再構成するものである。FICEについては,食道癌の拾い上げ,質的診断の有用性を示す報告,胃がんの範囲診断における有用性を示す報告がみられるが,i-scanに関しては,拡大内視鏡が未発売の段階であり,一部の施設でプロトタイプを用いた検討がなされているのみである。未だ,デジタル・コントラスト法はNBIに比べ十分なデータの蓄積が見られていないが, NBIより明るい画像が得られることから,胃腫瘍の拾い上げ診断に有用である可能性が高く,今後の研究成果が期待される。さらにプロトタイプを用いた研究段階ではあるが,一部の施設では,細胞レベルの観察が可能な超拡大内視鏡も食道を中心に検討されており,日常診療で生検診断の代替として内視鏡的組織診断を行う時代がそう遠くない未来に到来するであろう。


教育講演 14:50-15:40
 小腸
演者 日本医大・消化器内科
 坂本 長逸 先生
司会 東京医歯大・消化器内科
 渡辺 守 先生
抄録
代表的小腸疾患はクローン病であり,今日の分子標的薬の進歩によりクローン病の治療は大きく変化を遂げつつある。さらに,小腸の診断学と治療法に画期的変化をもたらし,クローン病の診断と治療にも影響を与えつつある領域が小腸の内視鏡を用いた診断と治療の進歩である。2007年から本邦の保険診療で利用可能となったカプセル内視鏡(CE)と本邦で開発されたダブルバルーン内視鏡(DBE)により,小腸疾患の診断と治療は飛躍的に進歩した。これら機器の登場により,診断や治療が困難であった原因不明消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding,OGIB)の診療が大きく進歩し,小腸腫瘍に対する内視鏡手術や,クローン病による小腸狭窄の内視鏡治療も行われる時代となった。今回の教育講演ではおもに後者の内視鏡を用いた小腸疾患診断と治療の進歩について紹介する。
OGIBは明らかに消化管出血があり貧血を認めるにもかかわらず上部消化管,下部消化管内視鏡検査によっても診断できない一連の消化管出血であり,全消化管出血の約5%に相当する。今日ではCE,DBE検査により様々な小腸疾患がOGIBの原因となることが明らかにされた。本邦の報告ではOGIB原因疾患として小腸潰瘍病変が最も多く,ついでangioectasiaなどの血管病変,さらに,悪性リンパ腫や消化管間葉性腫瘍(gastrointestinal stromal tumor,GIST)が多い。OGIBを呈する患者を速やかにCEもしくはDBEで原因検索できた場合,診断率は90%を超えると報告されているが,出血後時間が経過したOGIBの診断率は50%前後とされている。潰瘍病変ではクローン病と非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)起因性小腸潰瘍が多く, NSAID起因性小腸潰瘍は診断が特定できたOGIBの約10%前後とされている。その他の小腸潰瘍として単純潰瘍,腸結核,腸管ベーチェットがあるが,病理学的に非特異的炎症像を認めても診断を特定することができない小腸潰瘍も多数見いだされており,さらなる診断学の確立が望まれる。健常成人55名のNSAID2週間服用後のCEによる私たちの検討では,NSAID服用者は械毛欠損,びらん,潰瘍など少なくとも一つ以上の病変を有する割合が約60%前後にも上り,小腸潰療が約15%に発症する。NSAIDによって形成された械毛欠損は主に空腸に存在し,小腸びらんは全小腸で観察されるが,小腸潰瘍は回腸のみに観察された。
血管病変はangioectasiaなど,微小病変が多く出血で発症しCEやDBEで見いだされるが,出血後時間が経過すると内視鏡検査で発見が困難となる場合がある。欧米ではOGIBの原因疾患として小腸潰瘍よりも多いとする報告が多い。小腸腫瘍については,本邦のDBEを用いた多施設データによると,悪性リンパ腫が最も多く,ついでGIST,小腸がんが多い。欧米ではカルチノイドが多いとされているが,本邦では比較的少ない。
小腸内視鏡診断学はCE,DBEによって進歩したが,治療はDBEが必須である。また,腫瘍診断学もDBEによる組織生検が必須である。OGIBで発症し,血管病変,潰瘍病変,腫瘍と診断されたどんな病変であれ,出血している病変の止血はDBEによってなされる。今日ではDBE以外にシングルバルーン内視鏡も開発されておりこれらバルーン内視鏡なしに深部小腸の止血は困難である。
このように,本教育講演では小腸内視鏡診断と治療の到達点を概説する予定である。


教育講演 15:40-16:30
 大腸
演者 広島大・内視鏡診療科
 田中 信治 先生
司会 東北大大学院・生体調節外科学
 佐々木 巖 先生
抄録
ファイバースコープ,通常電子内視鏡の時代を経て,大腸に拡大内視鏡観察が臨床導入されたのは,工藤らによるpit pattern診断学の確立や生体内での実際の診断に耐えうる拡大電子内視鏡の開発が大きな原動力であるが,今やこの拡大内視鏡は本邦のみならず世界的に広く普及しつつある。そして,EndosoctoscopyやEndomicroscopy(confocal)などの顕微内視鏡観察も生体内での臨床研究段階に入っている。本稿では,拡大内視鏡観察を中心に内視鏡画像診断学の進歩と今後の展望について述べるが,特に,最近脚光を浴びてきた画像強調内視鏡観察(IEE: Image-Enhanced Endoscopy) について, NBI (Narrow band imaging) を中心に解説する。
(1)大腸腫瘍のスクリーニング
NBIの大腸腫瘍のスクリーニングでの有用性については世界的に多くの相反する報告が存在しcontroversialな状況にあった。昨年末,本邦での多施設共同RCTの結果が公開されたが,白色光とNBI観察にスクリーニング上差はないという結論であった。
(2) 腫瘍・非腫瘍の鑑別
正常粘膜や過形成病変では表層部の微小血管は非常に細く疎なため,現在の波長設定のNBI観察では微小血管を認識することは通常困難であるが,腫瘍性病変では血管径が太くなり密度も増すので,その表層部に茶褐色に強調された微小血管を認識出来るようになる。このことに関しては,世界的なコンセンサスが得られている。
(3) 上皮性腫瘍性病変の質的診断
腺腫性病変のNBI拡大観察では,pit間の介在粘膜は表層部の微小血管が茶褐色に強調され網目状の血管模様(capillary network)が認識されるが,血管のないpit様部分は白く抜けて観察される。これにNBIの構造強調観察能が加わることより,間接的なpit様構造の診断も可能となる。がんでは,がん細胞の浸潤増殖,炎症細胞浸潤や間質反応に伴う血管径の不均一性や血管走行の不整,分布の乱れ,前述のpit様構造や窩間粘膜の破壊などが出現してくる。この病態を理解すると,NBI観察を用いた微小血管の視認性の有無や,血管の太さ/分布の不均一性, pit構造の有無や不整度を解析することで大腸病変における腫瘍/非腫瘍,腺腫/がんの鑑別が可能になる。
(4) NBI拡大観察によるSurface pattern評価の有用性
腺管構造を持たない咽喉頭・食道の扁平上皮領域では, Vascular patternのみの評価による診断学がすでに確立しているが, Barrett食道・胃などの円柱上皮領域では,拡大観察によるVascular patternの評価に加えてSurface patternの評価を加味することが重要であるが,大腸でも同様である。本邦ではこれまで,大腸表面微細模様に対して「pit様構造」,「white zone」,「表面微細構造(MS pattern)」などさまざまな呼称があったが,昨年,「Surface pattern」という呼称で統一された。このSurface patternは,真のpitと腺窩辺縁上皮を併せた構造で,大腸NBI拡大観察において非常に重要な所見である。
今後は,Surface patternを考慮したNBI拡大観察と色素を用いた従来のpit pattern診断の使い分けが重要な課題であり,本講演では,特にその点を中心にお話ししたい。


と、「消化器画像診断の進歩」と謳っているように、参加により得られた知識は、明日からの当院の診療に、すぐにでも反映できる貴重なup to dateの知識です。まだ、各学会誌に発表される前段階の、成書となるのは1・2年後にもなるという新発表が、この場で聴けました。
JDDW 2011教育講演 参加証pdf書類
(財)日本消化器病学会専門医更新単位登録票 JDDW教育講演[8単位]pdf書類
12:30〜13:40のランチョンセミナーでは、福岡サンバレスパレスルーム(第3会場)で、オリンパスメディカルシステムズ株式会社スポンサードの「内視鏡の歴史を振り返って」という渋めの演題を聴講しました。司会は福岡大・名誉教授の八尾恒良先生、演者は日本消化器内視鏡学会名誉理事長・最高顧問の丹羽寛文先生で、「何事もプライオリティーを大切にすべし」とのことを強調される講演でした。パワーポイントで豊富な歴史的実例を供覧されて、いくたの有名な発見・発明の前には真のプライオリティー者が存在することが、歴史を厳密に振り返ると確認されることが多いとのことで、科学界においてさえ無視されていることが多いとの批判をされていました。ぶっちゃけ、オリンパスのNBI拡大内視鏡の技術開発で、オリンパスの技術者国の賞を受けたそうですが、開発に携わり、開発に一番貢献した医学者の方は賞を受けていないことには、何度も国に対するお叱りの言葉を繰り返されました。NHKのプロジェクトXも、史実をネジまげた脚本意図・演出が殆どで、胃カメラの開発ドキュメンタリーでは事実誤認が甚だしく、NHKに消化器内視鏡学会として訂正の抗議を何度も申し入れたが、そのたび一蹴されたそうです。いろいろと各界の賢明な方から問題を指摘されていたプロジェクトXは、うやむやに放送企画が中止となりました。しかし、NHKアーカイブスには、当時の放映物が残っており、良心的な削除は行われていないようです。
オリンパスメディカルシステムズ株式会社提供の「ランチョンセミナー弁当のお品書きpdf書類

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(10/10/15金曜分)
診察受付は、通常金曜日の午前の12時30分までにして、午後は休診。11月からのAPECに備えた警備厳重な横浜市みなとみらいで開かれているJDDW 2010-YOKOHAMA(第18回 日本消化器関連学会週間)(外部リンク)に向けて、白石蔵王駅から14時59分の東北新幹線MAXやまびこ2階で出発した。横浜の会場(国立大ホール)隣のホテル「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」の部屋には18時02分に到着。

(10/10/16土曜分)
ホテルに隣接しているパシフィコ横浜国立大ホールで開催されているJDDWにて、朝9時から夕方5時まで、お勉強。今回は、JDDW2010学会(第52回日本消化器病学会大会:会長=林紀夫先生・第80回日本消化器内視鏡学会総会:会長=一瀬雅夫先生・第48回日本消化器がん検診学会大会:会長=樋渡信夫先生・第41回日本消化吸収学会総会:会長=宮坂京子先生)参加と、教育講演(外部リンク)受講が目的だ。
8時30分に参加費15000円で受付にて参加登録。コングレスバックとネームカードもらって、所属・氏名を記入。別の受付で、ネームカード下部についている引換券と「第52回大会 日本消化器病学会専門医更新単位登録票(23単位)」と引き換え。登録票に必要事項を記入後、また別の受付(登録票回収所)で登録を完了する。教育講演では、それぞれ午前・午後の部の受講終了後に配布される「教育講演参加証」(午前:No.1563・午後:No.2957)を登録票引換所で「JDDW教育講演 日本消化器病学会専門医更新単位登録票(8単位)」と引き換え、登録票に必要事項を記入後、また朝とは別の受付(登録票回収所)で登録を完了する。なかなか複雑な手順ではあるが、消化器病学会が登録票で各個人の取得単位データを管理してくれるので、専門医更新時に合計取得単位数を申告する必要がなくなる優れ物の良いシステムなのだ。このシステムは内科学会でも採用している。

教育講演(JDDW)『消化器がん治療戦略海外との比較も含めて−』<第28回日本医学会総会共催>9:00〜16:30
各教育講演の下の小文字は、各教育講演の抄録です。

教育講演=食道がん(司会:原澤茂先生・講師:虎の門病院・消化器外科 宇田川晴司先生=昭和54年東京大学卒)
欧米と日本の食道がん治療戦略には、かつてほどではないが依然大きな違いがある。
米国National Comprehensive Cancer Network (NCCN)の2009年版食道がん診療ガイドラインをみる と、以下のような点に気づく。
Tis,T 1 aにEMRが取り入れられている。この分野での日本の実績は注目されているが、対象となる腫瘍は欧米では非常に少ない。
T 1 b〜locoregionalな段階の腫瘍にはすべての選択肢が用意されており、一見日本食道学会のガイドライ ンと大差はないが、読み込んでゆくと日本との違いが際立ってくる。日本では、現在JCOG9907の結果を受けてStageI,II,non-T4には術前化療(NAC)が標準治療とされている。術前化学放射線療法(NACRT)は一般的でない。根治的化学放射線療法(DCRT)は数年前までかなり大きな期待を集めてきたが、成績の集積とともに手術の困難な患者、手術を望まない患者に対する最も妥当なalternativeという位置に落ち着いた。NCCNのガイドラインでは術前化療は食道胃接合部腺がんで控えめに勧められているに過ぎず、最も推奨され ているのはNACRTまたはDCRTであり、照射量はともに50.4Gyである。また、術後のCRTも広く推奨さ れている。
この様な違いの背景に、欧米と日本の手術に対する基本的なconceptの違いが存在する。NCCRのガイドラ インでは、非開胸経裂孔的食道切除術が依然選択肢のーつとされている。手術おけるリンパ節郭清の必要性は述べられているが、「15個以上の郭清」が要求され、その目的は「正確なstaging」である。これらの記述は日本の外科医に強い違和感を与える。欧米でlocoregionalというとき、その示す範囲は日本のそれより明らかに狭い範囲であり、それを超えての郭清の意義を認めていない。この事実と、欧米より日本で全身化学療法の手術療法に対する上乗せ効果が認められたこと、欧米の報告で扁平上皮がんよりも腺がんでNACRTの効果が明瞭であったことなどを対比させると、「全身化学療法が効果を現わすためには、locoregionalなコントロールが 充分に行われることが前提条件として必要であり日本的な手術がそれをある程度実現していると言えるのではないか」「郭清不十分な領域のコントロールをCRTで行おうと考えるとき、占居部位がより低めで上縦隔転移の確率の低い腺がんの方がそれが容易なのではないか」といった推論が生まれてくる。そして何よりも注目すべきは、欧米からの報告のどの成績よりも、手術療法を中心に据えた日本の治療成績の方が明らかに良好であ るという事実である。
日本と欧米の食道がんには、かたや肩平上皮がんがほとんど、かたや腺がんが半分以上と言った違いがある。腺がんの中にきわめて早い血行転移を示すものがあり、化療や照射の効果からみても腺がんの方がコントロールの難しいがん腫かもじれない。また、日本の医師による詳細な術前stagingは、stage migrationの原因となっているかもしれない。「体型的に、欧米の患者に日本的な手術は安全に施行できない」といった主張にも一理はある。一方、CRTに対して日本の外科医が抱いている合併症増加の懸念は、照射方法の改良等によって大きく変更すべきものなのかもしれない。この様な様々な要因を考慮しつつも、日本の食道がん治療医はわれわれの持つ良好な治療成績に誇りを持つべきであるし、その要因を解析し、欧米に受け入れ可能な形で発信する義務がある。

教育講演2=胃がん(司会:渡辺守先生・講師:がん研有明病院・消化器センター 佐野武先生=昭和55年東京大学卒)
日本と韓国の胃がん治療成績を欧米と比較すると、同じ病気を比べているとは思えないほどの大きな差がある。われわれにとって胃がんは早期に発見できて治癒可能なあく性腫療であるが、欧米では予後不良の難治がんと認識されている。全症例の生存率に大きな差があるのは、日韓に早期胃がんが多いことが最大の要因ではあるが、 進行がんのステージごとに比較しても差は縮まらない。考えられる理由として、(a)腫瘍の生物学的あく性度の差、 (b) stage migration、(c)手術技術の差、などがあげられる。(a)に関してはこれを証明した比較研究はないが、今日の欧米の胃がんの多くが上部胃がんであり、日韓の胃がんが相変わらず中・下部に多いことを考えると、基本的な発がんメカニズムとあく性度に差がある可能性はある。(b)は、われわれの広範囲郭清と緻密な病理検索による正確なstagingにより、明らかに生じうる現象である。(c)は、腫瘍の局所制御という点で胃がんでは重要であ り、欧米の胃がんの多くで転移リンパ節を取り残し、これが局所・全身再発の原因となっているのは確かである。
胃がん治療の東西差は、c-Stage U/Vの腫瘍で最も顕著にみられる。日本では、まずD2郭清を伴う胃切除術を行い、病理学的検索を待ってからS-1の補助化学療法を行う。p-Stage Tと判明すればS-1も省略でき る。すなわち、日本の胃がんの半数が早期がんであることも加味すると、われわれが治療する胃がんの大半は手術のみ、あるいは手術+S-1で治療が完了することになる。一方、欧米では多くの胃がんが進行した状態で発見されるので治療の主体は化学療法であり、手術に対する期待は大きくない。c-Stage U/Vで切除可能と診断された場合はあらゆる集学的治療が試みられるが、最近は術前治療へのシフトが顕著である。胃切除後は体力の低下が著明で化学療法のコンプライアンスが低下するため、できるだけ術前に強力な治療を行うという方針である。進行胃がんに対するセカンドライン化学療法にはエビデンスがないため、ともかく一発勝負とばかりに強力な多剤併用療法、さらに術前化学放射線療法などが試みられている。
早期胃がんの治療開発は日本の独壇場である。EMR、ESD、機能温存手術、腹腔鏡下手術などを生み出し、多くの患者がその恩恵を受けている。欧米でもEMR/ESDに対する関心は非常に高いが、われわれが対象とする厳密な意味での適応病変は少なく、せっかく発見された稀な早期胃がんが不適切な治療を受けてしまうのではないかと心配になる。逆に、日本ではESDで確実に治癒する粘膜病変が、「切除可能な稀な病変」として手術さ れてしまうこともある。
切除不能・進行再発胃がんでは当然化学療法が行われるが、日本と欧米ではレジメンに差がある。日本はS-1+ CDDPを代表とする2剤併用療法が用いられ、不応となったときには、セカンドライン、サードラインと試される。多くは外科医が化学療法を行う。これに対し、欧米では腫蕩内科医によるECF、DCFなどの3剤併用が中心で、欧州ではセカンドラインが行われない国も多い。S-lは欧米では認可されておらず、5-FU またはcapecitabineが用いられる。
以上のように、対象とする胃がんも、用いられる手段も、その方向性も、わが国と欧米とでは大きな差がある。その差は縮まるどころか、ますます広がる気配すらある。唯一、わが国が欧米から学ぶべきものは、食道胃接合部がんと下部食道腺がんの治療であろう。H.pylori 感染の推移などから、日本の胃がんのパターンは欧米のそれを数十年遅れで追いかけている可能性があり、今後増加するであろうこれらの疾患に対する対処法をしっかり見ておきたい。

教育講演=緩和医療(司会:上西紀夫先生・講師:筑波大大学院・消化器内科学 兵頭一之介先生=昭和56年岡山大学卒)
緩和医療はホスピスを中心としたがん末期ケアから発展し、現在ではがんに伴うあらゆる症状の緩和を目的とした医療を指すよう!こなった。すなわち広義には症状緩和のための手術、放射線治療、化学療法や疼痛・精神的苦痛の緩和を含めた薬物療法を緩和医療と呼ぶことができる。本教育講演では消化器がん患者に対する症状緩和を中心に概説する。
症状マネージメントは1)症状聴取、2)原因の把握、3)治療の説明と目標設定、4)治療と結果の評価を繰り返すことにある。消化器がん患者の頻度の高い苦痛にはがん性疼痛や消化管閉塞による吐気、嘔吐、腹部膨満感がある。疼痛治療の原則は経口投 与(by the mouth)、定時投与(by the clock)、段階的投与(by the ladder)、個人特性(for the individual)、細かい配慮(with attention to detail)である。治療薬はNSAID、オピオイド、鎮痛補助薬(抗けいれん薬、抗うつ薬、ステロイドなど)であるが、特に消化管閉塞を有することの多い消化器がんでは投与経路(持続皮下注や経皮 パッチ剤など)の工夫や吐気と便秘の十分な予防が大切である。消化管閉塞に伴う 症状の緩和には輸液量の減量方向への調節、抗コリン剤、ステロイド、オクトレオチドなどを使用する。死に至る経過における輸液の有効性については明確な証拠がな い。多数例の観察研究から1000ml/day以上と500ml/day以下では脱水と体液貯留(浮腫や胸腹水)傾向がトレードオフの関係にあることが示されている。食事摂取不能の患者に補液を施行する場合には500〜 1OOOml/dayが適切と考えられるが、状 態によって適宜増減する。
精神的苦痛に対する対応は精神腫瘍医のコンサルテーションが望ましいが、多くの医療施設では専門医不足のため消化器専門医が対応せざるを得ない場合が多い。初期の不安や抑うつなどの適応障害には早めに半減期の短い抗不安薬から開始し、 本格的なうつには三環系抗うつ薬や選択的セ口卜ニン再取り込み阻害薬を使用する。せん妄には推定される様々な原因の除去が重要である。
適切な予後の推定は医師と患者・家族にとって治療法と治療場所の選択に有用でありDNAR (do not attempt to resuscitate)を得るタイミングや鎮静の可能性を考慮する際にも役立つと思われる。しかし、PPI、 PaP score、JPOS-PIなどの予後予測ツールが開発され利用できるものの、正確な予測はかなり困難である。
WHOで採択されている緩和ケアの理念は1)生を尊重し、万人に訪れる「しの過程」に敬意を払う、2)しを早めることも、遅らせることも意図しない、3)いたみの管理と、同時にそれ以外の症状管理も行う、4)精神的ケアやスピリチャルケアを行う、5)しが訪れるまで患者の積極的な生を支援する、6)闘病期もし別後も家族のくのう軽減を支援することである。このような高い理念のもとに緩和医療を提供することは、なかなか容易なことではないが、消化器専門医といえども進行がん患者を診療する限りは、理想に近づけるよう努力を怠らない姿勢が必要であろう。

教育講演=大腸がん(司会:山口明夫先生・講師:北里大・外科 渡邊昌彦先生=昭和54年慶応大学卒)
近年、大腸がんの治療戦略は内視鏡、化学療法、手術法の進歩にともない様々に変化してきた。本講演では、進行大腸がんを中心に最新の治療戦略と将来を展望する。
大腸がんの補助化学療法と進行・再発に対する化学療法は、ともに5-FUを軸に進歩を遂げてきた。1990年代には5-FU持続投与とleucovorin(LV)の組み合わせが一般化され、それにirinotecanとoxaliplatinも参入してFOLFIRIとFOLOFOXが進行・再発がん治療の標準治療となった。2000年以降には抗VEGF抗体や抗EGFR抗体などの分子標的薬が導入され,さらに抗腫蕩効果の増強が図られた。一方、Stage V結腸がんの補助化学療法には経口抗癌剤のUFT/LVやcapectabinの有効性が証明され、さらにFOLOFOXの有用性も証明されて現在ではこの3者が標準治療として認められている。
肝転移に対する治療戦略も変わりつつある。切除が最も有効な治療法であることには変わりないが、切除後の補助化学療法の意義は未だに不明である。一方で切除可能な肝転移に対する術前化学療法の有効性が注目されるよう!こなった。さらに術前化学療法は肝切除率の向上をもたらし、肝転移治療における化学療法の意義が期待され ている。
直腸がん治療では直腸間膜を完全に切除するtotal mesorectal excsion(TME)が 標準術式である。加えて欧米は術前化学放射線療法が標準治療であるのに対し、我 が国は側方郭清が標準である。しかし両者はともに局所再発の制御に寄与するが、生存率の有意な向上には繋がらないと考えられている。したがって直腸がんの予後を向上させるために、放射線照射法、薬剤選択、郭清範囲など様々な角度からさらに有効な治療法が模索されている。
1990年代に腹腔鏡下手術は大揚がんにも応用されるよう!こなった。結揚がんに対する腹腔鏡下手術の低侵襲性と根治性は海外の臨床試験で証明された。本邦でも結腸がんに対して腹腔鏡下手術と開腹手術とを比較する大規模な臨床試験が終了し解析中である。一方,横行結腸がんや他臓器浸潤がん、直腸がん、Stage Wに対する腹腔鏡下手術の安全性や有効性はまだ証明されていない。
低位前方切除の普及は肛門機能の温存率向上をもたらしたが、近年はさらに温存率を高めることを目的として内括約筋を切除するintersphincteric resection (ISR)が導入された。本法の適応については議論はあるが、retrospectiveには良好と考えられている。しかし、適応拡大や根治性の向上を目指して術前化学放射線療法を加えた際の、排便機能の保持に関しては今後の検討課題である。
大腸がん治療において化学療法や放射線治療の進歩は、様々な治療戦略を可能にすると同時に新たな副作用や後遺障害を生み出した。それを受けて今後は治療感受性因子を明らかにし、治療の個別化を図らなければならない。また、手術は低侵襲性と機能温存へとますます向うが、それらの適応、手技の標準化、教育など乗り越えるべき課題も多い


教育講演=肝がん(司会:名越澄子先生・講師:近畿大・消化器内科 工藤正俊先生=昭和53年京都大学卒)
肝細胞がん診療の最新の話題としては、3つのトピックスがあげられる。
まず、診断面では超音波造影剤ソナゾイドが2007年1月に承認され、肝腫瘍の鑑別のみならず肝細胞がんのスクリーニング、ステージング、治療支援、治療効果判定、治療後のfollow-upなどにおいて極めて有用になってきたことである。これについてはソナゾイドのリアルタイム性向上による血流動態診断ならびにKupffer phaseが安定していることによりKupffer phase imaging が容易に得られるようになったことが大きい。また、安定したKuppfer phaseを利用して:re-injectionを行うDefect re-perfusion imagingにより、Bモー ドで検出不能の肝細胞がん結節の検出や治療支援が劇的に向上した。
二番目のトピックスとしては2008年1月に承認されたGd-EOB-MRIの登場である。Gd-EOB-MRIにより早期肝細胞がんと前がん病変の鑑別が極めて精度よく可能となった。
さらに最新の治療の話題としては、2009年5月20日に分子標的薬ソラフェニプが承認となったことである。ソラフェニプは腫療の増殖シグナル伝達系のRAF-MEK-ERK kinase のRFA kinase と血管新生をする VEGFレセプター、PDGFレセプターのチロシンキナーゼの両方を阻害するマルチキナーゼインヒビターである。SHARP study と Asia-Pacfic study という二つのグローパルスタディにより進行肝がんに対しての明らかな survival benefit が示され、日本でも phaseT試験とこの二つのグローパル試験により、切除不能の進行肝細胞がんに対して承認された。現在、他の分子標的薬も first line、second line および根治的治療後のアジュパント、TACEの併用などで治験が進行中であり、また医師指導型臨床試験としても動注との併用およびTACEとの併用試験が進行中である。これらの結果が positive にでれば肝細胞がん患者の予後は数年単位で著名に延長されるものと考えられ、大いに期待される。

教育講演=胆道がん膵がん(司会:滝川一先生・講師:名古屋大学・腫瘍外科学 梛野正人先生=昭和54年名古屋大学卒が代理講演←北海道大大学院・腫瘍外科学 近藤哲先生)
胆道がん・膵がんともに根治切除のみが治癒を期待できる唯一の治療法なので、遠隔転移がなければ、まず根治切除の可能性を追求すべきである。肝門部胆管がんに対する手術術式は、約30年前繋明期の胆管ボーリング手術、約20年前の肝区域切除・尾状葉切除の導入、約10年前の肝葉切除による標準化、さらに最近ではがん手術の原点 に戻った血管合併切除を含めた en bloc 手術と進化を遂げてきている。それに伴い手術成績も向上してきており、胆管がん全体の5年生存率は胆道がん全国登録調査2002年報告では26%であったのが、2009年報告では33%に まで改善されている。国際的にみても日本の専門施設では手術死亡率が5%未満であるのに対し、残念ながら欧米からの報告では5-10%以上の死亡率が依然として続いている。術後死亡の多くは肝不全が原因であり、減黄・胆管炎予防目的の胆道ドレナージ、切除予定領域の門脈塞栓術など術前の肝不全を予防するための処置が重要である。しかし、欧米ではあまり積極的には用いられておらず、その有用性をエビデンスとして日本から発信することがのぞまれる。
最近のトピックとして「胆管断端の上皮内がん遺残の予後に与える影響」がある。乳頭膨張型などの限局型の胆管がんでは、2〜3割の症例で主病巣から連続して広範囲に上皮内がんが進展している(表層拡大進展)。術前術中には認識しづらいこともあり、切除断端に遺残することがまれでない。しかし、これが予後に与える影響はほとんどないとする報告が最近相次いでいる。胆管断端に遺残した上皮内がんが slow growing なことと、表層拡大進展を伴いやすい限局型胆管がんは分化度が高く浸潤能も低いため、一般的な浸潤型の胆管がんよりも予後良好なことがその背景にある。遺残した上皮内がんは slow growing で術後5年までの生存率に及ぼす影響は小さい。しかしながら、5年以上の晩期に吻合部再発をきたす症例がまれではなく、10年以上の長期生存を期待する場合には胆道鏡検査・生検で範囲を正確に診断し、断端陰性化を図るべきと考えられる。
進行胆嚢がんに対しても、欧米では肝楔状切除+胆管切除・リンパ節郭清までの手術で切除できるUlCCT 2 程度のがんが切除対象となっているが、日本ではT 3,T 4 腫瘍に対しても肝葉切除、膵頭十二指腸切除、血管合併切除などの拡大根治手術を積極的に行い長期生存例も得られているが、胆管がんに比べると手術死亡率、長期成績ともに劣る傾向にある。
膵頭部がんでは、欧米のみならず日本でも行われたRCTで、拡大リンパ節・神経叢切除は標準手術に比べて術後生存率を改善することはなく、QOLを悪化させることが明らかとなった。標準手術を行い速やかに術後補助化学療法に移行することがのぞましいと考えられる。ただしこれは標準手術でも治癒切除可能ながんを対象とした予防的拡大切除であり、神経叢に浸潤が明らかながんに対する手術とは別に考える必要がある。膵体部がんに対しては腹腔動脈合併切除により神経叢の en bloc 切除が可能であり、50例を越える自験例では MST 25ヵ月の成績が得られており、高い局所コントロール能を示している。
切除不能例に対しては化学療法が主体となるが、最近では gemocitabine 、TS-1の登場により実質的な効果がのぞめるようになった。それに伴い、長期間(6ヶ月以上)PRを維持している症例に対する切除適応とそのタイミングが最近のトピックとなっている。腫瘍残存部位の同定は困難であり当初の浸潤部位は原則切除となるため、高難度・高侵襲な手術となり外科チームの高い能力が求められる。


まとめると、「がん治療戦略海外との比較も含めて−」では世界先進水準に負けてはいるが、「消化器がん」に限っては、世界最高水準であるとのこと。日本の消化器科専門医レベル凄い高い!!!


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塚本内科消化器科の院長の耳学問のページです



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